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成田 浩

成田 浩 【略歴

2020東京五輪は東京、日本を変えるチャンス

成田 浩/中央大学経済学部特任教授
専門分野 都市経営、地方財政

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1.五輪開催への懸念にも丁寧な対応を

 舛添都知事は先日五輪施設を見直すと表明し、①近隣県までを含めた既存施設の活用②整備工法の見直しによるコストの圧縮③環境などに配慮した会場設計の観点で見直し進めていく方針を明らかにした。カヌー競技の行われる「葛西臨海公園」の整備計画の見直しをはじめ今後その内容が明らかにされる。立候補ファイルでの施設整備費は1538億円だったが、最近の試算では3800億円を上回るとのことなので財政面からも見直しは欠かせない。

 ただ、現時点での見直しは五輪施設といういわば「点」に止まっており、今後、施設間や空港とのアクセスという「線」、さらには東京の街づくりという「面」について10年後、20年後を視野に入れた東京の青写真の早急な提示が望まれるところだ。また、今日、「震災復興が目的で五輪開催はその手段のはずなのに」とか「五輪開催の果実は東京に一極集中し、地方との格差は更に拡大する」との懸念の声が聞かれる。都政はそうした地方からの懸念、不満を払拭する努力を怠ってはならない。

2.再び、日本橋の上に青空を

本来の姿の日本橋
写真提供:中央区立京橋図書館

 ちょうど50年前になるが、前回の五輪では時間との勝負の中で、高速道路の整備にあたって河川や運河などの水路の埋め立てが行われた。その象徴が日本橋の上に覆いかぶさるように建設された高速道路だ。当時としては止むを得ない選択であったと思うが、2020年に向けては、こうした環境を犠牲にした前回の東京五輪の「負の遺産の解消」を是非行ってほしい。今日、首都高速道路のリニューアルは、喫緊の課題であり「首都高速の再生に関する有識者会議」からの提言も出され、都心環状線の高架橋を撤去して地下化するなどの選択肢が示されている。

 将来の利用者の負担も考えると、中央環状、外環、圏央道の3環状の整備が完成した暁には、都心環状線を廃止する一方、河川の復活などにより「水と緑の回廊」の実現を図ることを真剣に考えるべきだ。「道づくり・川づくり・街づくり研究会」の試算によると経費的にも地下化の約十分の一で済むのも魅力だ。お隣の韓国のソウルではチョンゲジョン(清渓川)の清流の復活が、大統領にもなったイ・ミョンバク元市長の強力なリーダーシップで実現した。江戸時代から「水の都」といわれていた東京は、是非、他山の石としたいものである。

3.2020年を「外国人受け入れ元年」に

 戦後約20年を経た前回の東京五輪開催時には、海外からの旅行者、観光客の受け入れが決まり、多くの外国人が来日するようになった。いわば日本の観光開国元年だった。昨年は海外からの旅行者が念願の1千万人を突破し、先日の観光立国推進閣僚会議では2020年を念頭に「訪日外国人2000万人時代」を打ち上げるまでに至っている。まことに結構なことだが、一方で、将来の日本の人口の急激な減少に対する認識が深まり、今日その処方箋が求められているのも事実。東京都も2020年から初めての人口減少時代に突入する。社会の活力を維持するためには、女性や高齢者に活躍の場を拡げるだけでは限界がある。先延ばしされてきた外国人労働者さらには外国人の受け入れについての日本としてのスタンスはっきり持つべきだ。

 現在、建設現場や介護・医療現場でのでの人手不足は大きな社会問題となっており、政府はその対策として外国人技能実習制度の改善と拡充を打ち出しているが、そういった弥縫策では解決が図られとは思われない。この間、自治体が先導して取り組んだ外国人との多文化共生の貴重な経験を生かすべきだ。2020年が生活者・住民としての「外国人受け入れ元年」になることを目標としたい。今も日本で暮らす約2百万人の外国人の2割が東京で働き、暮らしているが、より国際都市東京を鮮明にしていくために、海外経験の豊かな舛添知事の下で都政は積極的に発言し、具体的な施策を次々に打ち出したらどうか。舛添都政のセールスポイントとなるのではないか。

4.ユニバーサルデザインの都市に

 あまり知られていないが、パラリンピックの2回目の開催は東京が世界で初めてである。これを契機として、世界に誇れるような東京という都市のバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化が進むことも期待される。私案としては、①ベビーカーが利用しやすい街づくりと②横断歩道橋のバリアフリー化の徹底と撤去をあげたい。

 今日、子育て支援が唱えられているにもかかわらず、ベビーカーを利用している親にとって現在の輸送機関と都市構造は不都合なところが少なくない。国交省では協議会を発足させたが、その改善に向けた官民挙げての取り組みを期待したい。ベビーカーが利用しやすい街は、老人などの弱い立場の人にとっても生活しやすい街ともなる。

 かって「交通戦争」と言われた時代に一斉に整備された横断歩道橋は、都内では都道で約600、全国では1万を超す。築40年を超えているのも多い。「施設の仕分け」手法の発想で、役割を終えたものは積極的に撤去する。その一方で、地域にとって必要不可欠となっている歩道橋は、エレベーターの設置などバリアフリー化に直ちに取り組むべきだ。主要道路を跨ぐようにかかる歩道橋は、世界都市にふさわしい風景ではない。都市景観上も都市防災上も人にやさしい街づくりの上でも、極力「歩道橋ゼロ」の都市をめざす方向を望みたい。

5.世界平和の祭典というレガシーを

 幻の1940年の東京五輪は、世界平和を希求する嘉納治五郎氏はじめ関係者の努力で招致されたが、戦争の危機の深まる中、残念ながら返上された。

 最近の日・中・韓の関係は予断を許さない困難な状況にある。そうした中、安倍首相もそうだが、都市外交を預かる舛添知事は、姉妹都市である東京・北京、東京・ソウル間の緊密で良好な関係を粘り強く作り上げ、緊張緩和に寄与したらどうか。それが国際政治学者舛添知事ならではの仕事だと思う。そしてその延長線上に2020年の東京五輪があるのではないか。世界に向けて東日本大震災からの復興の姿をはっきり示すとともにアジアの平和実現の旗手としての役割を果たすこと、それが、2020年の東京五輪のレガシーとなると筆者はみている。

成田 浩(なりた・ひろし)/中央大学経済学部特任教授
専門分野 都市経営、地方財政
福岡県出身。1947年生まれ。
1971年東京大学法学部卒業 都庁入庁。
東京都では、ニューヨーク駐在員、ビッグサイト総務部長、財務局主計部長、出向して内閣官房都市再生本部事務局次長、港湾局長、産業労働局長を歴任。その後、自治体国際化協会で監事、JET事業・多文化共生担当理事を経て2012年から現職。
明治大学大学院ガバナンス科兼任講師、大田区多文化共生推進協議会会長、日本国際連合協会東京都本部理事、東京都開発審査会会長代理も勤めている。