インタビュー14

ラオスでの留学経験が
「人生の目標」に引き合わせてくれた

高木 一樹さん(東洋大学 国際地域学部2年)

今回は、文部科学省の留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」の一期生としてラオスに留学した高木一樹さんの体験談をご紹介。現地では優れた発想力と実行力を発揮してラオス初となる教育活動を行い、子どもたちの算数能力の向上に大きく貢献した。留学のきっかけや現地でぶつかった壁、帰国後の心境の変化などを聞いた。

自分が変化するだけでなく、現地の人と一緒に成長したい

 高木さんは2014年の秋から約1年間ラオスに留学。海外に目を向けるようになったきっかけは、1年次に参加したフィリピンでの研究調査だったという。もともと人と話すことが苦手なうえ英語も満足にできなかったそうだが、現地の人々と一緒に暮らすうちに、人と接することの楽しさを知った。

「実は、大学へ入る前に1年以上も引きこもっていました。でも恩師の勧めで東洋大学を受験し、入学してからフィリピンに行ったことで大きく変わることができたんです。現地の人と英語でディスカッションする先輩を見て『こういう人になりたい』と思い始め、前向きな考え方もできるようになりました。そこで、『自分は現地の人と接したことをきっかけに変わることができたが、現地の人たちには何も影響を与えられていない』という思いが浮かびました。そして、現地の人と一緒に成長できるようなことに取り組みたいと考え始めました」

 3回ほどフィリピンを訪れた後、高木さんは先輩の紹介で社会学部社会文化システム学科講師の箕曲在弘(みのお ありひろ)先生に相談する。そこで、途上国の教育支援を行うNPO法人「e-Education」と、「トビタテ!留学JAPAN」の第一期生に応募することにした。希望した渡航先はラオス。箕曲先生の研究地域だったことが決め手になったという。

今も広がり続ける「かけ算九九のうた」を制作

『かけ算九九のうた』作りのためのミーティング(大学提供)

 ラオスでは当初、教育分野の課題解決に向けて教員養成学校で映像授業を展開する予定だったが、4ヶ月試行錯誤しても許可が下りず、このプランは頓挫することに。いったんは挫折感を味わったものの、トビタテ!留学JAPANの現地受け入れ先機関「てっちゃんねっと・トレーニングセンター」の方とのつながりで、高木さんはファさんという現地パートナーと出会い、再び前向きな姿勢を取り戻す。

「ファさんは僕のやりたいことに共感してくれて、その日以来さまざまな活動を共にしています。当初の計画が頓挫してから、自分と同世代の人でもかけ算が完璧にはできない人がいることを知り、ラオスの初等教育の現状を再調査しました。そこで授業対象を小学校に変更し、特に算数能力の向上を目標にしようと考えました。その具体策として、日本にはあるのにラオスにはない『かけ算九九のうた』を作ろう!と」

 そこから、高木さんは夢中で動き出した。九九と同時に音楽や図工、体育といった自己表現の楽しさも同時に学んでもらおうと、ダンスと歌詞を小学校の先生、作曲を音楽家、歌を小学校5年生、CDのデザインと作製を寺院のお坊さん、すべて現地の人に協力を依頼。完成後、小学校1年生の授業で15日間、ダンスをしながら歌ってもらったところ、九九のテストの平均点が49点から94点まで上がり、9割の児童が満点をとれるまでになった。

「あのときほどうれしかったことはないですね。満点を取ったとき、児童や先生が見せてくれた笑顔は今でも忘れられません。自分も児童も協力してくださった方々も、皆で一緒に成長し前向きに変われた瞬間を実感できました」

留学が自分の世界を広げてくれた

PV作りメンバーとの集合写真(大学提供)

「かけ算九九のうた」はその後、現地テレビ局や新聞社にも取り上げられるなどちょっとしたムーブメントを巻き起こした。高木さんのもとには各地から「授業で使いたい!」という依頼が舞い込み、帰国するまでに838名もの小学校教員に使い方を教えたという。また、趣味の映像編集の腕を生かしてガイドビデオやPVも制作。「かけ算九九のうた」はインターネット上でも見られるため、高木さんが帰国した今もラオスで広がり続けている。

「未来のことはわからない。だからこそチャレンジを続けることが大事」と語る高木さん。挫折することもあるけれど、動き続けていればきっと出会いや転機が訪れる──。ラオスでの留学体験は高木さんをより前向きに変え、わからないことを知りたいという欲求や、一歩踏み出そうとする姿勢をもたらした。

「帰国後は一つの授業ごとに何かを得たいという気持ちが高まって、勉強への取り組み方も変わりました。ラオスで人と協働する面白さを実感したので、地域社会に貢献する方策や人の心を前向きに変える方法を学びたいですね。この留学は自分の世界を一気に広げ、本当にやりたいと思える人生の目標と引き合わせてくれました。今後もラオスを訪れて、大学での学びを生かして新しいプロジェクトを展開していくつもりです」

東洋大学 国際地域学部 国際地域学科 地域総合専攻(イブニングコース)2年
高木 一樹(たかぎ・かずき)
1993年生まれ、群馬県出身。2013年に東洋大学に入学し、14年に文部科学省 官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」一期生に応募。選考を通過し、ラオスに渡る。現地ではラオス初となる「かけ算九九のうた」を現地パートナーとともに制作し、最優秀賞に次ぐ優秀賞とアンバサダー特別賞のダブル受賞で文部科学大臣から表彰される。15年に帰国、現在も学業と並行して、途上国の教育課題を若者の力で解決することを目指すNPO法人「e-Education」のラオス担当として活動を継続。