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※掲載の肩書は取材当時のものです。

改めて日韓関係を問う

石澤 靖治(学習院女子大学長)

 最近は、隣国の韓国についてコメントする場合、とても神経を使う。それだけ日韓関係が難しい状況にあるからだということに他ならないが、あえてこの欄で述べておきたいことがある。それは、韓国との交流は重要であり、より友好を図るべきだということである。そのように書くと、「いかにも大学の学長が言いそうな模範的なきれいごとだ」と思えるかもしれないが、我慢して読んで欲しい。

 従軍慰安婦問題においての誤解にも基づく行動は残念だし、指導者の反日的な言動は支持できない。だが、ちょっと待って欲しいと思うのは、韓国経済を牽引してきたサムスン、現代自動車、ポスコなどがかつての輝きを失いつつあり、「それみたことか」というような論調が目につくことだ。なかでも、日本のエレクトロニクス企業を駆逐したサムスンの業績にブレーキがかかったことに対して、小気味いいような論調が報道の語感から伝わってくる。日本企業と競合関係にあるこれらの会社の動向を注目することは当然だが、事実はそうだとしても、私はそれを誇張することはあまり生産的なことだとは思わない。

 勢いを減じたとはいえ、彼らがこれまで成長してきた要因の一つには、日本企業がやれなかったことを大胆に推し進めてきたからに他ならない。サムスンであれば、時流を的確に読んだ上で思い切った投資を行ったことであり、現代自動車であれば、一般的な顧客により合わせた製品開発とサービスを提供したこと、ポスコであれば日本の鉄鋼メーカーにはない大量集中生産方式を導入してコスト競争力を引き上げたことなどであろう。この分野の識者によれば、彼らのビジネスは日本からの人員引き抜きも含めた促成栽培であったために、独自の技術開発などの面で壁にぶち当たりつつあるという。

 しかしながら、彼らの大胆かつ徹底した経営は、日本の大手企業の経営者たちが指摘されながらも行えなかったものであったことは事実であり、日本としては大いに見習うべき点であるはずだ。

 エンターテインメントの世界に目を転じても同様である。一時の韓流ブームは影をひそめた。ブームには終わりはあるものだが、それと同時に最近の二国間の軋轢が反映していることは確かである。しかしながらそれが最盛期であったころ、ドラマではないがテレビで目にした韓国出身の女性音楽グループのパフォーマンスは、素人の私にも日本の著名グループよりも、確実にレベルが上であることがわかった。

 韓国はエンターテインメントの国内市場が限定的であるために、初めから世界のマーケットを視野に入れて彼女たちを育成しているという。一方日本では1億2000万人とGDP500兆円の国内マーケットの中だけで完結し、満足している場合が少なくないように思える。世界を見据えてパフォーマンスを磨く韓国アーティストの姿には敬服する(ただし、業界の労働環境は好ましいものではないという話も聞くが)。またそのパフォーマンスに接することは、日本のエンターテインメントにとっても貴重である。

 一昨年の冬に韓国を訪れ、日韓関係に関心をもつ識者たちと話をする機会があった。その際にお互いに納得しあったのは、日本は努力を重ねて従来からあったものを改善して素晴らしいものにすることに優れ、韓国はドラスティックな行動に強みをもつという点、そして、その両国が手を握れば最強のパートナーになれるはずだという点であった。

 韓国と中国とのこれまでの深い歴史的な関係や、アメリカと中国を含めた東アジアの安全保障など、日本と韓国をとりまく状況は単純ではない。ただ確実なことは、両国の関係が改善することでのメリットが極めて大きいということである。そのような環境を整えたいものだが。

[2014.09.26]
プロフィール

石澤 靖治(学習院女子大学長)

石澤 靖治(学習院女子大学長)
1957年生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。フルブライト奨学生として留学。ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(MPA)後、「ワシントンポスト」極東総局記者、ニューズウィーク日本版副編集長などを経て、2000年より学習院女子大学助教授、02年より同大学教授、2011年より現職。博士(政治学)。「日本はどう報じられているか」(編著、新潮社)、「大統領とメディア」(文芸春秋)、「戦争とマスメディア」(ミネルヴァ書房)、「テキスト現代ジャーナリズム論」(ミネルヴァ書房)など著書多数。

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