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基調講演 自然への憧憬~日本文化に『季節』は何をもたらしたか~

ロバート キャンベル氏日本文学研究者 東京大学大学院教授
ロバート キャンベル氏

 最近、地球温暖化の問題を考えるとき、「日本文学」というかつての人々の生活や精神活動の証言として書き残された膨大な文化遺産の中から、自然や気象と日本人に注目することが多くなってきました。

 中世から江戸、明治時代に書き残された日本文学を研究しながら時代を行き来すると、日本人は、西欧のように「自然」を脅威として感じたり、征服・克服し、ねじ伏せる対象としては捉えていないことがわかります。日本人は、自然、そして移ろう季節をそのまま受け入れ、順応し暮らしていく、そういう生き方にあこがれ続けてきたのです。自分の体や住まいが自然の中にあって自然と一体となり、苦も楽も、嬉しいことも自然の移ろいの中にある。この感覚は、私が知る限り欧米やアジアの諸国にはない、日本文化の際立った特徴だと思います。

 何百年にわたって日本人が書き残した文章の中に、自然に対する考えや気づきがあります。その中に地球温暖化対策になるヒントがあると思います。未来を見すえながらも、時々過去を振り返って、受け継がれてきたものからヒントを見つけて下さい。例えば、明治時代後期になると、工業化が進み、当時の詩人や小説家は環境破壊ということに鋭い感覚をもっていたこともわかります。脈々と日本人に流れる文化的な世界観や思考法といったものを、現在どういかせるのか、そして未来にどのように活用できるか考えていただけたらと思います。

IPCCリポートコミュニケーター・プレゼンテーション 私たちの暮らしと地球温暖化

藤森 涼子氏気象予報士・
IPCCリポートコミュニケーター

藤森 涼子氏

 IPCCとは、「気候変動に関する政府間パネル」のことで、世界中の科学者による気候変動の原因や影響に関する論文を、検討して評価する国際機関です。IPCCリポートコミュニケーターは、最新情報が詰まったIPCCの「第五次評価書」を分かりやすく伝える「伝え手」です。

 猛暑や豪雨など温暖化の影響はすでに出始めています。雨の降り方は「局地化」「集中化」「激甚化」していて、新たなステージに入ったと言われています。このまま温暖化が進むと、2100年には東京の最高気温が43度を超え、真夏日が年間100日以上になるという可能性も指摘されています。全ての人が温室効果ガスの削減に取り組む必要があります。

COP21報告 COP21の意義と今後の展望

河野 博子氏読売新聞東京本社 編集委員
河野 博子氏

 COP21で採択された「パリ協定」は、京都議定書に変わる新たな国際条約です。各国の利害対立から採択が危ぶまれましたが、温暖化への危機感を共有できたことで採択にこぎつけました。「産業革命前からの地球の平均気温の上昇幅を2度を下回るよう抑え、1.5度にとどまるよう努力する」という目標を掲げ、各国に対し、自主的な温室効果ガスの削減目標を定めて達成のための国内対策を取ることを義務づけました。また、5年ごとに削減状況を検証して、将来にわたって改善を続けていくということを盛り込みました。日本も、目標達成のため個人や企業が知恵を絞り、創意工夫で取り組んでいくことが大切です。

トークセッション それぞれの目線から考える地球温暖化

トークセッション

進む地球温暖化 過去にないペース

守屋 和佳氏早稲田大学准教授 博士(理学)
守屋 和佳氏
河野  
最近は地球温暖化「防止」という言葉をあまり使わず、抑制するなどと言います。温暖化が進み、簡単には止まらないことが分かっているからです。人の関心は目先のことに向けられやすいので、温暖化について紙面で繰り返し伝えています。皆さんはいかがですか。
藤森  
気象キャスターとして、異常気象が多発していることを実感しています。主な原因とされる地球温暖化を防ぐためにできることはないかとNPO法人「気象キャスターネットワーク」を設立し、学校で出前授業を行っています。
菊地  
三井物産は企業として有数の社有林「三井物産の森」を保有しています。その面積は計4万4000ヘクタールで、国土面積の1000分の1に相当し、年間16万トンの二酸化炭素を吸収していると試算しています。
守屋  
長い地球の歴史を考えると、温暖化や寒冷化は珍しいことではありません。問題は、二酸化炭素の排出スピードが、かつての温暖化と比べて数十倍近い速さだということです。これは地球の歴史のリズムには存在しなかったことです。
キャンベル  
日本文学の中には、大雨や日照り、寒冷などの気象や植生、人と自然との関わりが細かく記録されています。文学者だけでなく、地質学、災害史などの研究者が、枠組みを超えて一緒に研究するべきだと思っています。
河野  
それぞれの目線から温暖化を考えてもらうため、何が大切だと思いますか。
藤森  
出前授業では、イラストを書いた大きなサイコロなど使って、子どもたちに身体を動かしながら学んでもらいます。大人になるころにはもっと温暖化の影響が出ていることを伝え、温暖化を他人事ではなく、「自分事」にしてもらうことが大切です。
菊地  
一般の方々や株主、社員など様々な人に三井物産の森を訪れてもらい「森のきょうしつ」というプログラムを体験してもらっています。なかでも人気なのが林業体験で、実際に人工林の木を切り倒してもらいます。間伐することで、森が健全に育つということを実体験できます。
守屋  
美しい風景を見て、単に「美しい」でとどまらず、なぜ美しいのかということを考えることが大切です。子どものころから「どうして」「なぜ」と問いかけを続けることで自然科学の素地ができますので、そういう教育を行い、担える教育者を育てています。
キャンベル  
文学を研究するとき、ただ読むのではなく、描かれている場所に学生を連れて行きます。綺麗な川や湿潤な森など、日本の物語の原風景を実際に見る、足を使うことが大切だと思っています。

伝えることが大切 パリ協定はチャンス

菊地 美佐子氏三井物産株式会社
環境・社会貢献部部長

菊地 美佐子氏
河野  
地球温暖化の現状をどう捉え、今後どのような取り組みを進めたいですか。
藤森  
現在は危機的な状況だと感じています。我々だけでは伝えきれません。気象予報士でなくてもなれますので、多くの人にIPCCリポートコミュニケーターになって、伝えていただけたらと思っています。
菊地  
日本の人工林の多くが今、「木を切らない森林破壊」という手入れ不足の状態です。木を人間が使う「木づかい」によって森の「植える、育てる、切る、使う」という循環が必要で、当社も世代を超えた森作りに今後も取り組んでいきます。
守屋  
私たちが見ることができるのは数十年ですが、その先に驚くべき変化が地球に起こる可能性があります。次の世代に向けて何ができるかを考えられるような人材を育てていきます。
キャンベル  
日本の仏教には、草木や石ころにも人間と同じように仏性があり、仏になりうるという考えがあります。そういう精神文化のなかで日本文化・文明が育ってきました。地球温暖化について、その日本ならではの取り組みをグローバルに発信していくべきだと思います。
河野  
COP21でパリ協定が採択されたことは、これまでの資源の使い方や、暮らし方を見直して、新しい社会を作っていくチャンスです。ぜひ、皆さんも考えてみてください。
環境省 Ministry of the Environment http://www.env.go.jp/

IPCCリポート コミュニケーターとは、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」により作成された「第5次評価報告書(AR5)」の内容を、広く一般の国民に伝えていく「伝え手」として活動する人々です。 http://funtoshare.env.go.jp/ipcc-report/

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