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和田 知彦さん

和田 知彦さん【略歴

離島で弁護士をするということ~奄美大島から~

和田 知彦さん/弁護士、弁護士法人あすなろ奄美支所 奄美あすなろ法律事務所支所長

南の島の弁護士となって

奄美大島南部の透き通った海

 私は、奄美大島という南の離島で弁護士をしています。奄美大島は鹿児島県の離島で、大雑把に言えば沖縄の北、屋久島の南、といったところでしょうか。

 南国なので、冬の一時期を除いては、1年を通じて暑い日が続きます。亜熱帯気候なので梅雨明け後の一時期を除いては雨も多く降ります。雨も急に降って来たり止んだりするので、私は一度傘をなくして以来、傘も持たなくなってしまいました。外で雨が降れば雨宿りをして小雨になったら移動するという具合です。

 奄美での仕事は、東京や大阪とはだいぶ違います。奄美は気候も文化も習慣も本土とは何もかも違うので都会では起きないいろんなことが起きます。日本語は通じるけど、外から来た人にとっては外国のように感じることもあります。2007年にNHKで奄美の裁判所に赴任した裁判官をモデルにした「ジャッジ」というドラマが放送されました。主人公の西島秀俊が扮する裁判官は島で起こる様々な種類の事件に奮闘するのですが、私も弁護士として島で起こる様々な事件に取り組んでいます。今回は、そんな島での仕事や生活を紹介したいと思います。

奄美に来ることになった理由

奄美大島の夕陽

 私は、中央大学法科大学院を修了して司法試験に合格後、東京での司法修習を経て、東京の法律事務所で弁護士として仕事を始めました。私が最初に入った事務所は東京フロンティア基金法律事務所という事務所です。ここは公設事務所と呼ばれる事務所で、その名のとおり、誰か個人の事務所ではなく、弁護士会が設立した事務所です。事務所の理念は、お金がある人でもお金がない人でも誰でも等しく必要なときは弁護士に相談をしたり依頼をしたりできる社会にするというものです。私は、個人事務所から企業まで様々なところをまわったのですが、公設事務所の設立趣旨やそこで働く弁護士の生き生きとした姿に共感し、その事務所で働くことに決めました。

 東京での依頼者は個人から会社まで様々でしたが、私にとっては、やっと念願の弁護士になってする仕事だったのでどれも思い出深いものでした。

 こうして私は東京で仕事をしていたのですが、ある時、奄美で仕事をしないかという話が来ました。話を聞いてみると、大阪に本店がある事務所で、そこの支所が奄美にあるのだが後任として行かないかということでした。奄美がどこにあるのかもはっきりとは知らなかったのですが、とりあえず話を聞いてみたいと思い、連絡をとり、まずは大阪に行くことになりました。

 実際に初めて奄美に行ってみると、なによりも豊かな自然と青い海、島のおいしい食べ物、そして親切な島の人たちに歓迎してもらい、ここで仕事をしてみても面白いんじゃないかという気持ちになりました。そんなきっかけで今は奄美で弁護士をしています。東京で司法試験の勉強をしている時は、まさか自分が将来奄美に行くことになるとは思いもしていませんでした。

奄美の法曹事情

沖永良部島の美しいビーチ

 私が奄美に住居を移したのは2016年の1月からです。奄美は正式には奄美群島といって、奄美大島、喜界島、加計呂麻島、請島、与路島、沖永良部島、徳之島、与論島の8つの有人島からなっています。人口は奄美群島全体でおよそ12万人、そのうちおよそ半分の6万人が奄美大島に住んでいます。

 奄美群島全体で、弁護士は5人います。島出身の弁護士もいますが、島外から弁護士の不足を解消するために派遣されてきている弁護士が大部分という状況です。このあたりの事情は病院の医師とも似ていると思います。

 奄美群島には、鹿児島地方裁判所の名瀬支部と徳之島出張所の2つの裁判所があります。名瀬支部には常駐で2名の裁判官と1名の簡裁判事がおり、必要に応じて徳之島の出張所に出張して裁判を開いたりもします。裁判所がない離島の場合は、公民館に出張して調停を行うこともあります。裁判員裁判のような特殊な事件は鹿児島市の鹿児島地方裁判所で扱いますが、それ以外の多くの事件は島内で処理されています。

