約160か所に指定廃棄物が分散保管されている現状

栃木県内「一時保管」解決に向けて

 東日本大震災から6年余り。栃木県内ではいまだに「指定廃棄物」が約160か所で保管されています。
 指定廃棄物の多くは農業に従事される方々の敷地内にあり、そのような保管者の方々の精神的な負担をいち早く解決することが喫緊の課題となっています。この問題解決の道筋を探るため、環境省、環境カウンセラー、環境学者といった3つの異なる立場からお話を聞いてみました。

指定廃棄物とは

 東京電力福島第一原子力発電所の事故によって大気中に放出された放射性物質に汚染された廃棄物のうち、国の基準(1キログラム当たり8,000ベクレル)を超え、環境大臣が指定したもの。国が責任を持って処理する。なお、原発の稼働によって生じる使用済み核燃料などの放射性廃棄物は、兆単位のベクレルで、指定廃棄物はそれより格段に濃度が低い。

インタビュー

栃木の環境再生に向けて環境省の取り組み

環境省
廃棄物・リサイクル対策部
指定廃棄物対策チーム 計画官

熊倉 基之氏

保管農家の負担を軽減することが先決

――栃木県における現在の指定廃棄物の保管状況について、ご説明ください。

 現在、栃木県内には、約1万3500トンの指定廃棄物があり、約160か所で保管されています。
 一番数が多いのが一般の農家の敷地内で、全体の4分の3、約120か所に及びます。農家が多い県北部により集中しています。

――どのように保管されているのでしょうか。

 丈夫な袋などに入れて、土のうで覆った上に、さらに遮水(しゃすい)シートをかぶせるなど厳重に保管し、放射線量も定期的に計測し、常に安全を確認しています

――安全に保管されているとしたら何が問題なのでしょう。

 場所によっては家の目の前での保管を余儀なくされている方もおり、精神的な負担はひとかたではありません。今年3月までに一時保管者(農家)の方々のご意向を確認したところ、約8割の方から「早く持っていってほしい」との回答を得ています。
 さらに、農作業にも差し障りがあります。竜巻、台風などの自然災害によって飛散・流出するというリスクもあります。まずは保管農家の方のご負担を一刻も早く解消することが求められています。

――国はこれまで、どのような方針で、この問題に取り組んできたのでしょう。

 国では栃木県内の1か所に集約して処理する方針を県および市町にご提案し、議論を続けてきましたが、地元との調整がつかず、一時保管が長期化しています。
 そんな中、少しでも保管農家の負担を解消するべく、関係者と協議しているところです。

――今後、国は、この問題とどう向き合っていくのでしょうか。

 環境省としては、この指定廃棄物の問題をなんとか早く解決し、震災前の美しく恵み豊かな栃木県の姿に戻し、環境の再生をしてまいりたいとの思いで取り組んでいます。
 この問題を次の世代に先送りすることは、我々世代の責任放棄となりかねません。処理に向けた道筋をいち早く立て、議論を進めていきたいと思っています。

どのような解決策が適切か、建設的な意見を出し合うことが大切

ジャーナリスト
環境カウンセラー

崎田 裕子氏

 この問題は、全員に利があるものではなく、誰かが負担しなくてはならない、解決策が見つかりにくい難しい問題だと思います。放射性物質を含む廃棄物ということで、そこに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。科学的には安全を確保されていることが、そうではないように広がってしまう風評被害も、難しい問題です。

 福島県に持っていくべきという意見も聞きますが、原発事故によって多くの被害を受けた福島県の方々も、復興に向けた取り組みを懸命に行っているところだと思いますし、やはり栃木県の中で解決を図っていく必要があると思います。

 まずは、国の方でいろいろな方々の声を受け止め、情報提供だけでなく、地域の方々と対話するプロセスが大切になります。県民の方々も、「自分は関係ない、知らない」ではなく、もし自分が今、指定廃棄物を保管していたら…とイメージし、いろいろな立場の異なる意見を踏まえて、どのような解決策が適切なのか、建設的な意見を出し合っていくことが大切だと思います。

安全な処理技術は確立している。問題の解決に向けた努力を

環境学者
岡山大学 名誉教授

田中 勝氏

 栃木県の指定廃棄物のほとんどは、稲わらや牧草など有機性廃棄物であり、県下で分散して一時保管されている状況は、公衆衛生、生活環境の保全という点からも好ましい状況ではありません。このため、できる限り集約して処理・管理する必要があります。

 処理としては、無害化、安定化、減量化、減容化を行います。稲わらや牧草類は焼却処理し、煤塵(ばいじん)に移行した放射性物質をバグフィルターで捕集して、少量の焼却残渣(ざんさ)の中に封じ込めてしまいます。

 このように有機性の廃棄物は、排ガス対策を万全に施した施設で焼却し、その残渣をその他の焼却灰や無機性汚泥などとともに覆土(ふくど)や汚水対策を施した管理型の処分場、もしくは外界の環境と隔離した遮断型の処分場で処分することが重要です。

 安全な処理技術は確立されています。国や専門家は、現状の課題や対策についての情報や科学的根拠に基づいた説明を分かりやすく伝えるなど、不安の払拭や問題の解決に向けて努力すべきと思います。

保管農家の
全体の約80%が
早期処理を願っています。

保管農家の声

A氏 60代 男性
簡単にこうしたらいいのではないかとも言えない。せめて市町だけの集積場所はないのか。誰でも処理はして欲しいが、いざ自分の所となると反対する。自分がたくさん土地でもあれば提供して集められるのに。
ここまで来ると何を言ってもしょうがないというあきらめムードである。少しずつでも処理できれば良いのではないか。
B氏 60代 男性
シートを何回も張り替えてまで置かれても困る。このままだと置きっぱなしになってしまうのではないか。
早く方策を考えてもらい早く処分して欲しい。国のほうから意向がないと何とも言えない。その保管場所での農作物の補償もない。使いづらいが我慢するしかないのかなと思っている。
C氏 60代 男性
なくなればない方がよいのは当然だが、行き場所がないのだから仕方がない。黙っているとそのままになってしまうので、対外的には困っていると言っている。
このことについて少し勉強したが、皆で決めた場所にすると決めたのに、いざ自分の所に来ると反対するということですよね?総論賛成、各論反対では大変だよね。

主な指定廃棄物の種類

 指定廃棄物は、発生箇所などにおいて一時保管されていますが、これは暫定的な措置であり、当面の安全性は確保されているものの、長期的にはしっかりとした対策が必要です。

農林業系副産物(たい肥)

焼却灰

農林業系副産物(稲わら)

浄水発生土

下水汚泥

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