対談20

国際社会の中で相互理解を深め、
多言語スキルでコミュニケーションができる人材を

大内 佐紀氏(読売新聞東京本社 編集局英字新聞部 編集長)
高橋 雄範(東洋大学 文学部英語コミュニケーション学科 教授)

グローバル化が急速に進む現代では、国家間の文化背景や価値観の違い、言葉の壁によるコミュニケーション不足など、様々な摩擦が生じている。こうした問題を乗り越えるため、東洋大学は2017年4月に「国際文化コミュニケーション学科※」を開設し、多文化への理解を深め、多言語を用いて発信するコミュニケーション力を身につけた人材を育成する。
グローバル化時代に求められる多文化の理解力・発信力とは。そして、そのために必要な学びとは──。国内外の文化や出来事などの情報発信をしている英字新聞『The Japan News』編集長の大内佐紀氏と、東洋大学文学部英語コミュニケーション学科の高橋雄範教授が語り合った。

日本の姿を世界に正しく伝えるために

読売新聞東京本社 編集局英字新聞部 編集長
大内 佐紀氏

高橋 本日は、日本と世界の文化や歴史を理解し発信することの意義や、そのために学ぶべきことについてご意見を伺いたいと思います。英字新聞『The Japan News』では、日本のニュースを海外に、また海外のニュースを日本に発信されていますね。

大内 はい。主に読売新聞の記事を英訳し、新聞とインターネットで発信しています。新聞の読者は約4割が日本に滞在している外国人で、約6割が国内または海外にいる日本人です。またインターネットの読者には、自国にいながら日本のことを知りたいという外国人もたくさんいます。読売新聞には約2000人の記者がいて海外にも多くの取材拠点がありますので、この取材力を生かして、公正に報道することを心がけています。

高橋 新聞やインターネットといったメディアの発信力には、常々敬意を抱いています。新聞は教材としてもすばらしいですね。私の授業でも英語圏の新聞を読んだり、そこに載っているニュースを通して文化や制度の比較を行ったりしています。ただ、今後は海外文化を理解するだけでなく、日本の文化を理解・発信することも重要になってきます。大内編集長は、日本文化を発信することの意義についてどうお考えですか。

大内 アメリカの新聞を見ていると、日本のニュースはほんの少ししか載っていないなといつも思います。たまに載っていても、日本人から見れば要点から外れていたり偏った事例だったりします。日本の姿をより正しく世界に伝えるには、私たちが日本の成り立ちや文化、歴史を理解した上で、自ら発信することが大事だと思います。例えば、留学先で現地の人々に日本のことを話すことでも日本の情報発信につながります。そのためには、コミュニケーションをとるための多言語スキルも必要になりますね。

高橋 同感です。これからは国家レベルでの「国際交流」とは別に、一般市民レベルでの「民際交流」も重要になると言われています。学生の力にも期待したいですね。国際関係も人間関係も、まず互いを知ることが基本。相手を知り、自分を知ってもらう双方向の発信が重要になってきます。

異文化を学ぶとともに語学の習得を

東洋大学 文学部英語コミュニケーション学科 教授 高橋 雄範

大内 昔はアメリカ経済が変調をきたすと、日本経済にも大きな影響が出ることを比喩して「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」と言われていましたが、グローバル化時代の現代は、中国やサウジアラビア、フランスなどがくしゃみをしても日本に大きな影響を及ぼします。多極化したこの時代には各国の文化事情や世界的な動向を理解することが必要で、海外の最新ニュースにアンテナを張り、そして海外経験も大事ですね。

高橋 学生にも、ぜひ海外から日本を見つめ直す経験をしてほしいですね。その上で、異文化や自文化を真に理解するには、体験はもちろん学びも重要です。私としては、若いときこそ読書を、特に世界の名著を読んでほしい。それによって、その国の文化や歴史を深く学ぶことができますし、何よりも「思索する力」を養うことができます。人間は言葉によって思索しますから、思いを伝える発信力も磨かれていきます。

大内 確かに、相手の習慣や宗教観に違和感を覚えたとしても、その歴史を知っていればリスペクト(敬意)やアプリシエイト(真価を認める)の心をもって接することができますね。こうした姿勢は必ず相手に伝わるので、交流もより深まりやすくなると思います。あと一つ言うなら、やはりグローバルに使える言語を身につけてほしいですね。相手との共通言語がないと、異文化との交流も自文化の発信もかなり難しいものになってしまいます。

「国際文化コミュニケーション学科※」から世界へ羽ばたく人材を

高橋 2017年4月に、本学の文学部に開設する「国際文化コミュニケーション学科※」は、まさにそのための学びの場です。この学科を特徴づけるキーワードは「カルチャー」と「発信」の二つで、日本と他国のカルチャーを理解して世界に向けて正しく発信し、相互理解を深める多言語スキルを身につけた人材を育成したいと考えています。これを実現するため、まず学生には読解、聴解、文章表現、コミュニケーションの全般にわたって質の高い英語運用力を身につけてもらいます。その上で、英・独・仏・日の多言語でのコミュニケーション能力や、国際比較研究による日本を含めた世界の文化や歴史に対する知識を習得していきます。また、異文化交流や情報発信を実践的に学ぶため、海外の協定大学との交換留学や語学研修を積極的に進めるほか、アクティブラーニングやディベートの導入、ICTを積極的に活用した教育も行っていく方針です。

大内 日本と世界の文化や歴史を理解し、世界に向けて正しく発信していくというのは、これからの日本に必要なコンセプトだと思います。「国際文化コミュニケーション学科※」で学ぶ方々がこれらの能力を身につけ、異文化を受け入れ、日本を発信する人材となって、世界に羽ばたいてくれることを願っています。

高橋 ありがとうございます。外国語を学ぶ上で最も大切なのは、明確な目的を持つことだと思います。語学はあくまで手段。言語を用いて何がしたいのか、その目的を意識しながら学び、社会に出てから存分に生かしてほしいと思います。

※2017年度に新設される学部・学科の名称は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。

読売新聞東京本社 編集局英字新聞部 編集長
大内 佐紀(おおうち・さき)氏
1986年、東京大学教養学部教養学科卒業。読売新聞東京本社に入社。92~96年ワシントン特派員として、米朝協議、92年の米国大統領選挙などを取材。99~2003、07~08年年にはジュネーブ特派員、08~12年にはロンドン特派員として活躍し、英国ウィリアム王子の挙式なども担当する。
東洋大学 文学部英語コミュニケーション学科 教授
高橋 雄範(たかはし・たけのり)
1987年、東洋大学大学院文学研究科博士前期課程修了。文学修士。専門分野は英語学。東洋大学講師・准教授を経て2009年から現職。著書に『TOEICテスト英文法・語彙問題』(旺文社)、『The Conditioned Origin of Meaning』(GTI Group Publishing)など。