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米元 悠さん

米元 悠さん【略歴

司法過疎の解消に向けて~石垣島の弁護士より

米元 悠さん/弁護士 八重山ひまわり基金法律事務所所長

石垣島での一コマ

バラス島。干潮時のみ現れる幻の島。

「先生、畑で穫れたグアバ持ってきたさ~」
「いやだから○○さん、そんなに気を遣わないでといつも言ってるのに~(しかもどうやって食べるんだこれ…)」
「いや~先生忙しいのに話聞いてもらうんだから、当り前さ~」

 初めまして、弁護士の米元と申します。沖縄県は石垣島にある八重山ひまわり基金法律事務所で働いています。修習後、東京の公設事務所で2年間勤務し、その後石垣島に移って2年弱になりました。

 冒頭の会話は、あるご高齢の依頼者さんと私との会話の一コマですが、南の島の暖かい気候風土の中で、このように温かな方々に囲まれて日々仕事をしています。

離島の法曹事情

事務職員2名と。お二人なくして、事務所は成り立ちません。

 まずは、石垣島の法曹事情をご説明します。

 石垣島(久利生検事や雨宮検事も勤務?)は、西表島、小浜島(ちゅらさんで有名)、竹富島、波照間島、与那国島(コトー先生の島!)などの島々からなる八重山列島にあります。与那国島は日本最西端、波照間島は有人島最南端、ということで日本の西南の端っこですね。人口は、八重山列島全体で約5万5000人です。

 この八重山列島を管轄するのが、那覇地方・家庭裁判所、那覇地方検察庁の石垣支部で、裁判所や検察庁の建物は石垣島にあります。同支部には、裁判官、正検事、執行官などが常駐し、少年鑑別所もあるので、だいたいの事件は石垣支部で取り扱うことができます。支部内には、私を含めて5人の弁護士が事務所を構えて活動しています。

 私が、石垣島で扱っている事件種別は、いわゆる都市の町弁の業務とさほど変わりません。金銭の貸し借り、不動産・登記、交通事故、労働、消費者、その他損害賠償などの一般民事事件、離婚・子の引渡し・相続・DV・後見などの家事事件、破産・再生などの債務整理事件、裁判員や少年も含めた刑事事件など、多くの事件が舞い込みます。

目指す道を見つけたエクスターンシップ

相談風景。柔らかな雰囲気作りに努めています。

 私が、石垣島で働くことになったきっかけは中大ロースクール在学中にあります。2年冬のエクスターンシップでお世話になったのが、東京フロンティア基金法律事務所という都市型公設事務所で、主に全国のひまわり基金法律事務所に赴任する若手弁護士を養成する事務所でした。

 ひまわり基金法律事務所とは、それなりの人口がありながら弁護士が少なく、市民に司法へのアクセス障害が生じているいわゆる司法過疎地域に作られた法律事務所です。任期付きで赴任した弁護士が、日弁連(ひまわり基金)の支援を受けながら、過疎解消のために働いています。

弁護士を身近に感じてもらうために~他機関との連携など~

平成26年3月28日の八重山ひまわり基金法律事務所の引継式を報じる地元紙(八重山日報)の記事。
写真右は、中大ロースクール修了生でもある宮地理子弁護士。

 そのため、私は、常に司法アクセス障害の解消を意識しながら仕事をしています。

 一口にアクセス障害といっても、その原因は様々で、弁護士が存在するだけで解消できるものではありません。

 まずは、心理的・知識的アクセス障害の解消が必要です。大都市圏に比較し、地方では、弁護士に相談すること自体により強いマイナスイメージを持たれる方が多いです。弁護士そのものに近寄り難い感覚を抱く方もいれば、弁護士に相談することでトラブルが地域に知れ渡ってしまうことを恐れる方もいます。また、そもそも法律があまり身近でない人も多く、自分が抱えているトラブルが弁護士に相談すべきものなのか判別がつかない方もいらっしゃいます。

 こういった心理的・知識的アクセス障害の解消のために、私は地元のFMラジオで平日3分ずつの番組を放送し、私の人となりを分かってもらい、簡単な法律相談にもお答えするなどしています。

 しかし、それ以上に効果的なのが、地域の他機関の方々との連携です。

 何かお困りごとが出来た時、市民のみなさんはどこに相談すると思いますか?

