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フォーラム

東京大学創立130周年記念 企業ナビフォーラム2007 〜経営トップが語る日本企業の今と将来〜

【Part 1】

小林喜光(こばやし・よしみつ)氏/三菱科学株式会社 代表取締役社長

 
【Part 2】

畔柳 信雄(くろやなぎ・のぶお)氏/三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役社長兼 三菱東京UFJ銀行頭取

 
【Part 3】

大塚 睦毅(おおつか・むつたけ)氏/東日本旅客鉄道 取締役会長

Part1企業と大学のイノベーション

三菱化学株式会社

新技術の開発で社会システムを一新し、快適、官許、健康の分野で人類に貢献する

三菱化学グループは、石油化学から機能商品、ヘルスケアまで、幅広い事業を手がける総合化学のトップグループだ。企業や大学はイノベーションにどんな貢献が可能か。三菱化学の小林喜光社長と、小宮山宏東京大学総長に語ってもらった。(ナビゲーター・読売新聞編集委員 近藤和行)

世界の諸問題を解決する科学産業の出番が到来

常に前向きに生きる人材がほしいですね

三菱科学株式会社 代表取締役社長 小林喜光(こばやし・よしみつ)氏

――化学業界が抱える課題は。

小林

化学産業は90年代後半に苦しい時期がありましたが、近年の中国、インドの経済成長で、化学製品への需要が急速に高まりました。今、経営は非常に安定しています。しかし、最近は原油が1バレル80ドル(10月3日現在)を超す高値です。原材料費は、数年で4倍になりました。製品価格への転嫁も難しく、大きな経営課題になっています。

――原油、原材料価格の高騰は大きな影響を及ぼしそうです。

小宮山

原油高騰は、将来のエネルギー不足への懸念が、世界的に強まっているからです。地球温暖化、公害、そして資源争奪。21世紀はどんな時代になるのか、皆が不安に感じ始めたのでしょう。

――世界が抱える諸課題に、どんな貢献が可能でしょうか。

小林

2つあります。まず、省エネや公害対策につながる技術開発。防御的な貢献です。もう1つは攻撃的なもの。温室効果がある二酸化炭素(CO2)を劇的に削減する技術を開発し、社会システムの一新を目指します。でなければ、2050年にCO2排出量を半減するという政府目標は、現実的でありません。過去、自動車やエレクトロニクス産業を通じて「快適さ」で人類に貢献しました。加えて、今後は「環境」「健康」など、化学産業がかなり貢献できる時代が来ています。

――大学の立場からはいかがですか。

小宮山

見方次第で、将来は明るいのだと思います。エネルギーが枯渇するといっても、太陽エネルギーは今、人間が利用している量の1万倍降り注いでいます。うまくやれば、1万倍のエネルギーを入手できる。そのための技術革新は十分可能性があります。医療も変わります。生命科学はすさまじく進歩しており、ゲノム解析による高度医療も視野に入ってきます。ただ、学術だけ、技術だけの革新ではだめです。小林さんが言うように、新しい日本にふさわしい社会システムを作るのが一番重要です。

イノベーションとは科学技術を総合した社会変革

ぜひ、ポジティブな見方を身につけて下さい。

東京大学 総長 小宮山 宏(こみやま・ひろし)氏

――三菱化学のイノベーションへの取り組みは。

小林

実用化まできているイノベーションとしては、炭素繊維などたくさんあります。将来のテーマとして、私は7つの課題を唱えています。まず、エネルギーの使用効率を上げる光源システムの開発。次は、エネルギー消費が少ないディスプレイの部材開発。3つ目は植物由来の樹脂。石油や石炭でなく、砂糖やトウモロコシを原料にします。4つ目は、自動車を軽量化する素材。メタル系からプラスチック系に切り替えます。5つ目は、リチウムイオン電池。新しい蓄電方式で、エネルギー循環を改善します。6つ目は、僕ら「化学屋」の夢なんですが、有機系太陽電池の開発です。最後は創薬支援。これらの実現には、多くの高度な技術が必要です。

――社会システムの変革にまで結びつけるには、何が必要でしょうか。

小宮山

今、東大病院でも、カルテ電子化の研究をしています。データを打ち込めば電子化はできます。しかし、どうすればより使いやすい形でデータ蓄積ができるのか、それが重要です。例えば、個人のカルテにゲノム情報を入れれば、この人にはこの薬が効くとすぐわかる。また、今、我々は病院へ足を運んで採血し、健康状態を判断してもらっています。将来は病院に行く必要がなくなる。小さなICチップに蚊の「針」のように細い針を付け、ポンプも中に組み込み、耳にちょっと触れば血液がとれる。そのデータを携帯端末から病院に飛ばせばいい。チップや電子カルテ、ゲノムなどの科学技術を総合して、新しい社会システムを作る。それがイノベーションです。

世界的な競争の時代産学連携での研究が必須

――産学連携についての考え方は。

ナビゲーター
読売新聞編集委員 近藤 和行

小林

わが社は研究開発費の数%分を、大学や研究機関にお願いしています。世界的な大競争の時代、「スピードを買う」意味でも、産学の連携は絶対に必要です。

小宮山

学問の自由は大切ですが、同時に社会から孤立した大学は存在し得ない。どんな研究分野でも、知的な価値や公共的価値、文化的価値のほかに、もう1つ大きな存在として経済的価値があります。そういう分野で産業と大学の連携は欠かせません。

――三菱化学はどんな会社ですか。

小林

当社は、05年10月に共同持ち株会社を設立したことにより、三菱ケミカルホールディングスグループ350社の中核として、事業を展開しています。グループ全体の売り上げは、08年3月期で約3兆円規模になりそうです。

――どういう人材を求めていますか。

小林

自分の原理原則、基本に忠実に生きる人間。要するに、常に目いっぱい前向きに生きる人です。斜に構えてリアリティーのない人間はだめでしょう。とにかく、この世に生を受けたからには何かやりたい、という意欲的な人が欲しいです。当社は化学系の人だけではなく、様々なバックグラウンドの人たちが活躍できる幅広い分野があります。

――総長から大学生へのアドバイスを。

小宮山

若い人は、将来は明るいんだ、ということをよく自覚してほしい。さっきの太陽エネルギーが利用量の1万倍降り注いでいる話は、人類にとって僥倖(ぎょうこう)だし、日本は環境やエネルギーの問題で、世界で一番先進的に取り組んできました。ぜひポジティブな意見、見方を身につけて下さい。