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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【日本の今】 仮想通貨と税

長戸 貴之(学習院大学 法学部法学科 准教授)

 今年の確定申告シーズンには、仮想通貨に関する話題がメディアを賑わせた。背景には、国税庁が仮想通貨の所得税法上の取扱方針をFAQの形で示したことがあり[1]、さらに、仮想通貨NEM流出事件での保有者への返金に関する課税方法の話題がこれに拍車をかけた。

 仮想通貨がもたらす課税問題は、①これまで既に存在したが、仮想通貨の普及によって再確認された問題と、②仮想通貨固有の性質により新たに生じうる問題とに分けられよう。

① 仮想通貨により再確認された既存の問題
 冒頭で触れた仮想通貨と税に関する話題は、いずれも従来の所得税の議論の座標のどこに仮想通貨を位置づけるか、という問題だと整理できる。その意味で、仮想通貨だからこそ生じた新しい問題ではなく、既存の思考枠組みを用いて対応できる。たとえば、仮想通貨の売買で得られた利益は譲渡所得か雑所得か、適用税率や損失の取扱いを他の上場株式と揃える方向性を目指すべきか、といった点はデリバティブ取引などでも議論され、立法で対応された部分もある。こちらの問題には、まず現行法上の解釈を明らかにし、租税政策の観点から不都合があれば立法で手当していくことになろう。

② 仮想通貨により新たに生じうる問題
 それでは、仮想通貨により新たに生じうる問題は何であろうか。それは、ブロックチェーン技術に起因するものであるように思われる。ブロックチェーン技術は、ごく簡単にいえば、取引記録などについて中央の管理者(たとえば、銀行)を介さずに分散型台帳の形で記録することを可能にする技術である。ここでポイントとなるのが仲介者の不在という点である。

 これまで、税の適正かつ効率的な徴収のために仲介者が果たしてきた役割は大きい。たとえば、預金利子については銀行が、株式の売買や配当については証券会社が、それぞれ源泉徴収や課税庁への納税者の情報提供を行ってきた。昨今のパナマ文書やパラダイス文書により社会的に再認識された富裕層の脱税への対応策として力点が置かれてきたのも、銀行口座情報を各国課税庁が共有する国際的枠組み作りであった。しかし、ブロックチェーン技術の活用により、現金のような匿名性を維持したまま通貨としての機能を電子的に果たせるようになると、これまでの仲介者を通じた脱税対策に綻びが生じかねない。このような懸念から、仮想通貨が新たなタックス・ヘイブンとなる可能性が早い段階から指摘されていた[2]

 このような新たな問題への見通しとしては2つのシナリオが考えられる。1つが、楽観的シナリオである。技術的には仲介者が不要だとしても、現実には新たな仲介者が現れ、それらを介した取引が中心となるという方向性である。現に、2016年の資金決済法や犯罪収益移転防止法の改正によって仮想通貨交換業者が法律上の位置づけを与えられ、適正な規制に服することにより業界が発展していく動きがうかがえる。この場合、既存の思考枠組みを用いて仮想通貨の課税問題に対処できる部分がある。たとえば、仮想通貨交換業者を仲介者として、仮想通貨と法定通貨との交換に際する出入口での適切な情報収集・管理を行うことが考えられる。また、納税者による申告の便宜という観点からも、仮想通貨交換業者を通じた取引履歴の取得や、それ以外の主体による申告納税支援サービスの提供が行われているようである。もう1つが、悲観的シナリオである。たとえば、仮想通貨交換業者を介さずとも、匿名性を維持したまま仮想通貨の送金を行い、決済手段として利用できる経済圏が拡大すれば、仲介者を活用した税務執行体制が及ばない。そして、適正な課税がなされないまま、事実上の「通貨」としての機能の便益を享受することができてしまう。

 どちらのシナリオが現実的かはわからないが、仮想通貨と税の問題は、しばらくの間、人々の耳目を集めるであろう。

  1. [1]^ https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf
  2. [2]^ Omri Marian, Are Cryptocurrencies Super Tax Havens?, Michigan Law Review First Impressions Vol.112 at 38 (2013), https://repository.law.umich.edu/mlr_fi/vol112/iss1/2/
[2018.3.12]
プロフィール

長戸 貴之 (学習院大学 国際社会科学部)

長戸 貴之(学習院大学 法学部法学科 准教授)
2012年東京大学法科大学院修了。東京大学大学院法学政治学研究科助教を経て、2015年より現職。専門は租税法。著書に、『事業再生と課税――コーポレート・ファイナンスと法政策論の日米比較――』(東京大学出版会、2017)。

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