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期待を集めるペロブスカイト太陽電池
上智大学の研究も大きく貢献

竹岡裕子 理工学部 物質生命理工学科 准教授

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太陽光発電のための夢の素材

新聞報道で、今年のノーベル化学賞候補として、宮坂力先生(桐蔭横浜大学特任教授)の「ペロブスカイト太陽電池」の研究が取り上げられたのは記憶に新しいことと思います。受賞はなりませんでしたが、この新型太陽電池が、ノーベル賞を窺うにふさわしい技術であることは間違いありません。

ペロブスカイトとはある独特な結晶構造の名前、またそうした構造を持つ物質の総称です。太陽電池に使われるのは、無機物の部分と有機物の部分を持つハイブリッド型と呼ばれるもので、その組み合わせを変えることで、物質の性質や機能を変えられるという、私たち研究者にとっては大変興味深く、ありがたい特徴があります。

このペロブスカイトが、太陽電池の素材としてのすご技をいくつも持っていることがわかってきたのです。一例をあげると、従来のシリコンや有機薄膜を使ったものでは、プラスの電荷を取り出す半導体とマイナスの電荷を取り出す半導体の2種類を組み合わせる必要があったのに対し、一つの素材で両方の電荷をそれぞれの電極に導くことができるのです(両極性伝導)。

なにより素晴らしいのは、ものの表面に「塗る」という、印刷や塗装のような簡単な作業で太陽電池の心臓部ができてしまうことです。ですから、建物の外壁や窓、電気自動車のボディのような曲面やPETボトルのようなフレキシブルな物体を使って発電することが可能となります。この点は有機薄膜も同様ですが、素材自体の製造はペロブスカイトのほうがはるかに容易です。

このため研究開発には熱が入り、太陽電池にとって重要なエネルギー変換効率は、当初の3.8%から、わずか8年ほどで約22%まで一気に向上しました。これは有機薄膜の約2倍で、現在主流のシリコン型に迫る数字です。

原料も安価なので、太陽電池の製造コストはシリコン型の5分の1ほどになるといわれ、機器の製造過程でのエネルギー消費やCO2排出も格段に低減されます。

ただし、実用化に向けては、やはり解決すべき大きな課題もあります。

ペロブスカイト太陽電池は「上智大学」発の研究

ペロブスカイト太陽電池が抱える課題の1つは「耐久性」です。ペロブスカイトは基本的に水などに大変弱く、通常の環境ではすぐに劣化してしまいます。

もう一つの課題は「安全性」。現在使われているのは、機能性が非常に高いけれども、人体には有害な「鉛」を含むペロブスカイトなのです。

これら課題の解決策として、外部環境とうまく遮断するための技術開発なども精力的に進められていますが、耐久性の高い素材、そして、鉛を極力減らしつつ機能性も高い素材を設計し創り出したい。ここがまさに私たち物質化学研究者の頑張りどころです。

つい先ごろ、理化学研究所が、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションによって、鉛を含まず太陽電池に応用できそうなペロブスカイトの候補を、50種ほど引き出してくれました。その中で、実際に使えそうなものは数種類かなという感触もありますが、私たちの強い味方が現れたことは間違いありません。

ところで、このペロブスカイト太陽電池の開発について、宮坂先生は上智大学での研究がその土台になっていると紹介してくださっています。それは、上智大学の讃井浩平教授(現 名誉教授)をリーダーとする、東京大学・佐賀大学等3大学5グループによる科学技術振興機構のCREST(戦略的創造研究推進事業)の共同研究プロジェクト(1997~2002)のことです。

研究の内容は、ペロブスカイトの光に対する性質や機能の解明で、当時東京大学の博士後期課程に在籍していた私もこのプロジェクトに参加させていただきました。

このとき、上智大学のメンバーだった手島健次郎博士(現 ペクセル・テクノロジーズ株式会社)が、プロジェクトの終了後、その研究成果から、ペロブスカイトが太陽光発電に応用できるのではないかと思いつき、太陽電池の専門家である宮坂先生のところにアイデアを持ち込んだ。それがこのノーベル賞級の研究の端緒となったのです。

私自身もかかわって上智大学で生まれたタネが、宮坂先生によって蒔かれ、いまぐんぐんと成長している。それが大輪の花を咲かせるために、上智大学に戻った私がもう一度お役に立てたら本当に幸せですね。

ノーベル賞をもらいにスウェーデンへ

心配なのは、ペロブスカイト太陽電池が日本発の技術でありながら、昨今の研究・開発においては、海外勢に押されているように感じられることです。

さらにいえば、今後の日本は、こうした「タネ」を生み出す力すらどんどん落ちていくのではないか……そんな危機感を、私だけでなく多くの研究者が持っています。

その原因として、日本の特に大学の教員を取り巻く研究環境があることは、昨年のノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典先生などがおっしゃっている通りです。でも、日本の科学教育全体の問題もありそうです。

私は大学院の修士時代に、ストックホルムのノーベル賞授与式の関連行事(ストックホルム国際青年科学セミナー)に参加する幸運な機会をいただきました。そこで世界各国の同年代の研究者のタマゴたちと交流できたのですが、スイス人の女子学生が、帰国間際に「またスウェーデンに来られるといいね」と話しかけてきました。私は素直にうなずいて、「今度は夏場がいいよね」などと答えたら、彼女は驚いたように「何を言ってるの? 次は賞をもらいに来るのよ」と。そのモティベーションの高さ、自信の大きさを自分と比べて愕然としました。

私の場合はその一言で、ようやく研究の道に邁進する決心がついたわけですが、やはり元からそういう高い意識を持った若者たちに、この日本でも育ってほしいと思うのです。

ところが日本の現状は、むしろ子供の理科離れが問題となっています。幸い、小学5年生のわが子は理科が大好きで、研究は面白そうと言ってくれる。そんなふうに、日本中の子供たちに研究者を、いやノーベル賞を夢みてもらえるような研究成果をみせることも、私たちの重要な責務なのではないかと考えています。

竹岡裕子 理工学部 物質生命理工学科 准教授

1996年上智大学理工学部化学科卒業。1998年同大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士前期課程修了。2001年東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。2001年上智大学理工学部化学科助手、2002年~2006年独立行政法人科学技術振興機構研究員(兼任)を経て、2006年上智大学理工学部化学科講師、2010年より現職。

2005年「女性科学者に明るい未来をの会」奨励賞、2009年高分子学会「奨励賞」、2009年第2回「資生堂 女性研究者サイエンスグラント」を受賞。高分子、有機−無機ハイブリッド関係の特許出願・登録数は20件を超える。

国内外の学会における活動も活発に行っており、現在、日本化学会関東支部幹事、「化学と工業」編集委員、高分子学会関東支部幹事、「高分子」編集委員、超分子研究会運営委員、CSJ化学フェスタ実行委員。高分子学会主催「中高生のためのサイエンスセミナー」「高校教諭へのサイエンスセミナー」などの実施にも関わり、化学教育に積極的に取り組んでいる。

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