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読売BtoSサロン 第10回

【Part 1】

指宿 祐一氏/新日本石油広報部長

 
【Part 2】

村岡 彰敏氏/読売新聞東京本社編集局政治部長

Part2「新政権の展望」

村岡 彰敏氏
読売新聞東京本社編集局政治部長

民主党の宿命

 4年前の衆議院選挙で自民党が大勝した時、小泉元総理は「自民党は300議席の重みに耐えられるか。民主党はこの敗北の痛みに耐えられるか」と言いました。それから4年が過ぎ、自民党が300議席の重圧に沈みました。劇的な政権交代を成し遂げた民主党は果たして「300議席の重みに耐えられるのか」――これがおそらくこれからの4年間、次の衆院選まで通奏低音のように鳴り響く民主党の宿命ではないでしょうか。

小沢幹事長誕生のいきさつ

 民主党政権最大のポイントは小沢一郎さんの処遇です。小沢さんは143人の新人議員の大半を公認し、面倒を見てきたということもあり、小沢さんの派閥である一新会は150人もの一大勢力になりました。

 9月3日の夜8時過ぎ、鳩山さんが小沢さんを突如党本部に呼び出します。まず鳩山さんは秘書を通じて連絡を取った。国会議員の連絡の取り方は普通そうです。親しい場合は携帯電話などでやりとりしますが、小沢一郎という人は、携帯電話を日本に普及させる最初の役割を竹下内閣の官房副長官として果たしたにもかかわらず、自分の携帯を持ったことがありません。この人に連絡を取ろうとすれば、総理であれ誰であれ秘書に電話する以外ありません。

 ようやく連絡が付いた後でも小沢さんは1時間以上来ない。その挙げ句、小沢・鳩山会談はわずか10分でした。近くにいた記者によると、入るときは極めて厳しい顔をして入って、出るときはニコニコしながら出て行った。ここで幹事長職を打診され、受諾したと言われています。

 小沢さんは会談の別れ際に「悪かったね、遅れて。実は飯を食ってたんだ」と言ったそうです。小沢さんはぬる燗の日本酒が好きで、1日2合飲むと決めていますが、1時間あればもう1本余計に飲んできたのだろうと想像します。

 小沢一郎はこの20年間、好むと好まざるにかかわらず政治記者の取材対象であり続けてきました。その経験を基にすると、小沢さんが人を待たせるのは必ずいきさつがある。調べてみると今回もやはり相当面白くないいきさつがあって、小沢さんと鳩山さんの間に一種の緊張感が高まりつつあった。

 ある議員が選挙後に小沢さんに会った時、「鳩山さんから話が全然ない」と言っていたそうです。まず党の要の幹事長を決めるべきなのに、鳩山周辺からは国家戦略局も含めた閣僚人事の話が漏れてくることに、極めて強い不満を漏らしていた。岡田克也さんが幹事長の続投を望んでいるという情報も流れていました。

 また衆議院が308議席も取ったことで相対的に力が落ちた参議院側が、小沢さんを幹事長で処遇すべきだと結束してプレッシャーをかけた。そういう中で鳩山さんはやはり危ないと思ったんですね。それで9月3日の夜呼び出して幹事長を決めてしまった。小沢さんと鳩山さんの力関係がここではっきりとしたわけです。おそらく小沢さんは自分からではなく、あくまでも鳩山さんから頼みこまれて応じるという形を取りたかったのでしょう。

岡田幹事長(左端)と菅代表代行(右端)に囲まれ、笑顔で当選のバラを付ける民主党の鳩山代表(左から2人目)と小沢代表代行(同3人目)ら(8月30日午後9時37分、東京・六本木の開票センターで。肩書は当時)

小沢一郎という人

 今の小沢さんの最大の関心事は来年7月の参議院選挙で勝利することです。民主党が勝てば衆参両院で多数を占めることになり、3年間国政選挙をしなくて済みます。思い切った政策が実現できます。小沢さんの基本的な考え方は「この1年間は国民が喜ぶようなばらまきをする。外交・防衛は大きな騒ぎにしない。基本的な方向も決めない。いわんや憲法論議は棚上げしていく。来年の参院選を有利に戦うことに集中しよう」というものです。そのためにはカネ・人事・選挙の3つの権限を手中にしないと思い切った手が打てないと考えて、今回は幹事長を取りにいったわけです。

 小沢さんは記者会見や国会での議論はあまり得意ではありません。一方的に話すだけならいいのですが、菅直人さんのような反射神経がなく、当意即妙の受け答えができない。また労組出身の輿石東さんのような議員と違って、人前で吊るし上げられたり、悪口雑言を投げかけられるのに弱い。怒ってしまうんです。1997年に新進党を壊した時の最大の理由は、議員総会で吊るし上げられたことだという見方があります。労組出身議員や大学紛争を経験した菅さんは人前で吊るし上げられるのも平気です。

