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ヨミドクター漢方ガイド

フォーラム がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~
岡山
 がん医療の最新情報を伝えるフォーラム「がんと生きる」が4月23日に、岡山シンフォニーホールで開催された。当日は医療者やがん経験者によるパネルディスカッションを実施。新たな治療法をはじめ、副作用を軽減する「支持療法」や心身の痛みに寄り添う「緩和ケア」などについて語り合った。
パネルディスカッション 第1部「手術と治療の進歩」
新しい治療法、患者の負担軽減

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学・教授、
岡山大学病院・副病院長
藤原 俊義氏
ふじわら・としよし/岡山大学医学部卒業、同大大学院修了。消化器外科領域のゲノム創薬研究や、低侵襲な分子イメージング機器開発を専門とする。日本癌治療学会理事、がん診療ガイドライン委員長。

町永 最初にがんになるメカニズムを教えてください。

藤原 がんの発生には、アクセルの役目の「がん遺伝子」とブレーキの役目の「がん抑制遺伝子」が関わっています。それらの遺伝子の異常で「がん細胞のもと」が生まれることがありますが、通常は自然死するか免疫の働きで消滅します。しかし、免疫力の低下などによってこの細胞が生き延びると、増殖してがんを引き起こすのです。がん細胞には増殖し続ける、死ににくい、転移するという特徴があります。細胞ががん化する原因としては、遺伝子の複製ミスのほか喫煙や食習慣といった環境要因、親から受け継いだ遺伝要因などが挙げられています。

町永 治療法にはどんなものがあるのでしょうか。

藤原 局所治療では手術と放射線、全身治療では抗がん剤などによる化学療法があります。近年は、この三つを組み合わせる「集学的治療」が主流になり、以前より生存率は上昇、再発率は低下しています。

今村 化学療法で使う薬剤も進歩しています。従来の抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞にも損傷を与えてしまい、それが副作用につながっていました。しかし今は、がん細胞を特異的に攻撃する「分子標的薬」が開発されています。これまでのような副作用は少ないのですが、これまでは見られなかった高血圧や重度の皮膚障害などが起きる可能性があるため、使用には細心の注意が必要です。また、近年は新しい治療法として患者さん自身の免疫力を強化する「免疫療法」が登場しました。この薬剤を用いると、がん細胞に対する免疫の働きを取り戻せますし、耐性化してしまった抗がん剤が再び効くようになる可能性も期待されています。

藤原 改変したウイルスによってがん細胞を死滅させる「ウイルス治療」の研究も進んでいます。私たちの研究グループは、食道がんに対するウイルス製剤の臨床研究に取り組んでおり、患者さんの体への負担が比較的少ないこと、放射線の効果を強化すること、抗がん剤と併用できることなどがわかってきました。今後、集学的治療の選択肢に加えられるよう実用化を目指しています。手術も進歩しており、食道がんや胃がん、大腸がんなどでは、スコープで患部をモニターに映して手術する「胸腔鏡手術」や「腹腔鏡手術」が普及しつつあります。これには、以前より精密な手術が可能、傷が小さく済む、早期の社会復帰が期待できるなどのメリットがあります。私も、こうした「低侵襲手術」のさらなる普及に努めたいと思います。

VTR

大腸がんと診断された男性。術後に抗がん剤治療を受けるが、副作用による手のしびれで仕事に支障が出た。がん専門薬剤師の今村氏は副作用を軽減する「支持療法」を提案。男性は仕事を続けられるようになった。

各分野の専門家が連携「チーム医療」で挑む

岡山在宅看護センター晴 看護師 メッセンジャーナース
赤瀬 佳代氏
あかせ・かよ/国立呉病院附属呉看護学校卒業後、がん看護に従事。その後、在宅緩和ケアに力を注ぎ、がん性疼痛看護認定看護師の資格を取得。2015年、岡山在宅看護センター晴(はる)を設立。

町永 化学療法の取り入れ方や入院中のケアも進歩しているそうですね。

藤原 化学療法は単独で行うこともありますが、手術とセットで行う「術前補助化学療法」や「術後補助化学療法」も広がりつつあります。いずれも再発予防が目的で、食道がんでは術前の方が効果が高いことからそちらが主流になっています。また、岡山大学病院では手術後の患者さんができるだけ早く日常生活に戻れるよう、看護師、管理栄養士、理学療法士など多職種の医療者が連携してケアを行う「チーム医療」にも積極的に取り組んでいます。今後のがん医療は、退院後の生活も見据えて患者さんの暮らし全体を支えていく必要があると思います。

赤瀬 チーム医療では、各専門職が情報を共有することが重要です。患者さんが日々の暮らしや食事内容などを自分で書き込む療養手帳「マイノート」などを活用していきたいですね。患者さんにとっても、チームの一員として自身の治療を振り返るよいツールになると思います。

田中 現在の医療が私の闘病時とは大きく違うことに驚きました。チームで支えてもらえれば安心感も大きいですし、自分もがんばろうという気持ちが生まれてきます。医療も進歩したのだから、これからは患者側も進歩して「患者力」を上げていく必要があるでしょう。自分がチームの中心なのだと自覚して、がんを知り、治ろうとする気持ちを高めていってほしいと思います。

