YOMIURI ONLINE タイアップ特集

おとなの煙談

各界で活躍する素敵な“おとな”たちが、人生の楽しみやライフスタイルを語る連載シリーズ。示唆に富んだその言葉から、人生のヒントを見つけてみては。

第5回 ハードカバーが書店に並ぶ作家であり続けたい

羽田 圭介さん作家

 高校生のときに作家デビューを果たし、昨年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞。これまで10年以上にわたって創作活動を続けてきた羽田圭介さんに、小説に対する考え方や作家という仕事への思いを聞いた。

本を読まない人の気持ちに気づいて

羽田 圭介さん [プロフィール]

『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞しましたが、実は心境の変化はあまりないんです。作家生活12年目での受賞だったので、それだけ書き続けていれば、いずれ引っかかることもあるだろうと(笑)。ただ、受賞によってテレビの仕事をいただくようになったので、生活スケジュールという面では大きく変わりました。

 

 この春まではテレビ番組の収録が多く、読書量がかなり減ってしまいました。これまでそんな生活を経験したことがなかったので、初めて「仕事が忙しくて読書どころじゃない」という人の気持ちがわかったんです。これはある意味、作家として大きな収穫でしたね。それ以来、普段小説を読まない人が、少ない時間の中でただ1冊手に取るとしたら、それはどんな小説だろうかと考えるようになりました。

 

 その答えとしては、読み始めたときの“表面の面白さ”がずっと続く小説がいいのかなと。以前は起承転結のはっきりしたものが読みやすいだろうと思っていましたが、自分がその立場になってみると違うんですね。例えば週刊誌の下世話な記事を読んでいるときのワクワク感、あれがずっと続く本がいいのだろうと。だから今、下世話感を出しながら純文学に仕立て上げる、そんな作品を書いています。

モチーフを膨らませているときが一番楽しい

 小説は、細部をしっかり積み上げていくことが大事かなと思います。プロットだけに頼った小説は好きではないですね。芥川賞受賞に関しても、「苦労の末の受賞」みたいな安いプロットに当てはめられるのは、創作者として嫌なんです。実際はずっと文芸誌に書いて原稿料をもらっていましたし、正直言って食うに困るような時期はありませんでした。

 唯一つらかったのは作家活動に起伏がないという“のっぺり感”です。受賞前は、新刊を出しても書店に並んでいない、手応えが感じられないという時期が続きました。かといって抜け出し方もわからないし、作家のほかにできることもない。あったのは、次にいい小説を書こうという思いだけでした。

 アイデア帳を見返してモチーフを膨らませているときは楽しい瞬間です。その後、モチーフの魅力を引き出すにはどうすべきかと考えて、人物や舞台設定を決めます。ただ、僕にとって執筆自体は「作業」という感覚が強いですね。作家の仕事は、頭の中で無責任に妄想を広げられる「楽しみ」の部分が数%。残りはすべて、その妄想を正確に言葉に落とし込む作業の連続だなぁと。

集中力が散漫になったら睡眠で回復

 僕の場合、仕事の区切りがないんですよ。原稿完成時、新刊発売時など、作家の仕事は節目っぽいものがいくつもあるぶん、明確な区切りがない。先日新作小説の第一稿を書き終えたときは、達成感を味わおうと思って、招待されていたアイドルのライブに初めて行ってみました。達成感はともかく、単純に楽しかったので、それはそれで行ってよかったです(笑)。

 僕は作家活動が本業ですので、テレビ出演は普段とは違う脳を使えるという意味で、執筆中の息抜きに当たるかもしれません。あと、区切りとして心がけているのは、睡眠ですね。集中力が散漫になったら、1時間寝ればまた集中して書ける。たばこを吸う人は一服が息抜きになるのかもしれませんが、僕は吸わないのでこの方法です。

 大学のときは友だちのほとんどが喫煙者だったので、喫煙所にもよくついて行っていました。たばこに対しては共感も反感もなくて、嗅覚が鈍いこともありにおいを不快に感じたこともありません。以前『隠し事』(河出書房新社)という小説で、主人公の意外な面を見せたくて、たばこを小道具として用いたことがあります。読者からも、「あっ、この人こんなことするんだと思った」という声がありました。

ハードカバーが書店に並ぶ作家であり続けたい

 この夏は来年発表予定の小説を書いていました。最初に「このモチーフでいこう 」と決めたとき、これはじっくり時間をかけたら上手くいかないかなと思ったので、テレビの仕事を抑えて執筆に集中する時間を作ったんです。執筆にかかる時間は作品によって違って、早く書いた方がいい場合もあれば、時間をかけた方がよくなる場合もあります。

 その辺は書き始める前に自分でわかるので、今後もテレビの仕事とうまく調整できればなと思います。テレビの仕事はやはり刺激になりますし、積極的に出てひんしゅくを買った方が自分の成長になるかなというつもりでいます。僕には、休みの日はいりません。午後に遊びまくる日でも、午前中には仕事をします。さっきも言った“のっぺり感”が一番嫌ですし、仕事から逃れているうちは人生進まないと思っています。

 今後の目標は、ハードカバーが書店に並ぶ作家であり続けること。以前は、テレビに出れば出るほど本も売れるだろうと思っていましたが、最近はそうでもないなということがわかって(笑)。やはり自分の考えるいい小説、細部のしっかりした小説を書いていくしかない。これからも人生の真ん中に小説を据えて、引き続き取り組んでいきたいと思います。

羽田 圭介さん

はだ・けいすけ/1985年、東京都生まれ。明治大学商学部卒業。高校在学中の2003年に『黒冷水』で第40回文藝賞を受賞。以降も定期的に作品を発表し続け、芥川賞など多数の賞の候補となる。2015年、『スクラップ・アンド・ビルド』で第153回芥川賞を受賞。現在、執筆活動のかたわらバラエティー番組などでも活躍中。他の作品に『ミート・ザ・ビート』(文藝春秋)、『隠し事』(河出書房新社)、『メタモルフォシス』(新潮社)など。11月には新作『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』(講談社)が刊行される。

バックナンバー

[広告]企画・制作 読売新聞社広告局