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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【日本の今】 AIと雇用

守島 基博(学習院大学 経済学部経営学科 教授)

 47%! オックスフォード大学のフレイ氏とオズボーン氏が試算した、今後20年ぐらいに機械によって代替されるかもしれない米国の雇用者の割合である。野村総合研究所は、オズボーン氏と共同で、日本についても同様の試算を行い、49%という数字を発表している。今後20年で、AIにより約半数の人が仕事を失う、と理解されたこの推定は大きな驚きと恐れをもって社会に受け止められた。

 ただ、この推定値には批判も多い。慶應義塾大学の山本勲教授によると、まず、推定の基礎となるデータが、研究者に聞いた機械学習(研究者はAIという言い方をせずに、広く機械学習とよぶ)による代替可能性に関する予測である点である。その問いには「ビッグデータの利用を条件として、この職業のタスクはコンピュータで制御された機器で充分遂行できるようになりますか?」が使われた。

 もう一つの批判が、他の条件をほぼ無視していることである。例えば、機械学習装置の価格である。オズボーン予測はコスト無しで、技術が人に取って代わると想定している。仮にAIがとても高価だとすると、人からの代替はなかなか進まないであろう。

 さらにもっといけないのは、機械学習の進展は技術革新だから、当然生産性を上げ、生産性の向上は新たな雇用を創出する。つまり、失われる仕事がある反面、新しく生まれる仕事があるはずで、これも無視している。

 こうした批判は、オズボーン氏も理解しているようであり、自分の推定値が日本でそこまで大きな話題になっていることに驚いているという。端的に言えば、こうした推定値は、推定の前提となっている条件や他の要素をどれだけ考慮しているかに依存し、巷で聞く9割が仕事を失うというような極論は、AIと雇用の関係についての予測としては余りにも単純であるということである。

 ではAIと雇用の関係は、どう捉えるのが正しいのであろうか。ここで考えるべきなのは、AIと雇用との関係を、職務モデルではなく、タスクモデルで考えることである。両方とも、一人が行う職務は複数のタスク(課業)からなっているという前提は同じだが、職務モデルとは、そのタスクの全て(つまり職務丸ごと)がAIによって代替されると想定した考え方である。

 対して、タスクモデルとは職務を構成するタスクのうち、一部はAI等の技術によって代替されるが、残りは代替が難しいという考え方である。言い換えれば、一人が担当する仕事のうち、機械で代替できないタスクが必ずあるということである。図で示すと、上の考え方が職務モデルであり、下の考え方がタスクモデルとなる。

図1

 例えば、教師の仕事を考えてみよう。これまで行ってきた知識を伝達したり、学生の学習状況をテストで確認したりというような作業は、機械にとって代わられる可能性が高い。また大学で言えば、入学試験などという作業はビッグデータと機械学習を用いて、より正確な合否判定が可能になるだろう。

 これに対し、一人ひとりの学生の心に寄り添って、必要ならば助言をし、人生観に影響を与えるというような役割は、機械によってできるようになるのはずっと先のことであろう。機械というのは、どんなに膨大だとしても、これまでのデータに基づいて判断を下すのは得意だが、相手の心を理解し、進むべき道を一緒に考えるというような作業には(少なくとも現時点は)とても不向きだからである。

 したがって、鉄腕アトムが教師になる時代までは、人間がやるべきタスクはまだまだ残ると考えられる。人間はそうしたタスクで価値を発揮し、必要とされることは充分にあるはずで、全ての職務で職務全体がAIに取って代わられるわけではない。現在、雇用とAI等技術革新の関係については、こうした議論が行われることが多い。

 ただ、同時にタスクモデルは、一人ひとりが担う職務の内容または質には、大きな影響を与えるという予測でもある。なぜならば、これまで図1で5つのタスクを担って、一つの職務として付加価値を提供し、一人前の給与をもらってきた人が、今度はタスク4とタスク5だけを行って同じぐらいの付加価値を提供し、賃金をもらわないといけないのである。教師の例を使うとすれば、いわゆる知識の伝達等の仕事は機械の方が効率的かつ効果的にやってくれるのだから、学生の悩みを聴く、心の成長を支援するといった機械で代替できない部分で大きな付加価値を提供しなければならない。

 言い換えれば、教師という仕事の内容、さらには教師として必要な能力やスキルなどが大きく変わるのである。よりカウンセリング的なスキルや傾聴力、アドバイス力などが必要になるだろう。というかそこしか教師が必要とされる場面はなくなるのである。さらに、大学など教育機関での教師育成の形も変わってくるだろう。

 AIは、雇用の量を大きく変えるのではなく、これまで私たちが仕事(例えば、教師、医者、サラリーマン等)として考えてきたものの内容を変え、その仕事に就くために必要なスキルや求められる能力を大きく変える可能性がある。働く人一人ひとりが身に着けるべき能力の内容も変化し、教育機関としての大学にとっても見過ごせない技術革新なのである。

[2018.1.22]
プロフィール

守島 基博 (学習院大学 国際社会科学部)

守島 基博(学習院大学 経済学部経営学科 教授)
1980年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。1986年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。1990年慶應義塾大学総合政策学部助教授、1998年同大大学院経営管理研究科助教授・教授を経て、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職。
研究分野は人材マネジメント論(人的資源管理論)・組織行動論・労使関係論。

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