インタビュー15

グローバル社会を牽引するリーダー育成に向け
産学ともに取り組みを

齊藤 秀久氏(一般社団法人日本貿易会 常務理事)
佐藤 節也(東洋大学 文学部英語コミュニケーション学科 教授)

グローバルに活躍できる優秀な人材を求める企業が増える中、大学や産業界はどのような役割を果たしていくべきなのか。商社勤務を経て現在は業界団体「日本貿易会」で常務理事を務める齊藤秀久氏と、世界銀行などの国際機関や外資系グローバル企業での経験を持つ東洋大学文学部英語コミュニケーション学科の佐藤節也教授が語り合った。

産業界が求めるグローバル人材とは

一般社団法人日本貿易会 常務理事
齊藤 秀久氏

佐藤 本日は、日本の今後の成長に欠かせない「グローバル人材育成」についてご意見をうかがいたいと思います。齊藤常務理事は、産業界を代表する業界団体「日本貿易会」でさまざまな活動を展開されていますね。

齊藤 本会には現在、商社や貿易団体のほか製造業、金融業、海運業など約200社が加盟し、商社活動のPRや貿易問題に関する提言などを行っています。ここ数年、ビジネスの世界では急速にグローバル化が進み、商社では海外事業が収益の8割強を占めるまでになりました。この現状から、グローバル人材育成は産業界にとって急を要する課題だと思っています。

佐藤 私は大学に勤める前の金融業界での経験の中で、常に「諸外国に比べて日本には世界水準のグローバル人材が少ない」という思いを抱いてきました。思うに、今の日本の大学教育でグローバル人材を育てるには、まず大学教育のあり方を21世紀型に変えていく必要があるでしょう。

齊藤 おっしゃる通りです。入社したての新入社員には各企業とも研修などで育成に努めていますが、大学にも即戦力となる人材を送り出す取り組みを強化していただきたいですね。ただ、大学の4年間だけでは難しいですから、小学校から授業を通して国際感覚を養うべきではないでしょうか。このままでは日本は世界から取り残されてしまいます。

佐藤 私も同意見です。齊藤常務理事は、21世紀におけるグローバル人材の姿をどうお考えですか。私は自らの道を切り開ける人物だと考え、学生を教える際には語学力や専門知識だけでなく、物事の考え方の切り口や自発性を養うことにも重点を置いています。

齊藤 私も、グローバル人材とは世界中どこででも仕事ができる人物だと捉えています。加えて、海外でも日本人としての軸足をしっかり持ち、異文化や風習を理解できる人物ですね。商社では語学力はある程度必要ですが、堪能である必要はありません。配属先も専門知識とは関係なく決まることが多いです。

佐藤 いくら知識を身につけても、ダイバーシティの環境に身を置き、異文化から刺激を受けて自らを成長させていく機会がなければ、国際人としての視野は広がりませんね。発想の転換が日本社会全体に求められています。

日本国内の「内なるグローバル化」を実現する

東洋大学 文学部英語コミュニケーション学科教授
佐藤 節也

齊藤 日本経済の持続的成長のためには、今後は国内の経済成長を待つだけでなく、成長を支える原動力として海外から人材や投資も取り込んでいく必要があります。そのためには、海外から来た人が自国と同じように過ごせる環境作りが欠かせません。日本には外国人にとって不便な点が数多くあります。商社は、自ら海外に出て行く「外へのグローバル化」は実現してきましたが、「内なるグローバル化」はまだ不十分なのが現状です。日本貿易会は、この達成を目指してさまざまな取り組みを始めています。

佐藤 確かに、日本は海外のビジネスマンにとって仕事をしづらい国だと思います。世界的な大都市・東京でさえ、シンガポールや香港とは言葉の通じ方一つとっても異なります。現状を打破するには、産官学で連携して内なるグローバル化や地方発のグローバル化を実現する人材を育成していかなければなりませんね。例えば、日本貿易会ではどんな取り組みをされていますか。

齊藤 産学の連携のひとつの取り組みとしては、日本貿易会が設立したNPO法人「国際社会貢献センター」を通じて、高校と協力して海外の高校生と日本人高校生との合同合宿を行っています。何日か一緒に過ごすとみな打ち解けて、最初は英語を話せなかった日本人高校生も話せるようになっていくんですよ。こうした体験をした生徒は、大学に行ってから留学することも多いようです。また大学との連携では、実務経験豊富な講師を派遣したり留学支援を行ったりしています。政府としても教育活動への支援をもっと手厚くしてほしいと常々思っています。

