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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【日本の今】 パラリンピックと東京

荒井 啓子(学習院女子大学 国際文化交流学部 教授)

 2017年11月29日、東京都オリンピック・パラリンピック組織委員会は、その日を「東京2020パラリンピック開催まであと1000日!」という節目の日として掲げた。「すべての人にとって『アクセシブル』で『インクルーシブ』な社会を構築すること」を目指し、そのための具体的な取り組みの推進をより強調し各種イベントによってそのビジョンを伝えていた。施設や設備のバリアフリーだけでなく社会の意識やシステム全体が障がい者や高齢者などに対応できるアクセシビリティ(Accessibility)や、障がいの有無や性別や年齢に関わらずすべての人が共に心地よく生きることを意味するインクルージョン(Inclusion)の考え方とその実現は、パラリンピックを通じて有形・無形のレガシーとして開催都市東京だけでなく日本中さらには世界中に広まり遺ることが期待される。

 パラリンピックの歴史を遡れば、1948年、ロンドンのストークマンデビル病院(脊髄損傷科)の科長であった医師ルードリッヒ・グットマン(「パラリンピックの父」)が、ロンドンオリンピックの開会式に合わせて16名の車椅子使用者によるアーチェリー大会を開催したことに端を発する。この大会はその後毎年開催され、1960年のローマオリンピックの際に開かれた「第9回国際ストークマンデビル大会」が後に「第1回パラリンピック」となった。1964年の東京オリンピックの際には「第2回パラリンピック」として引き継がれ、現在では4年に一度の世界最高峰の障がい者スポーツ大会となっている。

 パラリンピックの参加資格はEligibility(障がいがあること)とQualification(競技成績が世界最高レベルであること)である。つまりパラリンピアンはトップアスリートでなければならない。したがって、その努力と卓越性は計りしれない。国際パラリンピック委員会(IPC)は、パラリンピアンたちに秘められた力こそが、パラリンピックの象徴であるとする。それらは、「勇気」(Courage:マイナスな感情に向き合い、乗り越えようと思う精神力)、「強い意志」(Determination:困難があっても諦めず、限界を突破しようとする力)、「インスピレーション」(Inspiration:人の心を揺さぶり、駆り立てる力)、「公平」(Equality:多様性を認め、創意工夫をすれば、だれもが同じスタートラインに立てることに気づかせる力)という4つの価値で示されている。より豊かな社会を創造するための「メッセージ」が込められている。

 今、東京は、2020東京パラリンピックに向かって具体的な準備を着々と進めている。建物や施設のバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化、パラリンピック教育のための教材の提供、様々な人が利用しやすい「ジャパンタクシー」の開発などが挙げられる。それらは「すべての人にとって『アクセシブル』で『インクルーシブ』な社会を構築する」ための一環であり基盤であるが、他方、パラリンピックのもつ「メッセージ性」を理解し「心のバリアフリー」を成熟させていくことも同時に重要であろう。

 今年の9月までIPCの会長を務めていたフィリップ・クレーブン氏は、自身も英国の車椅子バスケットボールの代表であった経験を伝えながら「人々が違いを認め合ってはじめてより良い豊かな世界を作ることが出来る」(読売新聞編集委員・結城和香子氏によるインタビュー記事より)と語っている。すべての人がそれぞれの違いを理解し合い、ひとりひとりのwell-being=心地好さを尊重することによって、パラリンピックの「メッセージ」はより生かされより意義深いものとなるであろう。

 東京2020パラリンピック=「第16回パラリンピック競技大会」は、2020年8月25日から9月6日まで東京で開催される。

[2017.12.18]
プロフィール

荒井 啓子 (学習院大学 国際社会科学部)

荒井 啓子(学習院女子大学 国際文化交流学部 日本文化学科 教授)
東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)。学習院女子短期大学助手、武蔵野短期大学助教授を経て、1998年より学習院女子大学国際文化交流学部教授。
スポーツ人類学、スポーツジェンダー学を中心的な研究領域とし、近年では「オリンピックと異文化理解」を主なテーマとして「女性-スポーツ-文化論」の展開を試みている。

日本オリンピック・アカデミー専務理事

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