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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【日本の今】 金融機関に顧客本位の業務運営を――フィデューシャリー・デューティー

神田 秀樹 (学習院大学法科大学院教授)

 現在、金融庁の重要施策として「国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換」が掲げられ、それを実現する方策として「金融機関等による顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着」が掲げられている。そこでは、課題として、①手数料稼ぎを目的とした顧客不在の金融商品販売と②商品・サービスの手数料水準やリスクの所在が顧客に分かりにくいこととが挙げられている。そして、金融審議会の市場ワーキンググループでの検討に基づいて、平成29年3月30日に、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」の確定版を公表し、金融事業者にその受け入れを呼びかけることになった。

 日本では1700兆円を超える家計金融資産のうち未だにその過半が現預金であり、米英に比べて株式・投資信託等の割合は低く、また、過去の日本の家計金融資産の伸びは米英に比べると低い水準にとどまっており、家計の安定的な資産形成が図られているとはいえない。そこで、国民の安定的な資産形成を図るためには、すべての金融事業者が顧客本位の業務運営に努めることが重要であるいうのが、金融審議会の市場ワーキンググループにおける認識である。

 このたびの原則はプリンシプルベースの原則として策定されたが、その背景には、これまでのルールベースの規範は、規範が最低基準(ミニマム・スタンダード)となり、金融事業者による形式的・画一的な対応を助長してきた面があるという反省がある。金融事業者が自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベストプラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムが実現することが望ましい。

 近年、金融機関に適切なガバナンスを求めることの重要性がよく指摘される。今般のプリンシプルベースのフィデューシャリー・デューティーも、その適切な管理すなわちガバナンスが要求される。しかし、顧客本位の業務運営というのは、金融機関の経営マターとしてだけではなく、営業店の現場において実践されることが何よりも重要である。営業店の現場における意識改革を通じてフィデューシャリー・デューティーが実践され、真に「国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換」が進むことを期待したい。

(注)プリンシプルベース・・・金融機関が尊重すべき原則を示して、各金融機関がそれぞれの置かれた状況に応じて、形式ではなく実質において原則の趣旨を実現することを目指す監督手法。金融機関がとるべき行動について詳細に規定するルールベースと比べて、金融機関の自主的取組みを促進するメリットがある。

[2017.4.17]
プロフィール

神田 秀樹 (学習院大学長)

神田 秀樹 (学習院大学法科大学院教授)
2016年学習院大学法科大学院教授。東京大学名誉教授。専門は会社法、金融法、証券法、信託法。
理論的研究のほか国際的・学際的な研究を行なう。
2016年の金融審議会市場ワーキンググループでは座長として報告書の取りまとめにあたった。
主著として、『会社法入門(新版)』(岩波新書、2015年)、『会社法(第19版)』(弘文堂、2017年)など多数。

学習院大学法科大学院
神田教授をはじめとする著名な研究者教員と経験豊富な実務家教員による徹底した少人数教育を行っています。
7時から23時まで利用できる自習室、蔵書67万冊を誇る法経図書センターなど大変充実した設備を用意しています。
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/g-law/lawschool/

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