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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【日本の今】 若者とシルバーデモクラシー

平野 浩 (学習院常務理事・学習院大学法学部教授)

 7月2日に実施された東京都議会議員選挙は、自民党の歴史的敗北と都民ファーストの会の大躍進という結果に終わった。しかしこの結果が、充実した政策的論戦によってもたらされたと感じる有権者は少ないはずだ。森友・加計問題や「組織的犯罪処罰法」に始まり、防衛大臣の「誤解」を招く発言、果ては暴言議員の乱入から秋葉原での安倍首相事態まで、自民党には幾多の逆風が吹きつける一方、都民ファーストは築地・豊洲問題に玉虫色の解決方針を示しつつ、何らかの都政改革に期待する有権者の気分を追い風として都議会第一党となったが、そこに東京の、更には日本の将来像に関する噛み合った議論の入り込む余地はなかった。多くの有権者、特に将来を担う若い有権者たちは、何を基準に投票先を決めれば良いか、大いに困惑したであろう。

 さて、若い有権者と言えば、一年前の参院選では18歳選挙権が大きなトピックスとなった。そこでは若者の投票参加への期待がシルバーデモクラシーへのネガティブな視線と共に語られることが多かった。シルバーデモクラシーとは、有権者中の高齢者率が高まることにより、政治家が高齢者に受けの良い政策を打ち出すようになり、結果的に高齢者の声が大きく反映される政治となることを指す。特に日本では、20代の投票率が最も低く、そこから70歳前後まで年齢に従って直線的に投票率が高まっていくため、単なる人口比以上にシルバーデモクラシーが促進される土壌があると言える。

 そこで「若者よ、投票に行かないと損するぞ」といった叱咤激励とも冷笑的揶揄とも取れるアドヴァイスが盛んになされることとなる。当の若者たちの間でも、こうした認識が(少なくとも理屈としては)広く共有されているようだ。しかし、である。

 「だから損しないように、みんなで投票に行こう」ということ自体は決して間違ってはいないが、そこには大きな限界もある。それはこの議論が結局のところ「数の論理」という土俵に乗っかっているからである。絶対数で高齢者が勝っている以上、ある程度投票率を上げたとしても、若者が票数で高齢者に敵わないことは動かしようのない事実である。

 ならば、何を考えるべきか。未来の高齢者として現在の高齢者(かつての若者)と交渉し、協力することである。現実問題として、介護や子育てなど世代間の協力が無ければ成り立たない事柄は多い。ゼロサム的な視点ではなく、高齢者への共感や想像力を持って交渉、説得を行い、若者のために声を挙げてもらう道を探る他はない。

 利害対立の現実を無視した「きれいごと」に見えるかもしれないが、単純に「投票率を上げて若者の利益を政治に反映させよう」と考えるよりは、遥かに現実的である。

[2017.7.10]
プロフィール

平野 浩 (学習院常務理事・学習院大学法学部教授)

平野 浩 (学習院常務理事・学習院大学法学部教授)
1959年大阪府出身。82年早稲田大学政治経済学部卒業。88年学習院大学大学院政治学研究科博士後期課程修了・政治学博士(学習院大学)。愛知県立大学専任講師、明治学院大学助教授を経て、01年より学習院大学法学部教授。専門は政治心理学、政治過程論。著書に『変容する日本社会と投票行動』、『有権者の選択』(いずれも木鐸社)など。14年10月に学習院常務理事に就任(総務・高等教育担当)。

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