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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【世界の今】 文政権は二兎を得られるのか?

鄭 有希(チョン・ユヒ) (学習院大学 国際社会科学部 准教授)

 2017年5月10日、文在寅(ムン・ジェイン)氏が第19代大韓民国大統領に就任した。文大統領は自身が「雇用大統領」であることを宣言し、韓国における最重要課題である就職難・失業難を新たな仕事の創出を通じて解決することを約束した。

 韓国の統計庁によると、若年層(特に、主就業者の20-29歳)の失業率は2014年から10%を超えており、直近の2017年4月では11.3%という2000年以降で最も高い失業率を記録した(4月基準)。このように、長年にわたり構造化された若年層の失業と雇用縮小の問題が特に顕著になっている現在、多くの国民が雇用問題の解決を文政権に期待しているのは間違いない。しかし、韓国政府は雇用問題だけではなく、これまで看過されてきた労働問題(労災保険など)の改善にも真剣に取り組む必要があるだろう。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2016年における韓国の年間平均労働時間(全就業者平均の1人当たり年間実労働時間)は2,069時間であり、OECD加盟国中3位であった。これは近年過労死を社会問題として取り上げ、国全体としてその防止策(働き方改革)を積極的に推進している日本の1,713時間と比較するとかなり長いと言える。また、2013年、オンラインコミックを発信する“DogHouse Diaries”は世界銀行の各種統計やギネス世界記録などを参考に各国を象徴する言葉を付した世界地図「WHAT EACH COUNTRY LEADS THE WORLD IN」を作製した。その世界地図に韓国は「workaholics(仕事中毒者)」の国と表記されており、このことからも韓国における長時間労働問題が深刻であることがわかる。

 実際、韓国ではIT業界や国家公務員、そして郵便配達員に至るまで分野に関係なく過労死が増加している。しかし、韓国の労災補償システムにより労災と認定される範囲は狭く、特に過労による自殺が労災と認定されるのは非常に難しい状況である。一方、日本では2014年6月27日に公布された過労死等防止対策推進法により、過労に基づく病気や精神障害、そして自殺までを労災の範囲として含めている。このことから、韓国でも過労死等防止対策推進法の立法化の必要性について議論されている。

 もちろん、これまで韓国政府が労働問題に全く取り組まなかったわけではない。むしろ、歴代どの政権もさまざまな角度から労働政策を提示し、雇用の拡大を通じた「経済成長」と「労働問題の改善」、すなわち二兎を得る政策の実行を試みてきた。しかし、世界金融危機や不安定な世界情勢などの要因によって韓国経済の成長が鈍化するにつれて、経済の全体的な二極化及び雇用構造の悪化(若年層の就職難や中小企業の求人難など)に直面した韓国政府は、労働問題の改善よりも雇用創出を通じた経済成長を優先してきたのである。

 文政権は雇用創出に対する政府の積極的投資が家計所得を増やすことで、消費と生産の増加につながる経済好循環構造を生み出すことを主な内容とする「J-nomics, Jaein + Economics)」を掲げて出発した。とりわけ、労働政策については、①新たな仕事の創出と②労働時間及び非正規労働者数の減少、③雇用の質の向上を代表的な公約としており、パブリックセクターで81万の新たな雇用を創出すると同時に、ジョブ・シェアリングを通して労働時間の短縮と50万の雇用創出を目標に設定している。

 文政権がパブリックセクターで雇用問題の解決策を探ることについては、現在高く評価されている。しかし単純に量的なこと(雇用創出)だけではなく、労働の質の改善まで解決できるのかに対する懸念は残る。新政権の労働政策が机上の空論で終わるのではなく、雇用創出を通じた「経済成長」と「労働問題の改善」の二兎を得ることを期待したい。

[2017.11.6]
プロフィール

鄭 有希(チョン・ユヒ) (学習院大学 国際社会科学部)

鄭 有希(チョン・ユヒ) (学習院大学 国際社会科学部 准教授)
2011年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程修了(博士(経営学)学位取得)。2011年明治大学大学院経営学研究科・特任講師、2013年立命館大学経営学部・准教授を経て、2016年より学習院大学国際社会科学部にて教鞭をとる。専門は組織行動論、 人的資源管理論、及びキャリア論。これまでの研究の一部は、Human Relations, The International Journal of Human Resource Management, Journal of Managerial Psychology 誌などに掲載されている。

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