対談中の袴田教授

ロシア人のメンタリティが生んだ「二頭体制」

 私の研究対象はロシア、およびCISと呼ばれる旧ソ連諸国。これらの国々をめぐる国際関係を、政治的・経済的現象の背景にある国民のメンタリティにも注目しながら分析しています。

 先ごろロシアでは、メドベージェフ新大統領が就任、首相となったプーチン前大統領とともに、史上例のない「二頭体制」がスタートしました。

 ロシア人は伝統的に「権威主義」的傾向が非常に強く、国であれ企業や組織であれ、自由や民主主義よりむしろ、強いリーダーのもとでの安定と秩序を求めます。だからたとえば、ロシア国外では悪名高いKGB(ソ連国家保安委員会)ですら、多くの国民は権力の安定に貢献する頼りになる組織と肯定的に評価します。プーチンが大統領に選ばれるときも、KGB出身という経歴はマイナスどころかむしろプラスになりました。

 そしてプーチン時代は、たまたまエネルギー価格高騰と重なって、石油、ガスなど資源輸出大国のロシアにオイルマネーと経済発展をもたらします。国民はこれをプーチンの指導力のお蔭と見て、支持率が急騰しました。世論調査によれば、彼が憲法を改定してでも3期目の大統領に就くことを、国民の圧倒的多数が望みました。

 しかしプーチンは、あえて身を引いた。そこには、ロシアがG8の一員となった今、憲法にのっとった政権交代を実行することで、「先進国」ぶりをアピールする方が得策だという計算もあったのでしょう。しかし一方で、後継者は独断で指名し、自らは首相の座に就いてその権限を着々と強化し、実質的な権力は維持しました。通常の民主国家では考えられないこの状況は、まさにロシア人のメンタリティが生み出したものと言えそうです。

 ただし、ロシアにおける「二重政権」は過去ほとんどが失敗に終わり、混乱の代名詞となっています。今回の「二頭体制」がその轍を踏むのか、それとも新しい状況が生まれるのか、全世界が注目しているところです。

対談中の袴田教授

経済に限らぬ日ロの良好な関係を

 ご存知の通り、我が国とロシアの間には「北方領土」という未解決の重要な政治課題があります。問題のポイントは、4島の経済的価値ではありません。主権が不当に侵された状態を放置することは、主権国家としてありえない。このままでは国際社会で、安全保障や外交の面で、一人前の国家として扱われなくなってしまいます。早急に異常事態を解消し、平和条約も締結して、日露関係を正常な姿に戻すことが望まれます。

 一方、両国の経済的な関係は、ここ1、2年で急速に深まっています。資源マネーで豊かになったロシア社会に、日本企業がマーケットとして注目し、自動車メーカーをはじめとして続々と進出しているのです。

 これに対し、ロシア側でも「日本再発見」の空気が強まっているようです。中東諸国のような単なる資源輸出国に終わらず、工業国として成長したいロシアにとって、資源を持たずに目覚しい経済成長をとげた日本には必要なノウハウがたくさんある。プーチンはじめ、私が話す機会を得た何人かのロシア高官も、率直に日本に注目していると話していました。

 かつて日本人はロシア文学を、日本文学よりも熱心に読んでいました。ロシアの高い精神性に裏付けられた文化的伝統には、とくに日本人をひきつける要素があるようです。むろん、古代、中世からの文化の水準の高さにおいて、我が国も負けてはいない。両文化が切磋琢磨する関係が築かれることを期待したいと思います。

 今後日露関係は、エネルギー資源の確保という経済面でも、対中・対朝鮮などの外交戦略の面でも、ますます重要なものとなっていくことは間違いありません。北方領土問題を解決して真に友好的な関係を築く必要もあります。私の研究が、ロシアを改めて知る際、お役に立てば幸いです。

国際人に不可欠な真の「教養」

袴田ゼミの様子

 国際政治経済学部は、グローバリゼーションの時代を先取りする斬新な教育拠点として82年に誕生した、「新しい青山」を象徴する学部です。

 その中にあっても、私のゼミは異色かもしれません。4年生には国際政治に関連するテーマを本格的に研究してもらいますが、3年生には、『源氏物語』やプラトン、ニーチェ、福田恒存をはじめ、文化や芸術、哲学について相当突っ込んで勉強させています。

 たとえ英語が流暢にしゃべれても、話す中身がなければ、かえって恥をかくだけ。「国際人」にまず必要なのは、物事の本質を深く理解し、それを自分自身の言葉で語れる力、すなわち本当の意味の「教養」を身につけることだと、私は考えています。

 そのためには、自国の文化はもちろんのこと、幅広い古典や芸術に直接触れてそれを味わい、感動するという体験を積み重ねなければなりません。これは、我が国の教育で非常に欠けている部分。大学3年では少々遅いけれど、このゼミが役に立てばと思うのです。

 毎週2コマ分の3時間が、伸びて4時間近くに。3年生は文化、4年生は政治について各自の研究を発表するわけですが、それを受けての全員のディスカッションは、ときに泣き出す学生が出るほど白熱します。かなりハードなゼミですが、就職活動中でも欠席者はほとんどいません。

 ここからどんな分野に進むにしても学生たちには、諸問題について自分の言葉で語れるという意味での国際人として、誇りをもって活躍してほしいと思います。

対談中の学生

学生の声

A.Oさん(国際政治学科4年)

 貧困や環境の問題への関心から国際政治経済学部に来ました。文化・芸術も勉強したくてこのゼミを選んだのですが、毎週原稿用紙16枚分のレポートなど課題が多いので、今では生活がゼミという感じです(笑)。

 書くという作業を通じて、自分がいかに物事を知らないか、自分の言葉を持っていないかを思い知らされます。発表は準備も大変だし、みんなのツッコミもきついけれど、それもよいプレッシャー。本当にこのゼミに入って良かったと思っています。

 先生はゼミの最中だと、かかってきた国際電話をも断ってしまう。そんなに私たちを大切に考えてくださっているんだなと身をもって感じています。

 将来については、興味が広がりすぎて、具体的な進路を迷っているのですが、じっくり考えます。

対談中の学生

T.Hさん(国際政治学科4年)

 国際政治への興味は高校の授業で。政治は理論をしっかり学ぶことが先決、などと考えていたのですが、1年生の入門セミナーで袴田先生のお話を聞き、専門知識だけでは薄っぺらな人間になってしまうのだと気づきました。

 「教養」なんて自分で本を読めばいいと言う友人もいますが、レポートを書くために内容を反芻する中で、初めて自分の中に定着していくのを実感しています。このゼミで学ばずに社会に出た自分を想像すると、少し怖い気が(笑)。

 卒論は、習っている茶道と絡めて鈴木大拙について書くか、あるいはソ連崩壊前後の法制度の変遷について書くかまだ迷っています。

 将来は法科大学院から弁護士になって、過疎地域などで働きたいですね。