VTR

食道がんと診断された男性。岡山大学病院では術前補助化学療法と胸腔鏡手術を行い、多職種の医療者が連携する「周術期管理チーム」が早期回復を支援。療養手帳「マイノート」で情報を共有し、食べ方指導などを行った。男性は地元の祭りに参加できるまでに回復。

パネルディスカッション 第2部「支持療法と緩和ケア」
心身のつらさに寄り添うケアを

倉敷成人病センターがん指導 がん専門薬剤師
診療支援部 副部長
今村 牧夫氏
いまむら・まきお/岡山大学薬学部卒業。両親ともにがん患者で、大学院在学中に母親を看取る。2008年、全国に先駆けてがん専門薬剤師外来を開設。主治医やチーム医療スタッフと連携して診療を行っている。

町永 がんになると暮らしも大きく変わります。

田中 告知されたときは「まさか自分が」と信じられず、現実を受け入れるまでに相当時間がかかりました。当時は東京にいましたが、空気がきれいで自宅もある岡山での治療を選び、こちらで抗がん剤と放射線を組み合わせた治療を受けました。心膜炎を併発したことで途中で放射線をやめたりもしましたが、半年の治療を終えて現在は寛解の状態にあります。治療中、私が一番強く思っていたのは「治療法は十分な説明を受けて納得した上で選びたい」ということでした。医師には深く感謝していますが、一方で専門用語を使った説明はなかなかわかりにくく、治療法や副作用に関する意思疎通の難しさも実感しました。

今村 抗がん剤治療には脱毛や口内炎、吐き気などの副作用があり、つらくて治療が続けられなくなる人もいます。これでは再発を抑えるという治療目的が達成できず、自分らしい生活も失いかねません。そこで最近は、副作用を軽減して治療と暮らしを支える「支持療法」の導入が進んでいます。例えば副作用対策の薬では、西洋薬のほか漢方薬も効果が報告されており、支持療法の選択肢の一つになっています。倉敷成人病センターでは2008年に、全国に先駆けてがん専門薬剤師による薬剤師外来「サポート外来」を開設しました。ここでは、私たちが診察前に患者さんから思いや副作用を聞き、その対策を医師に伝える取り組みを行っています。

VTR

子宮がんと診断された女性。術前補助化学療法で白血球減少などの副作用が起こったが、今村氏の提案で漢方薬を使った支持療法を受け、治療と手術は成功。術後の抗がん剤治療も説明に納得した上で選択し、念願の職場復帰も近づいてきた。

副作用・痛み・不安…対話で支えていく

肺がん経験者、岡山肺がん患者会(設立準備中)
田中 勇氏
たなか・いさむ/2010年に小細胞肺がんを罹患。東京で働いていたが自宅のある岡山での治療を選択し、化学療法・放射線治療を経て寛解。2016年に会社を退社。現在、岡山肺がん患者会を設立準備中。

藤原 つらさを和らげる支持療法も医療の役割として捉えられ始め、支持療法ガイドラインの共有化などが進んでいます。そしてもう一つ、がん医療の柱として心身の痛みを和らげる「緩和ケア」があります。今は診断直後から治療、支持療法、緩和ケアを並行して進めるべきだと考えられています。

赤瀬 緩和ケアは、がんに伴うあらゆる痛みを和らげるためのものです。副作用などの身体的苦痛、不安などの精神的苦痛、経済面などの社会的苦痛、死への恐怖を含むスピリチュアルな苦痛―。こうした「全人的苦痛(トータルペイン)」を、チームで支える取り組みが始まっています。がんになっても自分らしく生きることを大切にして、遠慮せず私たちに相談してください。一緒に考えていきましょう。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト
町永 俊雄

田中 話を聞いてくれる人がいると励みになりますね。私は患者や家族が語り合う場として「岡山肺がん患者会」を設立する予定です。思いを話して、治すことに力を尽くしていきましょう。

今村 集学的治療や医療技術の進歩で、がんは治る時代に近づいてきました。誰もが自分の納得のいく治療を受けられるよう、「患者さんのための治療」の実現に向けて努力していきます。

藤原 がん医療の選択肢は大きく広がりました。それに伴い医療者には、より正確な情報をよりわかりやすく患者さんに伝える努力が求められています。そして人材の育成も急務です。国が「がんプロフェッショナル」の養成を推進する中、私も中・四国のがん医療者を増やすべく努めていきます。

VTR

食道がんと診断された男性は入院治療を終え、一人暮らしの自宅に戻った。外を歩き回ることもままならず希望を失っていたが、思いに向き合ってくれる訪問看護師の存在によって治療を続ける気力を取り戻した。

主催:読売新聞社、NHK厚生文化事業団、NHKエンタープライズ
後援:NHK岡山放送局、厚生労働省、岡山県、岡山市、岡山県社会福祉協議会、岡山市社会福祉協議会、岡山県医師会、岡山県歯科医師会、岡山県薬剤師会、岡山県看護協会、岡山県がん診療連携協議会、岡山県民生委員児童委員協議会、岡山市民生委員児童委員協議会、岡山市連合町内会、中国・四国高度がんプロ養成基盤プログラム
協賛:株式会社ツムラ

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