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健考カルテ最新の医療や健康管理の秘訣などについて専門家がわかりやすく解説します。

早期発見・治療で認知症になっても自分らしく生きる

順天堂大学大学院医学研究科 精神・行動科学
(順天堂医院メンタルクリニック科長)
新井 平伊(あらい・へいい)先生

 高齢化の進展とともに認知症になる人は増え続け、2025年には700万人を超えると推計されています。予備軍である軽度認知障害の人も含めると、65歳以上の3人に1人と予測され身近な問題になってきました。順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授の新井平伊先生は「認知症になると人生が終わってしまうかのような誤解が根強く残っていますが、適切な治療を受け、充実した人生を送っている認知症の人はたくさんいます。まずは正しい知識をもつことが大切」とアドバイスします。

Q認知症とは、どんな病気ですか?
A脳の一部の機能が低下し、社会生活に支障を来す

 認知症とは病気の名前ではなく、頭痛や発熱のようにさまざまな原因によって起こる共通した状態です。原因となる病気で最も多いのは、脳の神経細胞が減少し、脳が萎縮するアルツハイマー型認知症で「認知症」全体の約6割を占めています。

 症状は大きく中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2つに分かれます。前者は物忘れやスムーズに判断できない、道具がうまく使えないなど、認知機能の障害によって社会生活に影響を及ぼす症状です。後者はイライラ、落ち込み、興奮、徘徊など精神面や行動上の症状です。しかし、ここで重要なのは、認知症になっても、脳の機能が低下するのはごく一部ということです。9割以上は正常な機能を保っています。認知機能の低下によってうまくいかないことへの焦りやイライラが起こるのは、むしろ正常な反応。その反応の仕方はその人本来の性格や周囲の対応、環境によっても異なります。認知機能の低下に戸惑い、何とかして生きようとする姿でもあるのです。

Q物忘れは「年のせい」とも思いますが、どんなときに医療機関を受診すべきですか?
A最初に気づくのは自分。早めに相談を

 物忘れが増えた、言葉が出にくい、計算に時間がかかる、仕事がはかどらない、などの変化に気付いていても「大丈夫だろう」とか「年だから仕方ない」と放置していることが多いと思います。しかし、物忘れなどの症状のために日常生活に支障が出てきたら、早めにかかりつけ医や住んでいる自治体の地域包括支援センターに相談し、認知症に詳しい医師を紹介してもらうこともできます。認知症の原因にはいろいろな病気があり、治療によって完治するものもあるので、できるだけ早期に受診することが大切です。

Q認知症は薬で治せるのですか?
A進行を抑え、よりよい状態を保ちます

 アルツハイマー型認知症は、発症しても何もできない時代が長く続きましたが、治療法が急激に進歩して、進行を抑えることができるようになりました。現在、神経伝達物質の減少を抑えるコリンエステラーゼ阻害薬と、神経細胞を保護するNMDA受容体拮抗薬の2タイプの薬があり、2つのタイプを併用することも可能です。

 いずれも完治を目指すのではなく、進行を抑える薬です。かなり進行してしまってから、その状態を維持するよりも、なるべく早い段階で治療を開始し、よりよい状態を維持したほうが、生活の質を高く保つことができます。治療を開始しても中止すると進行してしまうので、きちんと継続することが重要です。

 認知症を根本的に治す新薬の開発も進められています。アルツハイマー型認知症は症状が現れる10年以上前から進行がはじまっているため、根本的な原因を取り除くため、さらに早期治療が必要になってくるでしょう。

Q進行を防ぐために日常生活の中でできることはありますか?
A毎日エンジョイすることが脳を活性化

 日々の過ごし方を工夫することで、アルツハイマー型認知症の進行を防ぐことができます。まずは基本的な生活習慣を整えることが大切です。糖尿病、高脂血症、高血圧など生活習慣病がある人はきちんと治療します。食事は特定の食品に偏ることなくバランスよく食べ、適度な運動をするよう心掛けます。疲労をためないよう睡眠を適度にとり、生活リズムを整えます。脳を鍛えようと計算ドリルなどに取り組む人もいますが、同じ作業の繰り返しではなく、判断や推理を必要とするトランプや将棋など相手がいるゲームをするほうが効果的です。また、カラオケでも旅行でも、その人が好きなことをして、毎日エンジョイすることが脳の活性化につながります。たとえば旅行なら、計画や準備で気分を盛り上げ、旅行を楽しみ、帰ってきてから写真を見て、「楽しかったね」と思い出を語り合うようにすると、楽しみも3倍になり脳がより活性化すると思います。

Doctor's Advice

「患者さんがイライラしたり落ち込んだりするのは頑張っている証しです。周囲が認知症を正しく理解し、工夫することで変わってきます。」

 周囲の対応の仕方が認知症の症状に影響を与えることが良く知られています。とはいえ「家族の対応が悪いから症状が進んだ」などと言われたら、ご家族はいたたまれない気持ちになるでしょう。ご家族が感情的になるのは、本人のことを真剣に心配する気持ちがあるからです。病院の外来ではご家族の切実な思いを受け止め、日々頑張っていることに対してねぎらいの言葉をかけるよう心掛けています。すると涙を流すご家族が多い。「いいご家族ですね」と言うと、患者さんも涙を流します。主治医も含めた3者がお互いに協力しあって大敵である認知症に立ち向かっていくことが大切です。

 認知症の人が同じことを繰り返し聞くのは、それだけ気になっているからです。「明日、病院だよね」と何度も聞くのは、ちゃんと病院に行かなければという現実的な問題に必死になって対処しようという気持ちの表れ。正常な心理です。それに対して、「さっきも言ったでしょう」と言ってしまうと、「なんでそんな言い方するの」とマイナスの反応を引き出してしまいます。何度も聞かれたら、紙に書いてテーブルの上に置くなど、わかるように工夫する方法もあります。また、家族だけで悩まず、お住まいの自治体の地域包括支援センターに相談し、積極的に社会的なサポートを受けるようにして下さい。

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