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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【カーマン・ラインを超えて】 アルツハイマー病研究と治療法開発のいま

高島 明彦 (学習院大学理学部生命科学科教授)

 アルツハイマー病は老齢期に発症する認知症の大部分の原因となる病気で、記憶障害から始まり認知機能障害となります。罹患率は65歳ぐらいから増加が始まり75歳では10%となります。その後、5歳増えるごとに罹患率は2倍ずつ増加し90歳では60%となります。

 2008年から始まった家族性アルツハイマー病家系の発症者、未発症者600例を対象にしたDIAN研究(Dominantly Inherited Alzheimer Network)では平均発症年齢が46歳でした。未発症者では発症の25年ぐらい前、21歳頃からタンパク質の代謝に変化が見られ、脳萎縮は31歳になる頃から(発症15年前)、記憶障害は36歳頃(発症10年前)から観察されるようになり、41歳(発症5年前)になると認知機能低下が起こることが報告されています。これは家族性アルツハイマー病の例ですが遺伝子変異がない場合でも同様に認知症を発症する数十年前から脳の中では変化が起きているということです。65歳から75歳で認知症を発症する場合は40-50代の時から脳の中に変化が起きていることが予想されます。ですから、この年代の食習慣、運動、ストレスなどの生活管理が老年期の認知機能維持に大きな影響を与えると考えられます。

 GWAS(Global Wide Association Study)からアルツハイマー病の遺伝的な危険因子として11個の遺伝子が見つけられました。これらの遺伝子には血管形成、免疫、炎症、神経細胞同士の結合に関与する遺伝子が含まれています。これらの遺伝子がどのようにアルツハイマー病発症と関与するのかは世界中の研究者が調べているところです。これにより、これまで疫学調査によって明らかにされたアルツハイマー病のリスクを下げる生活習慣について遺伝子レベルでの理解が可能になってきています。例えば、ポリフェノールなどの抗酸化物質、魚(EPAやDHA) の摂取、運動習慣がアルツハイマー病の発症を低くするというのは血管機能の維持によって発症を防いでいるという可能性が考えられます。また、抗炎症剤を処方されているリューマチ患者にアルツハイマー病患者が少ないというのは炎症を抑制されているからだと考えられます。さらに知的生活習慣がアルツハイマー病発症リスクを低減するのは神経細胞同士の結合の能力を保つためであると考えられます。

 2013年にロンドンで行われたG7サミットでは各国で協力して認知症研究を進め2025年までに認知症治療薬を創出することで合意されました。これまでβアミロイド(アルツハイマー病の脳で見られる老人斑と呼ばれる凝集塊)を取り除く薬の臨床試験が行われていますが、凝集塊を取り除くことはできるのですが認知症進行を止めることができていません。現在ではβアミロイド以外の標的を見出すための基礎研究が進められています。

 私たちの研究ではアルツハイマー病で神経が死んでしまうのを防ぐ薬を既存薬の中から見出しました。動物を用いた実験では効果、安全性が確認されていますが、認知症治療には長期間の投与が必要で、この薬では心臓に負担がかかるだろうという可能性が予想されています。超高齢化社会を迎える現在、高齢者に対する認知症治療薬開発を進めるためには認知機能を含めたQOLを勘案することが必要なのかもしれません。

[2017.5.8]
プロフィール

高島 明彦 (学習院大学理学部生命科学科教授)

高島 明彦 (学習院大学理学部生命科学科教授)
理学博士。理化学研究所アルツハイマー病研究チームリーダー、東京工業大学生命理工学部客員教授、長寿医療研究センター分子基盤研究部部長を経て、2016年より学習院大学理学部教授。
アルツハイマー病の世界的な基礎研究者として活躍。微小管結合タンパク質のひとつである「タウ」に注目して、加齢とともに認知症がなぜ起こるのかを分子レベルからモデル動物を用いた研究まで行い、認知症治療薬開発へ繋げる「脳を守る」研究を行っている。

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