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平山 令二

平山 令二 【略歴

韓国の大学授業料半減策に学ぶ

平山 令二/中央大学法学部教授
専門分野 ドイツ語・ドイツ文学

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世界1の高授業料の国

 みなさんは世界で一番大学授業料の高い国をご存じだろうか。恐らく、アメリカという答えが多いと思う。実際、アメリカの有名大学では授業料は400万円を超えている。しかしながら、アメリカでも公立大学ではそれほど授業料は高くなく、また各種給付奨学金が整っていて、所得の低い家庭の学生には授業料減免措置が用意されている。実質的に世界1高学費の国は、韓国と日本である。いや、であった、と言うべきである。なぜなら、韓国では大学の高授業料を解消する政策が大胆に進んでいるからである。

朴槿恵政権下での授業料半減策

 きっかけは先の韓国大統領選挙であった。韓国では、経済格差や若者の高い失業率が大きな社会問題となり、加熱し過ぎた大学進学競争に批判の目が向けられるようになった。すなわち、ソウル大学を頂点とする有名大学を卒業しなければ一流企業に入れず、それどころか就職もままならないという現状を改革する必要が唱えられた。先の大統領選挙では、野党候補が大学授業料の半減を選挙公約とし、与党候補の朴槿恵氏も同様の公約で応じた。

 さて、ここからが日本と韓国の政治の違うところであるが、当選した朴大統領は授業料半減策を実行に移した。日本では、政党の選挙公約は往々にして破られ、国民もそれに慣れてしまっているところがある。しかし、日本同様に厳しい財政状況にある韓国では、朴大統領が大学授業料の半減化を実行に移したのである。

Education is our hope.

 お暇なときに、韓国の文科省にあたる教育部のホームページを見ていただきたい。そこには、次のような英文が載っている。

Education is our hope. Education is our future.

 日本同様に特別な資源のない韓国では、人こそすべてである。「教育は希望」であり、「教育は未来」である。しかしながら、世界1の高授業料の現状を変えなければ、若者が大学教育を受け、教育により自分の能力を伸ばし、社会に貢献するということにはならない、と韓国政府は考えたのである。他方、日本ではこれまで、大学教育で利益を得るのは本人だけだ、とする「受益者負担論」が政府・文科省の根深い考え方であった。だが、大学教育の受益者は本人だけでなく社会もまた受益者である、という考えが世界の主流である。

18歳人口の激減

 韓国政府が大学の授業料半減策に舵を切った背景には、深刻な少子化の現状がある。出生率では、韓国は日本以上に深刻であり、世界で最低水準にある。韓国政府の統計では、高校卒業者数は、2013年は約63万人だが、2018年には約55万人、2023年には約40万人と激減する。約5000万人と人口が日本の半分以下の韓国では、若者の数の減少傾向はより深刻である。そのような危機的状況を背景にして、これまでのような競争一辺倒、高授業料の大学政策では、減少する若者たちひとりひとりの能力を開発することはできない、と韓国政府は考えるようになったのである。

授業料半減後の学生の変化

 さて、授業料半減後、韓国の学生は変化したのであろうか。韓国政府が授業料半減策を実施する以前、ソウル市立大学では、すでに2012年から授業料半減策が実施されていた。市民運動家の朴元淳氏がソウル市長に当選し、貧困対策に熱心だった同氏がソウル市立大学の授業料半減を選挙公約としていたからである。授業料半減後の同大学の学生の変化について、ある日本の教育学教授が調査したところ、顕著な変化が見られたという。すなわち、当然のことながら勉学時間はかなり増えたという。アルバイトに費やす時間が減ったせいである。また、ボランティア活動をする学生も増え、各種選挙の投票など社会への関心も増加したそうである。学生たちが、自分の勉学は社会に支えられている、という自覚を持つようになったからである。

日本の進むべき道

 グローバルな競争の時代に、急激な少子化が進行するなか、韓国は若者の教育に大規模に国費を投入することを決め、実行している。これは、未来への投資と言えよう。他方、同じような問題に直面している日本では、大学生にはまだ給付型の奨学金がなく、高学費を解消する明確な方向性も政府・文科省は示していない。

 OECDの世界教育白書では、これまで日本と韓国の2か国だけ、「大学の授業料が高く、給付奨学金のない」という特異な国に分類されてきた。ところが、その韓国が授業料半減に乗り出している。日本政府が今何の策も示さないとすれば、日本は大学教育で世界の大勢に遅れをとり、将来は暗澹たるものになる、と断言しても過言ではないであろう。

平山 令二(ひらやま・れいじ)/中央大学法学部教授
専門分野 ドイツ語・ドイツ文学
1951年新潟市生まれ。東京大学人文科学研究科博士課程(ドイツ文学専攻)中退。山形大学講師などを経て、1984年より中央大学法学部勤務(ドイツ語担当)。専攻はドイツ語・ドイツ文化。現在の研究テーマは、レッシングやゲーテなどの18世紀ドイツ文学・思想。
ドイツのユダヤ人文化。ホロコーストからユダヤ人を救った人々も研究している。
趣味としては、小学生時代は円生にあこがれ落語家志望。中学・高校は劇画にあこがれ漫画家志望(「少年マガジン」新人賞に二度応募し落選)大学生時代は同人誌で小説を書いていた。どれも物にならず。