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ヨミドクター漢方ガイド

フォーラム がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~
仙台
 がん医療の最前線を伝えるフォーラム「がんと生きる」が、1月27日に宮城県・仙台の東北大学百周年記念会館で開催された。北島政樹 慶應義塾大学名誉教授の基調講演や、がん当事者を交えてのパネルディスカッションが行われ、新しい治療法や副作用の苦痛をやわらげる「緩和ケア」、闘病の支えとなる患者同士の交流などの話に、多くの聴講者が耳を傾けた。
基調講演「西洋医学と東洋医学の融合」

国際医療福祉大学副理事長・名誉学長
慶應義塾大学 名誉教授
北島 政樹氏
きたじま・まさき/慶應義塾大学医学部卒業。Harvard Medical School, Massachusetts General Hospitalに2年間留学。元慶應義塾大学病院病院長、同大医学部長。日本癌治療学会理事長。世界最高峰の医学雑誌NEJMの編集委員も務めるなど国内外で活躍。

 私は消化器外科医として、ある頃西洋医学一辺倒の医療に疑問を感じ、西洋医学と東洋医学の融合を実践してきました。その歴史は古く、蘭学とともに漢方を学んだ華岡青洲がチョウセンアサガオを用いた麻酔薬で全身麻酔を行ったのは1804年のことです。

 現在、西洋医学の手法を用いて、様々な漢方のエビデンスが集積されています。そして実際に、多くの医療現場で漢方が処方されています。その処方率は84%、「以前処方していた」という項目を含めると95%にのぼります。漢方医学教育も多くの大学で行われています。

 がん医療においては、抗がん剤などの化学療法の副作用を軽減するために、漢方が投与されています。例えば口内炎には半夏瀉心湯、食欲不振には六君子湯、腸閉塞による腹部膨満感には大建中湯といったように、症状によってさまざまな種類が使い分けられ、効果を発揮しています。こうしたことは、患者さんの生活の質を向上させることにもつながります。

 漢方を国際的に広める取り組みも行われています。歴史ある国際外科学会で漢方のシンポジウムが開催されたのは2009年のことですが、とても興味深く受け止められました。

 今後はさらに漢方のエビデンスの構築を加速させ、海外の研究機関とのコラボレーションや、オリジナルでメイドインジャパンともいえる漢方の海外展開なども提言していきたいと思います。

パネルディスカッション 第1部「治療最前線と緩和ケア」
新たな可能性 コンバージョン手術

東北大学大学院医学系研究科 副研究科長
消化器外科学分野 ・教授
海野 倫明氏
うんの・みちあき/1986年東北大学医学部卒業。2005年8月より現職。日本胆道学会理事長。専門は肝臓・胆道・膵臓の外科、特に膵がん・胆道がん・肝がんの治療。先進医療と患者さんに優しい治療との調和を目指す。

町永 がんにはどういう治療法があるのでしょう。

海野 局所治療の手術と放射線、全身治療の抗がん剤の三つが中心です。最近はこの三つをうまく組み合わせた「集学的治療」が進歩しています。手術は腹腔鏡手術などの傷が小さくて済む方法が標準的になっています。抗がん剤では、がん細胞だけを狙って攻撃する「分子標的薬」が次々開発されています。また、体力のある手術前に抗がん剤治療を行う「術前治療」が増えています。手術ができないと諦めていたのが、抗がん剤治療でがんが小さくなったことで手術に切りかえるケースも出てきました。これを「コンバージョン手術」といいます。新たな選択肢として広まりつつありますが、確実なエビデンスが揃っていない上、場合によっては手術を選択するのが難しいこともあります。

医療法人社団爽秋会理事
岡部医院院長
佐藤 隆裕氏
さとう・たかひろ/1998年東北大学医学部卒業後、同附属病院の耳鼻咽喉科の医師として働きはじめる。2005年より在宅医療を開始。がん患者が病院から自宅に戻れる地域医療の体制づくりに尽力。2012年より現職。

佐藤隆 手術によってどういう可能性があるのかなど、医療者が適正な情報を伝えなければなりません。医療者と患者さんの信頼関係が大切で、医療の知識がない患者さんに対して、医療者は意味を補って説明したり、自分の話がどう伝わっているかを確認することも必要です。

伊藤 私は8年前、乳がんのステージ4で手術はできないと診断されたのですが、放射線と抗がん剤治療を続け、その4年後に手術を受けられるようになりました。お医者さんとはリスクを含めて納得いくまで話し合った上で手術に踏み切りました。一度は諦めていた手術ができて、ほんとにありがたかったですね。

VTR

膵臓がんと診断された女性。手術はできないと告げられたが、抗がん剤治療の効果で腫瘍が縮小。医師の提案によりコンバージョン手術を決断する。手術は無事に成功。5年間の抗がん剤治療を終え、趣味の油絵を再開する。

宮城県保健福祉部健康推進課技術補佐
佐藤 きえ子氏
さとう・きえこ/宮城県の保健師として32年間勤務。主に保健所で地域保健活動に従事。現在はがん対策をはじめ,県民の健康づくり対策,被災者の健康調査,食育,歯科保健等を担当する健康推進課に在籍。

町永 抗がん剤の副作用に悩まされる方は多いですね。どういう症状があるのでしょう。

海野 味覚障害や口内炎、脱毛、吐き気、また手足のしびれなど神経系に影響をおよぼす場合もあります。

VTR

直腸がんと診断された女性。つらい痛みに耐えかね、緩和ケア医の診療を受けることに。緩和ケア医は症状をつぶさに聞き取り、女性の暮らしに目を向けて薬を調整。それにより症状が改善し、女性は元の暮らしを取り戻した。

