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ヨミドクター漢方ガイド

フォーラム がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~
鹿児島
 がん医療の最新情報を伝えるフォーラム「がんと生きる」が、6月25日に宝山ホール(鹿児島県文化センター)で開催された。医療者やがん当事者によるパネルディスカッションが行われ、治療の最前線や、つらさを和らげる「支持療法」、当事者を支える手立てなどの話に聞き入った。
パネルディスカッション 第1部「先進医療と支持療法」
複数の方法を組み合わせて治療

鹿児島大学病院長、
鹿児島大学消化器・乳腺甲状腺外科 教授
夏越 祥次氏
なつごえ・しょうじ/広島大学医学部卒業。鹿児島大学旧第1外科、ドイツ・ミュンヘン工科大学留学などを経て2009年より鹿児島大学消化器・乳腺甲状腺外科教授、2017年より鹿児島大学病院長。

町永 そもそも、がんとはどんな病気なのでしょうか。

夏越 がん細胞は、正常な遺伝子が突然変異することで生まれます。誘因としては発がん性の化学物質、紫外線や放射線、ウイルスや細菌などがありますが、通常はがん細胞ができても免疫の働きがそれを消滅させます。しかし、老化などで免疫力が低下すると、がん細胞が生き残り、増殖・転移すると共に体の栄養を奪っていきます。

町永 治療法を教えてください。

夏越 手術や放射線による局所治療と、抗がん剤を使った全身治療とがあります。今はこの三つを組み合わせた「集学的治療」が主流で、手術前に抗がん剤治療を行うことも珍しくありません。近年は医療が進歩し、正常な細胞を傷つけずにがん細胞だけを攻撃する「分子標的薬」も登場しました。また、がん細胞に対する免疫の働きを取り戻す「免疫療法」も、第四の治療法として普及が期待されています。ただ、いずれの治療法も長所と短所があるので、医師とよく話し合い、納得した上で臨むことが大切です。

 今は複数の治療法がありますが、自分にとってベストな治療法にたどり着ける患者はまだ少数です。私は運良く、スキルス胃がんの患者会「希望の会」のHPを見つけたので、先進医療を受けられました。しかし、それがなければ何も知らずに抗がん剤治療だけを受けていたでしょう。

夏越 スキルス胃がんは手術のみでの治療が難しく、抗がん剤治療が標準とされています。しかし、堀さんが受けた「腹腔内化学療法」は、腹腔内に抗がん剤を直接投与するもので、治療効果が高く腹膜への転移抑止も期待できます。こうした情報を、医療者は患者さんや社会に向けてもっと発信していかなければ。複数の治療法をどう伝え、どう組み合わせていくかが今後の課題だと思います。

スキルス胃がん患者・家族会 認定NPO法人希望の会
堀 亮太氏
ほり・りょうた/32歳のときにスキルス胃がんと診断。鹿児島大学病院で臨床試験中だった「腹腔内化学療法」を経て胃・脾蔵などの摘出手術を受ける。1年半後に再発、現在は抗がん剤治療を続けている。

 腹腔内化学療法と手術を受けた後、しばらくは体調の良い状態が続きました。しかし、手術から1年半経ったときに再発が分かり、現在は抗がん剤治療を続けています。再発はショックでしたが、同じ病気で亡くなった弟は最期まで自分らしく強く生き抜いたので、自分も負けられないなという気持ちがあります。ただ、やはり副作用はつらいですね。胃を摘出したため食べ物をよく噛む必要があるのですが、消毒液のような味がして、食事のたびに苦しい思いをしています。

VTR

堀さんは1年半前、まだ治療法が確立していないスキルス胃がんと診断された。必死に情報を求めて患者会「希望の会」のHPにたどり着き、腹腔内化学療法という先進医療を知る。鹿児島大学病院で臨床試験中の同療法を受けると、がんは縮小し手術も成功した。

つらさを和らげ治療と暮らしを維持

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 心身内科学分野
鹿児島大学病院 心身医療科 教授
乾 明夫氏
いぬい・あきお/神戸大学医学部卒業。同大医学部第二内科助教授・診療科長を経て2005年より現職。専門は食欲体重調節機構、脳腸ペプチドと消化管機能など。国際悪液質学会の創設ディレクターの一人。

 抗がん剤は正常な細胞にも損傷を与えるため、味覚障害や口内炎、脱毛など人によって様々な副作用が起きます。近年では、これらを軽減する「支持療法」が、治療と車の両輪であると考えられ始めています。支持療法は、がんの症状や副作用を和らげて体調を整え、治療と暮らしを支えることを目的としています。

三好 乳がんで抗がん剤治療を受けたときは髪の毛が全部抜け、外出のたびにつらい思いをしました。治療は頑張りたいけれど、患者にも暮らしがあります。その面でも医療が支えになってくれるとありがたいですね。

 つらさが続くとQOL(生活の質)が低下する上、治療意欲も奪われてしまいます。これを防ぐ手立てには、リハビリテーションや心理カウンセリングなどの非薬物療法と、西洋薬や漢方薬で心身を整える薬物療法とがあります。中でも漢方薬は、副作用による食欲不振など、西洋薬では対応しにくい症状にも有効であるとして、がん医療の現場で普及しつつあります。また、がんで低下した骨格筋を取り戻す筋力トレーニングなども注目されています。

