インタビュー20

感性と理論を備えた人材を育成し、
観光立国・日本の実現を

新津 研一氏(一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 事務局長)
森下 晶美(東洋大学国際地域学部国際観光学科 教授)

日本を訪れる外国人観光客の急増という観光業界のグローバル化への大波が押し寄せるなか、東洋大学では、観光立国・日本を牽引する人材を育成するため、2017年4月に「国際観光学部※」を開設する。グローバル市場化する日本の観光業界を支え、発展させるためにはどんな人材が必要なのか。ジャパンショッピングツーリズム協会の新津研一氏と、東洋大学の森下晶美教授が語り合った。

日本の観光産業・政策の発展のために

一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 事務局長 新津 研一氏

森下 本日は、日本の観光産業・政策の現状や今後について、ご意見を伺いたいと思います。まずは、ジャパンショッピングツーリズム協会の活動内容についてお聞かせください。

新津 日本の観光の魅力、特にショッピング面の魅力を世界に向けてPRするとともに、国内の事業者が訪日外国人観光客をおもてなしできるよう、受け入れ環境の向上を図っています。日本を訪れる外国人観光客は、観光スポットを巡るだけでなく、“Made in Japan”のモノづくりへのこだわり、日本人の気質や生活そのものといった部分まで体感することを求めています。こうした要素をすべて体験できるのが、ショッピングではないでしょうか。店に行けば接客を通して日本人のメンタリティーに触れることができますし、デパートに行けば日本の衣食住を知ることができる。訪日外国人観光客が求めることとショッピングは密接に関連していますが、日本ではまだショッピングの魅力を発信する取り組みが進んでいません。

森下 確かにそうですね。訪日外国人観光客は「日本らしさ」を求めていると言われますが、「日本らしさ」とは何なのか。自分が海外旅行に行ったときのことを考えると、イタリアでは革製品、ハワイではパンケーキなど、やはり「その国らしさ」を感じるものに対して財布のヒモを緩める傾向がありますね。日本を感じさせるモノや環境を生み出し、よりPRしていくべきだと思います。

新津 政府では“観光立国・日本”の実現に向けた施策を推進していますが、まだまだ課題は山積みだと思います。今の日本は、観光立国を目指す道のりで、どの程度まで進んでいるとお考えですか。

森下 まだスタートラインに立ったところだと思います。インバウンド拡大は喜ばしいことですが、それだけでは観光立国とは言えません。今、各地のホテルは、訪日外国人観光客の予約が多くを占め、日本人旅行客が宿泊できないといった状況が起きています。これでは日本人旅行客の満足度が下がってしまいますし、国内マーケット自体が冷えてしまう。国内と海外両方の旅行者を取り込んでいかないと、観光産業の真の発展は望めません。こうした問題は今後、次々と顕在化してくるでしょう。

新津 私も、日本の観光立国への道のりは、富士山で言えばまだ登山口だと思っています。外国人客を想定していない小売事業者は意外と多く、たくさんの事業者が、急激なグローバル化に驚き、外国語での商品説明など、急いで対応し始めた段階です。つまり、これまでは外国人客に対して無意識のうちにバリアを張っていたのですね。訪日外国人観光客の増加がそのことに気づかせてくれた。今後は、「グローバル・バリアフリー」の環境を整えていく必要があると思います。

今後求められる観光エキスパート人材とは

東洋大学国際地域学部国際観光学科 教授 森下 晶美

森下 日本が観光立国となるためには、こうした課題を解決できる人材も必要ですね。そして、そうした人材を集めるには観光産業がビジネスとして成り立つ土壌が不可欠です。私が教員を務める国際観光学科では、卒業生の約4割が観光産業に就職しますが、待遇や給与などの理由から他の分野へ進む学生もいます。日本の観光産業では「おもてなし」などのソフト面が重視されがちですが、これからは観光産業をビジネスとして成功させるための理論と現場での実践を身につけた人材も育てていかなければと思っています。

新津 それこそまさに、私が大学に求める役割です。観光産業で必要な能力は現場で身につけるものと思われがちですが、生産性の高い企業はどこも科学的な視点や理論、統計などの裏付けをもとにビジネスを動かしています。これから観光産業を目指す方には、ぜひ科学的な視点を持ってほしい。さらに、観光産業はこれから大きなイノベーションが起きるでしょう。他の産業とのコラボレーションや同業での統合も増えると思います。それらをマネジメントする人材も必要ですね。

