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目に見えない「関係性」をデザインする
「NOSIGNER」というあり方

言語としてのデザインに領域はない

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ)

田中 太刀川様には昨年、本学の多摩シンポジウム「デザインとソーシャル・イノベーションの視点から地域を考える」にて講演いただきました。とりわけ職員に大好評で、そのご縁もあり、今法政大学が取り組んでいる大学のブランディングについて是非お話をうかがいたく、この対談をお願いさせていただきました。まず、「ノザイナー」という言葉にはどのような意味があるのでしょうか。

太刀川 デザインの語源は「sign(記号・形)」なのですが、僕はそれを、形を通して「関係性をつくる」仕事だと考えているんです。そうすると、実は目に見えない部分の関係性を読み解き、あるいはつくり込むことがとても重要になります。それを突き詰めていくと、たとえばコップの形や大きさが、人間の手の大きさや口と鼻の距離から「ちょうどいい」ところに落ち着くように、目に見える「形」は自動的に決まってくるんじゃないか。そしてそこに、僕の作家性のようなものを超えた、一種アノニマス(匿名)な作品が生まれるかもしれないと考えたんです。

田中 職人の世界ではデザインをそう捉えるんですね。興味深いです。

太刀川 それで、「形」の「ない」ものを追究する「人」=No-sign-erを目指そうと考えすぎたあげく妙な言葉になってしまいました(笑)。

田中 ご自身の中でデザインの概念をまるで変えてしまわれた。だから分野・領域にとらわれずデザイナーとして活躍できるわけですね。その出発点は、本学工学部(現・デザイン工学部)建築学科だったと考えてよろしいんでしょうか。

太刀川 当時はちょうど学科の黄金期といいますか、少し上の先輩がコンペなどでもすごい実績を上げていて、モノを創り出す空気に満ち溢れていました。僕も周りの友人たちも、触発されて自然とアグレッシブになっていたのを覚えています。さらに嬉しいことに、最近その同期たちと一緒に仕事をする機会が増えています。

田中 建築以外の領域に興味が広がったきっかけは?

太刀川 大学院は隈研吾先生につきたくて他大学に移ったのですが、次第に自分たちは建築物そのものではなく、建築物に対する人間の「認知」をデザインしているのだと考えるようになりました。そうしたら領域の境界線がなくなったんです。だから修士論文は、建築ではなくデザインをテーマに、それが一種の言語であるという観点から、その「文法」について書きました。

江戸のデザインのパターン

田中優子

田中 隈研吾さんには私もよくお会いしますが、それまでの建築家とは一線を画して、日本が持っているものは何かを追究し、職人と一緒に技術を掘り起して、イノベーションにつなげていますよね。そしてそうした動きは、デザインの世界全体に見られるような気がします。

太刀川 僕自身も、仕事を始めた当初から日本の伝統産業に関わっていたのですが、とくに政府の「クールジャパン」のコンセプト・ディレクターを引き受けたことを大きなきっかけとして、その分野への関心を強めました。その点で、「江戸文化」を専門とされる田中先生に教わりたいことがたくさんあるんです。

田中 「江戸文化」をデザインという観点であらためてとらえ直してみると、たしかにいくつかのパターンが見えてきますね。一つは、歌舞伎用語に、基本的な物語を意味する「世界」、その時代の現実や個性的表現の反映を意味する「趣向」という言葉があるのですが、この二つを組み合わせることで、ほとんどの歌舞伎の演目だけでなく、当時の多くの芸術やデザインが出来上がってしまう。もう一つは、視線の距離や角度を変えること。これは手ぬぐいのデザインなどで典型的なのですが、吊り鐘の文様を至近距離から見たり、ちょんまげを真上から見たりしたときの「形」を図柄に落とし込むんです。それから、たとえば「連句」のように、複数のものの意味連関を創り出してつなげ、発展させていく「連」の発想もあります。

太刀川 面白いのは、同じ「和」でも、たとえば幽玄をよしとする京都の美意識と、色のコントラストや輪郭のはっきりした江戸の美意識があって、それぞれのデザインを並べて見せれば、言葉では違いが説明できなくても、たいていの人にはどちらがどちらかわかる。それは、言葉に代わって物事を伝える先ほどのデザインの「文法」につながるのですが、その研究を、日本の伝統的デザインをもとに深めて本にしたいと思っているんです。

「聞き上手」もデザインの要素

田中 東京都が配布した『東京防災』の冊子もデザインされたんですよね。本来は退屈なものであるはずの内容が、面白くわかりやすく、しかもいざというときすぐに使える内容になっている。あれを見ると、デザインが言語だというお話がよく理解できます。

太刀川 よいデザインというのは「話し上手」、つまり作り手の意図をうまく伝えるものであると同時に、使い手・受け手の都合やわがままにも応える「聞き上手」でもなければならないんですよね。

田中 法政は大学のブランディングを、これまで学内で地道に進めてきたのですが、憲章などの形で言葉に落とし込むことはできても、それをどう効果的に伝えるかという、次の段階に進むことがなかなか難しい。そこで「デザイン」の力を是非お借りしたいわけです。

太刀川 「聞き上手」の観点で考えれば、受け手が見つけやすい「接点」をどのように作っておくかが重要です。たとえば、江戸文化に興味を持った高校生がネットで検索したとき、まず田中先生の動画が出てきて、この先生に教わりたいと思ったら「by 法政」と書いてある、というような。接点になりうる、あるいはもともと接点をたくさん持っている教員を増やして、うまく活用することも必要でしょう。

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ) 田中優子

田中 自由度の高い形で教員を充実させるという案は出ています。大学というものは、社会に対して開かれた存在であることを謳いながら、教員の雇用体系など組織という点ではどうしても従来通りを踏襲してしまう傾向がある。その部分の改革ともつながってきますね。

太刀川 「答えのない問いに立ち向かわせる」といった、教育の質の変革も求められていますよね。

田中 そうした教育は法政がもともと大切にしてきた部分ですから、これから本学の強みになっていくはずです。

太刀川 少子化によって大学をはじめ、教育産業全体が縮小に向かうなか、偏差値など既存の評価軸が無効になりつつあります。総合大学ほど、生き残りの戦略が難しいだろうなと、僕も感じています。ブランディングは「認知」のデザインそのものですから、お手伝いできることがあれば是非!

田中 心強いお言葉、ありがとうございます。

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ) 田中優子


NOSIGNER
太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ)
1981年横浜市生まれ。2004年法政大学工学部建築学科卒業
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。在学中の2006年にデザインファームNOSIGNERを創業。現在、NOSIGNER株式会社代表取締役。ソーシャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへの深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。その手法は世界的にも評価されており、Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献。 University of Saint Joseph / Department of Design 客員教授 慶応義塾大学SDM 非常勤講師 法政大学デザイン工学部建築学科 非常勤講師

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