大山 がん医療は、がんを防ぐ、治す、患者さんを社会に帰す、心身の痛みを和らげるといったことを目的としています。しかし、その究極の目的は、患者さんが「私らしく生きる」ための支えとなることではないかと思います。

VTR

スキルス胃がんの治療後、再発が分かり抗がん剤治療を受けている堀さん。しかし、味覚障害やしびれなどの副作用があり、いつまで苦しみが続くのかと不安を隠せない。本人は、暮らしへの影響を抑えながらできるだけ長く治療を続けたいと考えている。

パネルディスカッション 第2部「患者サロンと在宅医療」
「自分らしく生きる」を支える

NPO法人がんサポートかごしま 理事長
三好 綾氏
みよし・あや/27歳のときに乳がん告知を受け、乳房全摘手術を行う。現在「がん患者サロン」の運営や小中学校での「いのちの授業」などに携わる。2015年、全国がん患者団体連合会 理事・事務局長に就任。

町永 患者さんはどんな苦しみを抱えているのでしょうか。

三好 乳がんと知ったときは落ち込み、もがき苦しみました。がん患者サロンでも「人生の意味や自分の居場所を見つけられない」「家族に心配をかけたくなくて距離ができた」という声を多く聞きます。患者には、そんな思いを言い合える場、自分らしくいられる場所があるとよいなと思います。サロンではただ集まっておしゃべりをするだけですが、これは医療ではカバーしにくい部分ではないでしょうか。

 当事者同士なら分かり合えることも多いですね。患者は孤独になりがちなので、そうした場は大きな支えになります。私も最初は「1年後、自分は生きているのだろうか」と不安で一杯で、一人で泣くこともありましたが、家族や友だち、患者会のおかげで気持ちを切り替えることができました。

VTR

肺がんと診断された男性は病気と徹底的に戦おうと決意し、妻の「仕方ない、がんと向き合っていこう」という言葉に反発。孤立を深めたが、がん患者サロンでよく食べ、よく笑う当事者たちに出会い、「がんは共に生きる友だち」と受け入れられるようになった。

笑い合える居場所やチーム医療が力に

ネリヤ訪問ステーション 所長、看護師
大山 真奈美氏
おおやま・まなみ/鹿児島県立保健看護学校卒業。奄美中央病院や介護老人保健施設に勤務した後、2009年から本格的に在宅看護に携わる。2014年、在宅ケアの要となるトータルヘルスプランナーに認定。

大山 患者さんの苦しみには、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛の四つがあり、総称して「全人的苦痛(トータルペイン)」と呼ばれています。特にスピリチュアルな苦痛には、死への恐怖のほか、自分らしく生き切れない苦しみもあります。在宅医療や終末期医療では、こうした苦痛も和らげるため、医師や看護師などのチームで、患者さんの「こう生きたい」という思いをかなえられるよう努めています。

三好 サロンでは仲間が先に旅立つこともありますが、「亡くなった人」ではなく生ききった人と呼んでいます。そこを支える医療の取り組みはすばらしいと思います。サロンは愚痴から最期のことまで、当事者同士で気楽に語り合える場です。ぜひ遊びに来てください。

大山 ご家族にとっても、大切な人との別れに向き合うのは容易ではありません。人生の最終段階にある患者さんが心穏やかに過ごせるよう、ご家族が心残りなく見送れるよう、お手伝いしていきます。

 医療者は「生」から物事を考えがちですが、皆さんのお話を通して「死」から考えることも必要ではないかと思うようになりました。この視点を大切にしながら、体と心の両面から患者さんを見つめていきます。

夏越 患者さんは、医療者にはもちろん「がん相談支援センター」などにもぜひ思いを伝えてください。がんには様々な病態があり、治療もその人ごとに異なるため、今後は一人ひとりに合った個別治療が重要になります。私たちが患者さんから教わることはたくさんあります。このことを、若い医療者にも学んでほしいと思います。

 がんと告知された人は不安で一杯でしょう。私もそうでしたが、今はこうして元気に話したり、お酒を楽しんだりしています。がんだからと諦めず、どうか前向きに頑張ってください。私も頑張っていきます。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト
町永 俊雄

VTR

肺がんと診断され、長女の支えを得て自宅療養中の男性。大山さんを含む在宅医療チームは「行きつけの店に飲みに行きたい」という男性の希望に応え、店に同行した。男性はビールを飲み、旧友との再会を楽しむことができた。

主催:読売新聞社、NHK厚生文化事業団、NHKエンタープライズ
後援:NHK鹿児島放送局、厚生労働省、鹿児島県、鹿児島市、鹿児島県社会福祉協議会、鹿児島市社会福祉協議会、鹿児島市民生委員児童委員協議会、鹿児島県医師会、
鹿児島市医師会、鹿児島県歯科医師会、鹿児島県薬剤師会、鹿児島県看護協会、鹿児島県がん診療連携協議会
協賛:株式会社ツムラ

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