 身近な親族・知人に相談して解決できない場合、多くの方は、市や町の役場に相談します。高齢者であれば、ケアマネージャーさんやヘルパーさんなど福祉関係者に相談することも多いでしょう。

 このような普段市民と最も身近に接してお仕事をされている方々が、弁護士の存在や使い方を理解してくれれば、法的なトラブルを抱えた市民を弁護士までつないでくれますので、アクセス障害解消につながるのです。

 そうなるために、私は日常的に、市町の各部署や地域包括、配暴センター、病院、ケアマネ、他士業など、様々な関係機関の協議会・勉強会・相談会に参加し、時には講師、時にはオブザーバーとして、多くの方々と顔を合わせてお話しするようにしています。その中で、少しずつでも、私の人となりを分かっていただき、弁護士がどのような事案をどのように解決していくのかを理解していただくよう努めるのです。その結果、私の事務所に相談にいらっしゃる方々の多くが、こういった関係機関からの紹介をきっかけとしています。

 また、関係機関との連携は、アクセス解消のみならず、その後の円滑な事件処理にも役立ちます。例えば、DVに悩む女性がご相談に来られた場合、私と配暴センターの職員とで相談に立ち会って方向性を決めると、生活保護申請を市の職員が、シェルターの確保や保護命令申立支援を配暴センターが、離婚調停・訴訟は私が、というように、それぞれが役割分担することで、事件を円滑かつ迅速に解決へと導くことができるのです。

 アクセス障害は、他にもあります。例えば、なかなか事務所まで相談に来られないという物理的アクセス障害。離島が多く、高齢者も多い八重山列島では、特に顕著です。この物理的アクセス障害は、暫定的に親族や福祉関係者からご相談を受けることや、私が病院や自宅、老人ホームなどを訪問してご相談を受けることで解消しています。また、弁護士費用の支出という経済的アクセス障害も問題になりますが、無料相談や費用の立替・分割払いを可能とする法テラスの制度を広く告知することで対応しています。

 このように、少しでも弁護士を身近に感じてもらうための、地域の方々と密着した活動が、司法過疎地域の弁護士業務の醍醐味とも言えます。八重山ひまわりは私で3代目ですが、先代弁護士からの尽力のおかげで、少しずつ八重山地域のアクセス障害も改善されてきていると思います。

まだまだ残る、司法過疎地の課題

石垣といえば、やはりサンゴ礁でダイビング!

 しかし、「改善」はされても、「解消」とは程遠い、というのが実情です。

 八重山地域で言えば、私の事務所での法律相談は1~2週間待ちの状態で、よほどの緊急事案でなければ、すぐにご相談には乗れない状況です。そういう意味ではまだまだ弁護士の絶対数が不足しているのかもしれません。さらに、少し離れた与那国町など、実際にご相談を受けることがほとんどない地域もありますし、石垣島に弁護士がいるとは思わなかったとおっしゃる方にお会いすることはまだまだ珍しくありません。弁護士の存在を認知してもらう活動を、もっと続けていく必要があります。

 さらに、全国に目を向けてみると、弁護士がいても一人だけで、利益相反の問題から当事者の片方からしか相談を受けられない地域があったり、支部に裁判官が常駐せず、数か月に数日しか期日が開かれない地域があったり、支部では扱わない事件種があるため(例えば、石垣支部でも労働審判は利用できません)本庁管轄内に比べて司法サービスの質が劣ったり等、さまざまな問題が山積しています。

「日本中のあらゆる地域、すべての市民に平等な司法サービスを!」というのが、司法過疎解消に尽力する全ての法曹関係者の目標ですが、そのためのハードルはまだまだ高いです。これからも、多くの方々の助けを得ながら、少しずつでも司法過疎の解消のために、進んでいきたいと思っています。

米元 悠(よねもと・ゆう)さん
弁護士 八重山ひまわり基金法律事務所所長 http://yaeyama-law.com/index.htmlnew window
昭和58年 神奈川県川崎市生まれ。私立栄光学園高等学校、東京大学法学部卒業。
平成22年3月 中央大学法科大学院修了。
同年9月 司法試験合格。仙台にて修習(新64期)
平成23年12月 弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所入所(第二東京弁護士会)
平成26年1月~ 現職(沖縄弁護士会)