トップ>オピニオン>原発事故から3年を経て

オピニオン一覧

奥山 修平

奥山 修平 【略歴

原発事故から3年を経て

奥山 修平/中央大学法学部教授
専門分野 科学技術史、現代技術論

本ページの英語版はこちら

函館市の大間原発提訴の意味

 今月3日に函館市が、青森県大間原発の建設中止を求めて、電源開発と国とを相手に提訴した。原発事故が起これば、被害が及ぶ30km圏に函館市はあるが、現在の原発設置に関する地元との同意手続きは、立地自治体とその所在都道府県とを対象としており、原発周辺自治体は除外されている。この問題は静岡県の浜岡原発の周辺自治体など全国で問題となっている。事故時の避難計画など、多くの自治体が求める対策が取られていないことを示している。おそらくは避難経路ひとつとっても、その確保が困難な場所に原発が立地している場合が多くみられる。福島原発事故の校訓が、全く生かされていない。

 そもそも福島原発事故を受けて、原子力規制委員会が、国際原子力機関の国際基準をもとに原発の周辺30km圏を緊急時防護措置準備区域(UPZ)と指定し、事故時に対応できるよう求めたのだが、依然として実効性のあるものとはなっていない。このことは日本の原発立地政策は、いまだ国際基準を満たしていないことを意味している。日本列島は、他の原発を設置する国々とは異なり、火山帯にあり地震多発地帯であるにもかかわらず、この状況である。

膨れ上がる被害額

 被害総額がまだ見えてこない。次々に追加支援の資金が投入される一方、被災者への支援打切りや削減がなされている。つまりこれは、被害額が初期の想定以上に膨らんでいることを示している。2011年12月時点での被害額は、住民への賠償や除染、原子炉の冷却などに5兆8千億円と見積もられたが、この被害想定額はあまりに低いといえよう。NHKが本年3月に試算したところ、11兆1600億円という数字があがった。この内訳の主なものは、除染費用が2兆5000億円、その中間貯蔵施設費用に1兆1000億円、廃炉や汚染水対策が2兆円、東京電力による賠償は5兆円を超えるという。当初見積もりが約2倍に膨らんだことになる。廃炉作業は30年を超えるため、被害額はさらに大きくなるのは確実であろう。誠実な賠償を行えば、43兆円と予想される国家の1年間の税収額にも匹敵するのではなかろか。1kWhあたりの電源別発電コストを見直した政府のコスト等検証員会は、被害額を5兆円と見積もった場合、原発は他の電源に比して安いとはいえない、と結論した。膨らむ被害額から見ると、コスト等検証委員会の見積もりもまだまだ甘いものであった。

 また福島県では震災関連死者数が1700人近くとなり、地震・津波による直接死者数1603人を上回っている。これは、同じ被災県である宮城県、岩手県に比して突出した数字である。この原因が原発事故による長期の避難生活にあることは容易に理解できよう。お金には換算できないこうした被害も深刻である。

再稼働問題をかんがえる

 震災・津波の記憶が風化し始めた、とよく言われるが、原発からの離脱を求める世論は依然として高い。即時廃棄案に将来的廃棄案を加えると圧倒的多数をしめる。その一方で電力会社を中心に、ただちに原発を再稼働することを求める声は強い。原発がほとんど動かないこの3年間で明らかになったことは、原発停止とは電力供給の危機ではなく、電力会社の危機であることだ。原発は他の電源とは異なり、維持管理費用が格段に高い。停止中でもこの費用はあまり変わらないため、再稼働を強く求めるのだ。

 日本の電力関係の予算は4000億円強であるが、その9割ほどは原子力関連に投入されている。自然エネルギーの研究開発は、その内で数パーセント程度である。原子力はこうした手厚い保護を得て成り立つ電源だ。政府は、将来のエネルギー政策を展望するのは3年後としているが、早期に再生可能エネルギーの将来図を定めて研究開発を進めることなしには、より安全で安価な電力供給はあり得ない。

 また天然ガスなどの燃料費が増大するというが、これもよく考えなければならない。新聞報道によると東電の新会長となった数土氏は、東電の現状について「一番の問題点は国際競争感覚の欠如だ」とし、「原価管理がおよそなかった。燃料の購買力が外国より劣っており、電気料金が韓国や米国の2倍以上になっている」、「現場力は空洞化し、事故やトラブルの責任の所在も明確でない」と語り、電力会社のあり方を批判している。日本の天然ガス価格は、アメリカの8倍もする。LNGとして輸送することが主要な原因だが、高値つかみの面も少なくない。同条件の韓国と比較しても15パーセント高い価格で輸入している。さらに政策的に円安にふったことも響いている。

 事故から3年が経過しても環境中に放射性物質が漏れる事態が継続している。これを止めることが第一。そして被害者の救済・賠償を誠実に行うこと、廃炉や汚染除去の道筋を確実にすること。これらが急を要する当面の課題であろう。航空機の場合、不具合が見つかれば飛行を止めて原因を探る。原発の場合も同じ基準が適用されるべきである。それがなされずに安易な再稼働をすすめることは、福島原発事故以前に戻るにすぎない。それは、またあらたな原発事故のはじまりとなってしまう。

奥山 修平(おくやま・しゅうへい)/中央大学法学部教授
専門分野 現代科学技術論
東京都出身 1948年生まれ
千葉大学理学部物理学科卒業、東京工業大学工学部研究生。芝浦工業大学工学部講師(1984−1993)、立命館大学国際関係学部助教授・同教授(1993−1997)を経て1997年より現職
著書 共著『原爆はこうして開発された』(青木書店、1990)
編著『電気技術史概論』(ムイスリ出版社、1991)
共著(地球環境セミナー第7巻)『有限の地球と人間活動』(オーム社、1993)
共訳 J.T.フレーザー著『自然界における五つの時間』(講談社、1984)