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※掲載の肩書は取材当時のものです。

世界の今 トランプのアメリカ

伊藤 元重 (学習院大学国際社会科学部教授)

 トランプ政権の将来を一言で表現すれば、不透明・不確実ということになるだろう。歴代の政権でも突出した低い支持率でスタートしている。半分以上の国民がトランプ政権を支持していないのだ。トランプ大統領にとっては与党のはずの、共和党議会との関係もうまくいっていない。その象徴的な出来事が、3月末に議会を通す予定で、それができなかった医療法案である。

 オバマケアと呼ばれるオバマ大統領による医療法案を廃案にするという意味では、トランプ大統領と共和党議会は意見が一致していたが、トランプ大統領の提出した案は、抜本的な改革を求めている共和党の保守派からは中途半端であったし、弱者の保護に理解を寄せる穏健派にも支持されなかった。要するに議会の合意を得られるような案をトランプ大統領は出せなかったし、議会を掌握することもできなかったのだ。

 これ以外にも、トランプ政権は当初からいくつかの点でつまづいている。中東など特定の国からの移民を制限する法案は裁判所に差し止めされている。ロシアとの関係の疑惑については、毎日のように報道が流れている。私も3月末に一週間ほど米国にいたが、テレビはどのチャンネルをつけても、ロシア問題と医療法案で盛り上がっていた。

 トランプ政権がこのような状況に陥るのは、選挙前から、ある程度予想されていたことだ。要するにトランプ大統領の政策公約があまりにも極端であり、現実にそれを実現しようとすれば、大きな困難に直面するのは火を見るよりも明らかであったのだ。

 トランプ政権成立の原動力の一つが、ラストベルトと呼ばれる地域の貧しい白人層であった。自動車や鉄鋼などの産業が海外企業との競争に破れ、企業も海外に流出する中で、厳しい経済状況に追い込まれた人たちだ。アメリカの雇用を守る、海外からの移民を制限する、中国からの輸入に関税をかける、などと声を荒げるトランプ大統領の主張は説得的に映ったのだろう。

 しかし、冷静に考えてみれば、輸入に関税をかけるとか、米国の貿易赤字を解消するために海外に圧力をかけるといったトランプ政権の政策は、かりに実行されたからといって、プアホワイトと呼ばれるこれらの人たちを豊かにするものではない。むしろ、彼らの生活をさらに追い込む可能性さえあるのだ。

 気になるのは、国内の政策運営がなかなかうまくいかない中で、トランプ政権が日本や中国やドイツに対する批判の声を高めていることだ。国内で成果が出ない時には、海外を叩くというのは、どの政権でも行われる常套手段である。ただ、もし貿易摩擦が再燃するとなれば、これは日本にとって大きな打撃となりうる。

 もっとも、あまり悲観的な議論だけをすべきではない。トランプ政権が掲げる減税政策や歳出増加が実現すれば、これは日本経済には大きなプラスの効果が期待できる。トランプ政権発足後、日本では円安・株高という動きが続いたのは、トランプ政権のマクロ経済政策への期待感があるからだ。

 発足以来の一連の政治的困難に直面して、トランプ政権も少しずつ現実路線の方に軸足を移してくれることを期待したい。当選前の極端な政策論議を封印すれば、トランプ政権が推進しようとする政策の中には日本にとって好ましいものも少なくないのだ。

 いずれにしろ、今のまま極端な路線を突っ走るのか、それとも現実路線に軸足を移しいくのかわからない。だから、冒頭に、当面は不確実と不透明の状況が続くと書いたのだ。

[2017.4.10]
プロフィール

伊藤 元重 (学習院大学長)

伊藤 元重 (学習院大学国際社会科学部教授)
2016年より学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。専門は国際経済。税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員等を多数歴任。新聞やテレビでの発信、多くの著作など幅広く活動を行なっている。
伊藤元重研究室ホームページ

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