森下 同感です。今はホテル業界でもM&Aなどが盛んですから、おもてなしの精神だけではマネジメント職に就けません。外資系ホテルでマネージャーを務めたり、日本の観光産業に世界を取り込んだりするためには、やはり知識と理論を身につけていなければいけません。

新津 もう一つ、観光の価値の源泉は「人が移動する」ことにあります。人がわざわざ遠くまで足を運ぶ動機は、面白そうとか楽しそうといった「感性」にほかなりません。こうした観光の魅力を創造する感性と、観光産業の体制を構築する理論を兼ね備えた人材を、ぜひ輩出していただきたいと思います。

新たな学部から観光業界の発展を担う人材を

森下 そのようなエキスパートを育成するため、本学では2017年4月に「国際観光学部※」を開設します。グローバル市場化する観光業界をリードしていく即戦力人材の育成を目的として、観光産業分野に関する4つのコースを設置する予定です。旅行会社への就職を見据え、高度な市場調査力と企画力で新しい観光を創造する人材を育成する「ツーリズムコース」、金融や不動産、経営分析などの知識を学び、ホテルなどのマネジメント職を目指す「エグゼクティブマネジメントコース」、ホテルや航空などサービス業への就職を目指し、高度なホスピタリティを実践する「サービスコミュニケーションコース」、そして社会人の学び直しやすでに地域での活動実績を持つ高校生を想定し、観光産業の即戦力となる能力を身につける「観光プロフェッショナルコース」です。さらに、地域・国家・世界の3つの視点から観光政策を具現化し、観光行政・政策特有の課題を解決できる人材を育成する観光政策分野も設置します。

新津 東洋大学は日本初となる観光科*を立ち上げ、この業界に長年、人材を輩出してきた実績をお持ちですから、大いに期待しています。新学部はサービスコミュニケーションコースなど感性に力点を置いたコースと、エグゼクティブマネジメントコースなど理論や科学的視点に力点を置いたコースの両方がありますね。こうしたコースで各分野のエキスパートが育てば、観光産業の生産性を向上させ、利益を生み出す体制構築が可能になると思います。また、DMO(Destination Management Organization/Destination Marketing Organization)を担う人材の輩出にも注目しています。インバウンドでもアウトバウンドでも、魅力的なディスティネーション(旅行目的地)を見つけ、プロデュースするDMOの重要性が増します。この役割を担える人材は、まだ不足しています。

*東洋大学は1963年、当時の短期大学部に日本初となる観光科を創設。

森下 ツーリズムコースでは、まさにそういう人材を育てようとしています。自治体は地域だけ、旅行業界は旅行商品だけを見るケースが多いようですが、それらを俯瞰で見てコラボレーションさせられる人を育てたいですね。理論と実践を両輪で学んでいけるようなカリキュラムを構想しています。

新津 日本は「観光発展途上国」です。観光産業は大きな収益を上げており、今後も大きな成長が見込まれるにも関わらず、それを担う能力を持ったビジネスマンが不足しています。これから観光を学ぶ方には、ポスト2020年の日本の観光業界の発展を担う主役になれるチャンスがあります。このエキサイティングな機会を逃さず、楽しみながら日本の観光産業・政策の未来を切り拓いていってほしいと思います。

※2017年度に新設される学部・学科の名称は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。

一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 事務局長
新津 研一(にいつ・けんいち)氏
1993年、伊勢丹(現 株式会社三越伊勢丹ホールディングス)に入社。営業本部戦略担当として営業戦略、新規事業開発などを担当。2012年にコンサルティング会社USPジャパンを設立し、ショッピングツーリズムの重要性を提起。2013年にジャパンショッピングツーリズム協会を設立。日本観光振興協会観光立国推進協議会委員。著書に『外国人観光客が「笑顔で来店する」しくみ』(商業界)など。
東洋大学国際地域学部国際観光学科 教授
森下 晶美(もりした・まさみ)
1994年、法政大学大学院経営学専攻科修士課程修了。修士(経営学)。近畿日本ツーリスト株式会社でのメディア販売商品の企画・販売促進担当、ツアーオペレーター、旅行業界誌記者などを経て、2016年から現職。専門分野は観光マーケティング、家族旅行と旅育。日本観光振興協会旅育推進委員、日本国際観光学会理事。著書に『観光マーケティング入門』(同友館)など。