奄美での弁護士活動

プロペラ機で出張に行くこともよくあります。

 私の事務所には、主に奄美群島の島民から様々な相談や依頼がきます。

 基本的には事務所に来ていただいて相談を受けますが、お年寄りの方や入院をされている方からの相談があった時は、御自宅や病院まで相談内容を伺いに行くこともあります。

 奄美では電車は走っていないので、移動は基本的に車か自転車です。奄美にはたくさんの集落が残っているのですが、集落の道は狭いので、軽自動車に乗っています。今乗っている車は酒屋さんが配達に行くような四角いワンボックスの軽自動車なのですが、休日に遊びに行く時も荷物がたくさん載るので重宝しています。

 奄美で仕事をするようになり、飛行機に乗る機会が本当に増えました。奄美群島の別の離島に行く場合は飛行機を使うことが多いですし、鹿児島市や東京方面や大阪方面に行くこともあります。奄美群島の離島に行く際はプロペラ機で行くことが多いです。小型のプロペラ機に乗って青い海を越えて島と島の間を移動するのはちょっとした旅行気分も味わえるかもしれません。船で移動することもあります。加計呂麻島という奄美大島の隣の島に行く時は、自分の車をフェリーに載せて移動します。

 事件の種類は東京にいた頃とそこまで大きくは変わりません。種類で違うと言えば、東京にいた頃にやっていた建築に関する専門的な紛争などはほとんどありません。あとは、著作権などの知的財産に関する相談や企業間の大きな紛争もなかなかないといったところです。

 逆に若干多いと感じるのは、土地に関する問題、相続、離婚、交通事故などでしょうか。

 奄美で仕事をしていると、南の島ならではのこともいろいろあります。奄美は離島で人間関係が近いことが一つの特色だと思います。それだけに、知り合いも多く、みんなで助け合っていくという精神が自然と残っていると思います。一方で、何か問題が起きて人間関係が抉れてしまうと、それがずっと尾を引いてしまいかねないという問題もあります。弁護士に相談や依頼をするということは、抱えている問題を表面化させることも意味します。そうなった時に、周りがどう反応するのかといった周りの目を気にしてなかなか言い出せないというのはよく聞く話です。法律的にどうなるのかという結論も大事ですが、どういう経過を辿って解決に導くのが当事者にとって良いことなのかということも常に考えなければなりません。人間関係が近いからこそ話し合いのプロセスを大事にする必要があります。

 島外に出て東京や大阪や鹿児島などで生活をしている奄美出身者もたくさんいます。そのため、相続が発生すると、相続人が各地に散らばっているため、なかなか話合いができなかったりすることもあります。こうなると裁判所で調停をすることになるのですが、どこの裁判所で調停をするのがいいのか悩むこともあります。相続の問題に限らず、島外に相手がいる事件や島外からの依頼も比較的多くあります。私も常に島外の裁判所で手続をする事件を何件も抱えています。

 奄美は、観光地としても注目を集めていて、ホテルやクルーズ船の寄港地を作ろうといった開発計画などもあります。一方で、奄美の魅力である手付かずの自然をどうやって残していくのか、世界自然遺産登録に向けた活動も活発化している中で、奄美の将来像とも関係してくる問題であろうと思います。

奄美での生活

島の独特の食材。島では猪や山羊も食べることがあります。

 仕事という面では、やっぱり大変なことが多いような気がするのですが、それでも、裁判や調停でも自分だけで悩まずに弁護士に相談してみて良かったと言ってくださることもあり、弁護士の数が少ないだけに責任を感じます。島にいると、知り合ったいろいろな方が食べ物などをくれます。こちらに来て、食事に困ったことはないですし、基本的に島の人は親切でこちらから入っていけばいろいろな場面で助けてくれます。

