我々の目は、宇宙の方には向きますね。空を見上げれば星が見えますから。ところが足の下となると、非常にわかりにくい。しかし、ものすごく興味深いテーマなんです。マグマの噴出や地殻の変動などは、科学的なことに興味がある少年にとっては、ひとつの夢であります。地球の極点が移動したり、地軸が逆転したりというのが現実にあったということは、もしかしたら日本が突然北極になったりすることも、ないこともない…。SFというのはそういうところを楽しむわけですが、そんな中で、マグマの溶解した大圧力の世界へ入っていくというのを実写として作ったのは、これが恐らく初めての映画ではないかと思います。
今回の物語は、停まってしまったマグマの対流を復活させるまでの人間の苦闘を描いているわけですが、基本的に人間というのはいつの時代も変わらないもの。その前提でこうした映画が作られるわけで、それを見ると不思議な気がするんです。人類というのはなぜ未来志向の考え方をするのか、地球の成り立ちや未来を思う気持ち、あるいはなぜ宇宙へ行きたがるか、それは生命体として存在している時間を少しでも延ばしたいという本能が人間を駆り立てているんだと思います。そういうものを無意識のうちにDNAが持っているために、人間は過去・現在・未来を認識する初めての高等生物として地球上に残った。恐竜は空を仰いだり騒いだりしているうちに小惑星が衝突して絶滅した。その一撃がなかったら人類自体が生存したかどうかもわからない、そういう現象が起こっているわけです。ですから、この映画で描かれているような事態がいつ起こってもおかしくはないわけです。
先日テレビを見ていたら、ニュートリノの研究をされているノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんが、地下2000メートルに探査機を据える話をしていました。私自身そういう探査機の前に立ったことがあります。そうしたら光の筋が自分の体の方から出ていくんです。つまり宇宙から来た宇宙線が自分の体を貫通して向こう側へ行くわけです。何も感じませんが、我々はこうしている瞬間も宇宙から来るものを浴びている。ただし地球磁場という存在が、生命体に障害を起こさせない程度に太陽風や宇宙線などから守ってくれているんです。私はこの映画で描かれている、地球を防御している電磁波のガードがなくなったらどうなるかというのは、決して誇張ではないと思います。宇宙というのは人畜無害の無の空間ではなく、我々の目には見えない物質が充満した、生きた世界なんです。考えようによっては恐ろしい世界。我々は地球磁場に守られて無事生存しているわけなんです。
地球儀を見ると、なぜ陸地が北極側にかたよっているんだろうと不思議に思いませんか。でも過去にさかのぼると南極の方に陸地が集まっていて、それが段々北上してきた。なぜ北極へと地殻の上層部が動いていくのか、不思議な気がします。地球は裸にすると本当に不思議な世界です。アフリカ大陸にあるグレートリフトバレーという断層に沿って低空飛行で飛んだことがありますが、そういうのを現実に目にすると、人間の一生ははかないものだなと感じます。そうはいっても人間に生まれたのだからしょうがない。人間は人間として種の保全に恐らく死力を尽くすだろう。この映画もそういう作品です。
いずれは実際にマグマ探査船みたいなものができる可能性はあります。それは何のためにやるんでしょう。人間は過去・現在・未来を概念として掌握した瞬間から、未来を考えます。人間に与えられた本能的な使命として、生きとし生けるものの命を守るために自然から与えられた能力が、科学技術だと私は思っております。人間はそういうところに気がついているはずですから、自分たちが生き延び且つ地球上のあらゆる生物を守る役割を人類は受け持っている存在だと固く信じております。
我々がまだ知ることができないのが実は足の下なんです。見えないがゆえに最も手強い相手です。宇宙よりもわかりにくい世界だと思います。しかしそれが私たちの現在も未来も、子孫たちの運命も握っているわけです。しかしその中でも人間は、食べ且つ生きていかなければなりません。その基本は地下に行こうが宇宙へ行こうが同じです。ですからみなさんもしっかり食事をなさって健康に留意して、精神的防御装置を、つまり心臓に大いに毛を生やして、元気に頑張ってください。そして、時々こういう映画を見て、SFとはいえ、ある時もしかしたらこういうことが起こるかも知れないと空想することも、心臓に毛を生やすのに有効だと思います。
この映画は2時間を越す大作ですが、長さを感じさせない演出の巧みさは素晴らしいですね。画面的に大変良くできておりますし、理屈もきちんとしておりますので、これを見て地球の内部を考えていただければ、この中から、もしかしたら将来地震を予知して損害を未然に防ぐ人が生まれるかも知れません。人の本能というのはそういうもので、ちょっとしたきっかけが触媒となって、何かを成し遂げるわけです。どうか存分に心を開放して楽しんでください。
5月28日(水)よみうりホール『THE CORE』特別試写会にて
【松本零士】
「宇宙戦艦ヤマト」のほか、「銀河鉄道999」、「宇宙海賊キャプテンハーロック」など、宇宙への夢や地球の謎をテーマにした作品を数多く発表している。現在も精力的に新作を発表しながら、日本宇宙少年団理事長、宇宙開発事業団参与なども努める。
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