 本来なら毎週記者会見せざるを得ない幹事長職は気が重かったと思います。なぜなら西松建設問題の初公判が12月に予定される中、政治とカネの問題を記者団から聞かれるのは困る。おそらく記者会見を極力減らすと思います。それでも幹事長を取りにいかなければならなかった理由は、政権交代できる2大政党制導入の先頭で旗を振ってきた小沢さんとして、必要な政策を迅速かつ大量に成立させていくために、参議院で過半数を制する必要があったということです。

 鳩山さんと小沢さんは、7年ほど前は先生と生徒のような関係でよく食事を共にしていました。ところが、最近はそういう関係ではありません。この代表と幹事長の微妙な距離感が、今後の政権運営の風味になるだろうと思います。

菅国家戦略相誕生のいきさつ

 菅さんは最初は官房長官をやりたいと思っていました。ところが小沢さんは菅さんを官邸に置くのがいやだった。菅さんが「大官房長官」として鳩山さんと直接やりとりをするのに反対だった。鳩山さんとしても菅さんはライバルであり、お互いいつかは必ず寝首をかくに違いないと見ている不可思議な関係です。

 鳩山さんにも政治資金の問題があり、内閣発足以降、どこかの時点で検察は必ず捜査に着手するだろうと言われています。その時に国会で自民党から首相を守る最大の壁は官房長官です。政治資金問題の弱みを菅さんに見せるのがいやだったということもありそうです。その2つの理由で官房長官にはしなかったと思います。

 菅さんには「国家戦略局を作って、そこの担当大臣が内政・外交全般で国家戦略、基本政策に最も重要な役割を果たす。旧来の官房長官のように、各省庁との調整はほとんどあなたにやってもらう。官房長官の職責はプレス対応、党内の連絡役、野党との窓口に限られる」と説得しただろうと思います。もともと政策決定プロセスを内閣に一元化し、議員100人を各省庁に送り込む案を練ってきたのは菅さんですから、彼は受けたわけです。

岡田克也という人

 外務大臣に決まった岡田さんは、本当は内政の要の国家戦略局か、財務大臣か、官房長官あたりを狙っていたはずです。幹事長として来年の参議院選挙を自分でやってみたいという気持ちもあったかもしれません。ところが鳩山さんは小沢さんの意向をこう推察したのでしょう。「幹事長にも官邸の中にも置くべきではない」と。

 小沢さんは自民党竹下派の会長代行になった時、船田元さんと岡田さんを特別にかわいがっていました。ところがその後竹下派や自民党が分裂し、岡田さんは小沢離れを進めました。やがて感情的な問題も絡み、今はまったく相いれない関係になっています。

 鳩山さんが先の代表選で岡田さんと争ったのはご承知の通りです。この2人の相性もあまりよくない。岡田さんは議論を詰めすぎる人ですね。20年来の友人と話していても「ノーコメント」という言葉を頻繁に出すタイプの政治家です。正直といえば正直ですが面白くもない。あのような要職を歴任した政治家は人間的に面白くなっていくものですが…。でもこのきまじめさが女性には受けるらしい。きまじめ力が外交手腕に生かせるかどうかじっくり見たいと思います。

民主党の直面する問題点

 まず権力の二重構造。小沢さんは党務を担うと言いますけれども、国会で法案を通すことも党務です。国会である種の拒否権を発動できるわけで、この力を得ることが小沢さんの狙いの1つだったと思います。

 もう1つの問題は連立協議。郵政事業の抜本的見直し、消費税率の据え置き、子育て支援、新型インフルエンザ対策では何の問題ありませんが、外交・安全保障問題は社民党と民主党との距離がかなりあります。本当に際どい話は棚上げして合意するでしょう。議席は衆議院では308対7の大差です。しっぽに胴体が振り回されるのは不合理な話です。

 民主党は内心、連立を早く解消したくてしょうがない。社民党はまだ参議院で5議席を持っており、この5議席を入れないと参議院で過半数になりません。そうすると法案を円滑に通すことができない。

 10月25日に神奈川と静岡で参議院の補欠選挙があります。ここで2議席取れば過半数まであと1つに迫ります。もし自民党の参議院議員の誰かが民主党に駆け込んでくれば、社民党を除いても参議院の過半数を確保できます。そうすると外交・安全保障問題では社民党に妥協しなくてよくなります。来年の参院選で民主党が過半数を得れば、そこで連立は見直されると思います。問題はそこまでうまく政権運営をできるかどうかです。

 一方、143人の新人をどのように育て、次の衆議院選挙に対応していくのかも大きな問題です。自民党に限らず民主党だって308議席も取ったら次に勝つのは極めて難しい。でも自民党は4年間で4人も幹事長が変わりました。しかし民主党はよほどのことがない限り「選挙の神様」と言われる小沢さんが幹事長を続けると思います。剛腕幹事長が次回の衆院選にどんな手腕を振るうのか、最初の試金石は参議院補欠選挙を勝ち抜けるかどうかです。「民主党は300議席の重みに耐えられるか。自民党はこの完敗の痛みに耐えられるか」という命題の結論は、日本に政権交代可能な二大政党制が定着するかどうかに直結してくると思います。

(2009年9月8日講演実施)