吉田 脱毛は不気味なものでした。ちょっと触っただけで髪が抜けてしまうのです。看護師として、副作用で髪が抜けた患者さんに「半年もしたら生えてきますよ」と励ましの声をかけていたものですが、自分ががんになった後はその言葉を口にしづらくなりました。

町永 こうした副作用のつらさをやわらげるのが緩和ケアですね。

佐藤隆 緩和ケアというと終末期のイメージがあるかもしれませんが、最近はがんと診断された時から行うようになってきています。痛み止めの処方においても、痛みには個人差があるので、痛みの程度や場所などを細かく聞いて行います。患者さんにあった薬を処方し、痛みが少なく暮らしやすい状況をつくることが大事なのです。また、体の苦痛をとるだけが緩和ケアではありません。がん患者には精神的な苦しみもあり、治療に立ち向かう気力も損なわれます。そうした心のケアも緩和ケアの目的です。

佐藤き 宮城県では、医師だけでなく看護師や薬剤師など、さまざまな医療者を対象にした緩和ケア研修会を行っています。また、がん医療の拠点病院では緩和ケアチームの体制を整えており、今後は地域の医療機関などにも、その取り組みを広げていきたいと考えています。

パネルディスカッション 第2部「患者サロンと在宅治療」
自分らしい暮らしを支える医療

がん患者サロン「四つ葉の会」
伊藤 千津子氏
いとう・ちづこ/大手化粧品メーカーのショップオーナーだった56歳の時、乳がんのステージ4と診断される。手術はできないと告げられ、化学治療を始める。治療は今年で8年目を迎え、患者支援活動と仕事を両立する日々。

町永 トータルペイン(全人的苦痛)について教えてください。

吉田 人間の痛みを全体としてみた考え方で、体の痛み、不眠などの「身体的苦痛」、家庭や職場で自分の役割が終わったのではないかと思い悩む「社会的苦痛」、不安やいらだちを伴う「精神的苦痛」、自分はこの先どうなるのだろうという恐怖をもたらす「スピリチュアルな苦痛(魂の痛み)」があります。

伊藤 私も入院中、不眠症や、死への恐怖から重いうつ状態になりました。その苦しみを誰にも相談できずに心を閉ざしました。そんな中で出会ったのが看護師の吉田さんです。吉田さんも乳がん経験者と知って、同じ痛みや苦しみを経験している、わかってもらえると感じて前向きな気持ちになれたのです。

がん患者会・サロンネットワークみやぎ代表
吉田 久美子氏
よしだ・くみこ/東北労災病院で38年間看護師として勤務。退職後、緩和ケアチームの専任看護師として多くの患者と向き合う。52歳の時に自ら乳がんの診断を受ける。その経験から患者会やサロンをつなぐネットワークづくりに尽力。

吉田 患者さん同士でわかりあえるというのは、とても大きな力になるのです。そのことを実感して患者サロンを立ち上げました。ほかのサロンや患者会と連携する活動も行っています。患者さんの苦しみや気持ちを社会に伝え、「次に悩む人たち」のためにという思いもあって、25団体で患者アンケートを行い、その声を行政や医療者に届けました。

佐藤き 行政も患者さんの思いを受け止める窓口を用意しています。また、がん相談支援センターが拠点病院に設置されています。誰でも相談可能で、治療のことだけでなく経済的な悩みなども話してもらえればと思います。また、東北大学病院が運営する「がん患者みやぎ」というポータルサイトでは、がんの基礎知識や患者会などの情報を紹介しています。

町永 がんは時として深刻な状況を招きます。佐藤隆さんは、そうした患者さんの治療と暮らしを支える在宅医療を行っています。

VTR

乳がんと診断され、重いうつに陥った伊藤さんは、同じ乳がん経験者である看護師の吉田さんとの出会いをきっかけに生きていく意欲を取り戻す。吉田さんは患者同士は支えあえることを実感。患者会・サロンを支援する活動をはじめる。

佐藤隆 自宅は一番リラックスできる場所。ただ、病気を抱えて自宅で過ごすのは不安も伴います。体調を整えて暮らしやすいようにサポートするのが私たちの仕事です。それは治療をよりよい形で受けられるようにするということでもあります。

吉田 治療が終わったら、こういうことをやりたいとふつう考える。治療の先に暮らしがあるわけです。しかし、そうではなく、自分らしい暮らしを治療とともにつくり上げられるというのはすばらしいですね。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト
町永 俊雄

佐藤隆 多くの方は最期を迎える場所は病院と思っているでしょうが、必ずしもそうではない。大きな病気を抱えても自宅で過ごせる、そういう仕組みがあるのです。

海野 あらためてがんというのは大変な病気だと感じます。さまざまな職種の方ががんに関わっているわけですが、みんなで力をあわせてがん医療に取り組んでいきたい。外科医としては、がんを治したいという思いがあります。将来いろいろな治療法の発達によって、がんが治る時代が訪れる。そういう希望をもって研究を続けていきたいと思います。

VTR

在宅医の佐藤さんに支えられ、自宅療養を続けるスキルス胃がんの男性。体調悪化から、これまでの抗がん剤治療が行えなくなる。今後の変化を伝える佐藤さん。男性は悔いのない人生を生きるため、妻と旅行に行く計画を立てる。

主催:主催:読売新聞社、NHK厚生文化事業団、NHKエンタープライズ
後援:NHK仙台放送局、厚生労働省、宮城県、仙台市、宮城県社会福祉協議会、仙台市社会福祉協議会、宮城県医師会、宮城県歯科医師会、宮城県薬剤師会、 宮城県看護協会、仙台市医師会、宮城県民生委員児童委員協議会、仙台市民生委員児童委員協議会、宮城県がん診療連携協議会
特別協賛:株式会社ツムラ 協賛:株式会社アデランス

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