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気になる“ふるえ”の正体は?本態性振戦の基礎知識
本態性振戦の基礎知識

 手のふるえのために人前で文字を書くのをためらってしまう、パーティーなどで乾杯が上手くできない、箸がふるえてご飯が食べられない、などの悩みはありませんか?ふるえはよく遭遇する症状ですが、単なる寒さや緊張によるものではなく、病気が原因で日常生活に支障がある場合は治療が必要です。そこで、ふるえが起きる代表的な病気のひとつである本態性振戦(ほんたいせいしんせん)にフォーカスし、日常生活での注意点、その治療法などについて2名の先生方にお話をうかがいました。

ふるえが気になったら

名古屋共立病院 津川 隆彦 先生

ふるえの原因と種類を知ろう

 ふるえは医学的には振戦(しんせん)と呼ばれ、身体が自分の意志とは関係なくリズミカルに動いてしまう状態を指します。ふるえが起きる代表的な病気としては、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、アルコール依存症、脳血管障害の後遺症、パーキンソン病、本態性振戦などがあります。ふるえが原因で来院される患者さんの多くはパーキンソン病と本態性振戦ですが、それぞれ症状が異なり、ふるえの種類をきちんと把握することが大切です。本態性振戦は原因がはっきりとは分かっていませんが、中高年に多くみられ65歳以上の5~14%以上に発病しているとの報告があります1、2)。じっとしているときよりも、文字を書く、食事をするなどの動作時や、特定の姿勢を取ったときにふるえが現れるという特徴があります(表)。また、ご家族に本態性振戦の方がいる場合は発症しやすい傾向があります。

表:本態性振戦とパーキンソン病の違い
  本態性振戦 パーキンソン病
発症しやすい年齢 中年以降に多いが、若い人にも発症する 中高年に多い
ふるえが起こる部位 手、頭、声 手、足
ふるえの特徴 動作時、特定の姿勢を取ったときに出現する 安静にしているときに出現する
症状 ふるえのみ ふるえ、筋肉のこわばり、動作がゆっくりとなる、歩行困難
書字 線が流れるなど大きく乱れる 文字が次第に小さくなってくる

(津川先生 提供)

本態性振戦のふるえとは?

 本態性振戦では、過度な緊張やストレスでふるえが強まることがわかっています。また、気にしすぎると余計にふるえが強まることもあるので、十分な休養を取ってリラックスするとともに、必要以上にふるえを気にしないこと、周りの方もふるえを指摘せずに暖かく見守ることが大切です。また、お酒を飲むとふるえが収まることがありますが、肝臓の病気やアルコール依存症になってしまうなどの恐れもありますので、注意してください。手のふるえのほか、頭のふるえ、声のふるえなどの症状が出ることがあります。

 もしかして本態性振戦かもしれない、と心配な方は、右のチェックリストの項目がいくつか当てはまるようでしたら、神経内科の先生に相談してみてください。

本態性振戦の治療

奈良医療センター 平林 秀裕 先生

治療のながれは?

 本態性振戦の治療は、まずお薬による治療から開始します。その後、効果が得られなかったらボツリヌス毒素療法や手術療法へと進んでいきます。

 まずお薬による治療ですが、ふるえが軽い場合は必要な時のみです。ふるえが強くなり、日常生活に支障が出てきたら交感神経の高ぶりを抑えてふるえを静めるβ遮断薬を服用します。しかし、服用により血圧が下がるため、ふらつきがでることがあります。また、β遮断薬で効果が得られない場合は抗不安薬や抗てんかん薬を用いますが、副作用として眠気が出ることがあります。このなかで保険適用となっているのはβ遮断薬のアロチノロールのみです。

 お薬で効果が得られない場合、筋肉の麻痺を引き起こすボツリヌス毒素を注射して筋肉の緊張を緩和させることでふるえを抑えることもあります。

手術の新しい潮流

 お薬などで効果が得られずに、日々の生活や社会活動への影響がある場合は手術療法の適応となります。高齢の患者さんの場合、手術による効果と合併症をよく検討してから実施するか判断します。

 本態性振戦という病気は神経回路の働きの異常から起こるといわれていますが、手術療法は体の働きをコントロールする脳の神経回路の部位のひとつ、視床腹側中間核という神経が集まっている場所を治療のターゲットとします。手術の方法として、凝固と刺激という2つのアプローチがあります。高周波凝固術(RF)は凝固させることでふるえを抑えますが、視床腹側中間核の近くには手足を動かす神経や言葉や飲み込みに関係する神経があり、凝固巣が大きくなると麻痺やろれつがまわらなくなるなどの合併症が起こることがあります。一方、脳深部刺激療法(DBS)という手術は、電極を視床腹側中間核に留置し、電気刺激によりふるえを抑制します。この手術のメリットは電気刺激の強さを調節でき、様子をみながら治療にあたれることですが、体内にペースメーカーを留置する必要があり、電池交換や刺激調節などのメンテナンスが必要です。

 これら2つの手術は頭蓋骨に穴を開け、電極などを脳内に挿入する必要があるため出血や感染症のリスクがありました。一方、近年注目されている集束超音波治療(FUS)という手術は、ふるえの原因となる視床腹側中間核に超音波を集めて凝固破壊します。MRI(磁気共鳴画像装置)で治療部位を常に観察するため頭蓋骨に穴を開ける必要がなく、出血や感染症のリスクが低く、術中に凝固巣をモニターしながら手術するので、麻痺や知覚障害などの合併症が比較的少ないことが特徴です。

 いずれにしても医師とよく相談し、患者さんに最も適した治療を選択することが肝要です。

1)Moghal S, et al. Neuroepidemiology 1994;13:175-178.
2)Louis ED,et al. Mov Disord 1996;11: 63-69.

ふるえが気になったら「気になるふるえコールセンター」フリーダイヤル0120‐260‐704(ふるえなおす)

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