佐藤 合同合宿はすばらしい試みですね。大学生もボランティアスタッフとして参加させてもらえれば、視野を広げるきっかけになりそうです。本学は官との連携という点では、2014年度に文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援(タイプB:グローバル化牽引型)」に採択されました。グローバルリーダーの集うアジアのハブ大学を目指し、17年度には「国際学部グローバル・イノベーション学科※」を新設し、グローバル人材の育成に集中的に取り組んでいきます。

グローバル・イノベーション学科※の卒業生をぜひ産業界に

齊藤 産業界は大学教育に対して、生産性を上げるための最先端の仕組みを生み出す「イノベーション」とともに、即戦力の人材育成を期待しています。その意味で、国際感覚とイノベーション能力を育む新学科が誕生するのは非常に喜ばしいことです。

佐藤 同学科のカリキュラムではイノベーション能力、語学力とコミュニケーション力、リーダーシップ教育などに重点を置き、世界の舞台で先端的な役割を担うグローバルリーダーを育てていく方針です。また、全授業を原則英語で実施するほか、日本人学生に1年間の海外留学を義務づけ、定員の30%を留学生とする構想を掲げています。学生たちには、イノベーティブな発想で社会に貢献してほしいですね。

齊藤 イノベーティブとは理系的な発想だけで成り立つものではありません。日本には世界の先端を行く技術がたくさんあるのに、それらを組み合わせてビジネスにしていくところが弱い。グローバル・イノベーション学科※の卒業生には、柔軟な発想でどんな組み合わせ方が一番良いかを判断し、新しいビジネスを構築してもらいたいと思います。

佐藤 世界に目を向ければ、組み合わせの選択肢はさらに広がりますね。それこそがまさにグローバル・イノベーションと言えるでしょう。学生にはイノベートし続けることの重要性も教えたいと思っています。真に社会に貢献するには、常により良い方法を追求し、自ら脱皮し続けることが大切です。

齊藤 それは企業も同じですね。企業はイノベートし続けないと潰れてしまうのが常です。今、日本のメーカーは製造部門を整理・統合してイノベートを進めていますが、商社も同じで資源に依存する状態からの脱皮を図っています。この潮流の中で、産業界としては学生時代に留学を経験し、イノベーションを学んだ人材にぜひ仲間になっていただきたい。今後の日本を支えるために、産業界を内から変えていってほしいと思います。

佐藤 大学も早急なイノベートが必要で、我々も危機感を持って変革に取り組んでいます。新学科もその一つであり、私の使命はここで学ぶ学生にグローバル社会を生き抜く方法を伝えることです。グローバル化が進む世界で個人としてどう生き、どう社会に貢献するか。学びの中で、学生たちがそれを見出す手助けをしていきたいと思います。

※2017年度に新設される学部・学科の名称は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。

一般社団法人日本貿易会 常務理事
齊藤 秀久(さいとう・ひでひさ)氏
1951年生まれ、千葉県出身。75年、慶應義塾大学法学部を卒業後、丸紅株式会社に入社し、情報通信事業部長、広報部長、丸紅シンガポール会社社長兼シンガポール支店長、インドネシア総代表兼丸紅インドネシア会社社長、執行役員 金融・物流・情報部門長などを歴任。2010年に退任し、グローバルアクセス株式会社[現・丸紅アクセスソリューションズ株式会社]にて代表取締役社長、相談役を務める。14年より現職。
東洋大学 文学部英語コミュニケーション学科 教授
佐藤 節也(さとう・せつや)
1952年生まれ、東京都出身。75年、東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行し、80年に英国オックスフォード大学にて経済学修士を取得。日本銀行では総務局、信用機構局、金融研究所や国際局などの主要業務を幅広く経験。その後、国際機関(世界銀行、国際決済銀行)、外資系グローバル企業(日本GE株式会社、UBS証券株式会社)での豊富な経験を経て、14年より現職。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)運用委員会委員も務める。専門分野はグローバリゼーション、グローバルコミュニケーション、交渉学。主な著書に『マネー進化論 ―リアルマネーからバーチャルマネーへ』(シグマベイスキャピタル)など。