 郷に入っては郷に従えと言いますが、仕事にしても、生活にしても、そこでのやり方を踏まえてやっていかないとうまくいきませんし、自分も楽しめないと思います。

 もちろん、不便に感じることがないわけではありません。離島なので、スーパーに並ぶ食料も船便で本土から送られてきているものも多いです。台風が来ると船便も止まってしまうので牛乳や生鮮食品が品切れになることが多いです。家具や家電を取り寄せようとしても、高い離島送料に阻まれてほしいものを買いにくい時もあります。

 東京にいた時のように大きなお店で買い物をしたりすることはありませんが、それは東京に帰省した時の楽しみなのだと思います。奄美では周りの人がいろいろくれますし、食事もなじみのお店に行けばその日にある材料で料理を作ってくれます。島の人の家に呼ばれて食事をするようなこともあります。

島で採れたサザエをつぼ焼きにしていただきます。

 今のところ平日は相談や裁判所での対応に追われることが多く、休みがあまりとれていないのですが、休みをとれた日には、釣りや貝採りに出かけるなど色々な楽しみ方ができます。友人が遊びに来たときは、アマミノクロウサギやウミガメやクジラを観察に出かけたり、原生林に出かけたり、海に潜ったりと、奄美の大自然を満喫しています。今年の夏は、地元の舟漕ぎ競争にも仕事で関係している方々と一緒に出場しました。舟漕ぎ競争というのは、昔ながらの和船の板付け舟を7人で漕いで競争する催しなのですが、夕方に練習で舟を漕いでいると一時仕事のことを忘れて熱中できます。

奄美における今後の弁護士の役割

喜界島の一面に広がるサトウキビ畑。ウォーターボーイズのロケ地になりました。

 今後は、奄美でもいろいろな仕事が増えてくると思います。顧問をさせていただいている会社の中には島外で事業を展開するところや、外国とも取引をするところがでてきています。島外との関わり合いが増えると、島でのやり方だけでは対応が難しくなってきます。そうした時に弁護士がどのような形で事業を助けることができるのかというのも一つの課題だと思っています。

 私が所属する事務所は本店が大阪にあるのですが、大阪の事務所は個人の方からの依頼だけでなく、契約書の確認や事業再編など企業の仕事も多く扱っているほか、外国との渉外事件や環境事件などにも対応をしています。

 奄美でも専門性をもって対応をしなければならない案件が出てきており、そのようなときは、大阪の本店とも協力をして対応しています。これにより、弁護士は私一人の支所でも実質的には複数の弁護士で専門性のある案件や大きな規模の案件にも対応できるようになっています。奄美には外国から移住してきている方もいらっしゃるので、外国人の方から相談が来ることもあります。そんな時はやはりある程度は英語で対応することも必要になります。外国語に拒絶反応を示しているようでは弁護士としての役割を果たすことができない場面が離島であってもでてきているのです。

 このように、離島であっても奄美の場合は様々な仕事があり、弁護士が専門性をもって対応できるようになることが求められているのではないかと思います。

 一方で、今後どこまで時代が変わっても、地域ごとの特色は残り続けると思います。法律が社会のルールである以上、地域の特色が反映されることが避けられません。奄美で弁護士として活動をする以上、奄美の人の考え方や特色を踏まえて仕事をしていくことが必要です。島で仕事をしてみて、弁護士の仕事内容や役割は、扱っている分野だけでなく、それぞれが活動をしている地域によっても変わってくるのだと感じています。今後も、地域の中でどのような役割を果たしていったらいいのかということを地元の方と一緒に模索していきたいと思っています。

和田 知彦(わだ・ともひこ)さん
弁護士、弁護士法人あすなろ奄美支所 奄美あすなろ法律事務所支所長
昭和56年 東京都生まれ。自由の森学園高校卒業,早稲田大学法学部法律学科卒業
平成22年 3月 中央大学法科大学院修了
平成24年 9月 司法試験合格 東京にて修習(66期)
平成25年12月 弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所入所(第二東京弁護士会)
平成27年11月 弁護士法人あすなろ新規ウィンドウ入所
平成28年 4月~現職(鹿児島県弁護士会)