対談23

教養に裏打ちされた自分の考えが
世界への発信力の要となる

藤井 ゆき子氏(サイマル・インターナショナル 代表取締役社長)
朝比奈 美知子(東洋大学 文学部教授 [2017年4月より、国際文化コミュニケーション学科所属予定])

グローバル化が進む昨今、日本では異文化間のコミュニケーションを推進し、自ら発信できる人材の育成が急務とされている。東洋大学はこうした時代の要請に応えるため、2017年4月、文学部に「国際文化コミュニケーション学科」を開設。異文化への理解を深め、多言語を用いて発信するコミュニケーション力を身に付けた人材を育成する。その意義や重要性について、通訳・翻訳で国際コミュニケーションを支援する株式会社サイマル・インターナショナル代表取締役社長の藤井ゆき子氏と、東洋大学文学部の朝比奈美知子教授が対談した。

世界の多様性を受容し、的確で効果的な発信を

サイマル・インターナショナル 代表取締役社長
藤井 ゆき子氏

朝比奈 まずは、異文化を理解し発信することの意義についてご意見を伺いたいと思います。サイマル・インターナショナルは、通訳・翻訳サービスのプロフェッショナル集団として知られていますね。

藤井 当社は1965年、日本初の国際会議の通訳者グループとして発足しました。以来、政治やビジネスなど幅広い分野で、お客様の国際コミュニケーションをサポートさせていただいています。同時に、通訳者・翻訳者養成の教育機関を設立し、人材育成にも取り組んできました。質の高い「ことば」のサービスの提供で、人と人や国と国との相互理解、国際社会における日本の躍進に貢献したいと考えています。

朝比奈 相互理解は互いの言葉や文化を知るところから始まりますが、私はこれを“楽しくて深い冒険”だと感じています。学生には、まず未知の文化に出会う喜びを体験してほしい。そこから異文化へ理解を深めていけば、その過程で自文化の新たな側面に気づくこともあるでしょう。異文化を学ぶ意義は、こうした双方向的な作用を起こすことにもあると思います。

藤井 同感です。学びは自分なりの喜びや動機がなければ続かないものです。通訳・翻訳者も、海外体験や語学力だけではなく、未知のものへの好奇心や自文化・異文化を正しく理解することが重要になります。互いの文化がどのように異なるのかを理解しなければ、きちんとした訳出はできず、対話においても誤解が生じるもとになります。

朝比奈 そうですね。世界は多様であり、自分とは異なるたくさんの他者がいるということを知っておく必要がありますね。「相手はわかってくれるはず」ではなく「わからない」ことを前提として考え、世界とのつながりを意識したコミュニケーション能力を磨くことが大切です。自他の言語とその背景にある文化を理解し、そのうえでどのように受容し、発信するかをしっかり考えていく必要があります。

藤井 今後は、世界の多様性を受容し、同時に世界の中の自分、世界の中の日本を的確に発信していける人材が求められます。日本はこれまで、的確で効果的な発信ができなかったがために世界から正しい理解を得られず、損をしてきた部分もあると思います。これからは、自分たちの能力や成果、ひいては日本を積極的にアピールしていく努力が必要でしょう。

言葉や文化の学びの先に世界が広がる楽しみ

東洋大学 文学部教授(2017年4月より、国際文化コミュニケーション学科所属予定)
朝比奈 美知子

朝比奈 そうした能力を身に付けるためには困難も伴いますね。例えば学生にとっては、外国語の勉強が一つの山場になるでしょう。自分の考えをきちんと伝えられる、相手が言っていることをしっかり理解できる、この二つを両輪として身に付けていくことが大切だと思います。

藤井 外国語の習得は、最初は大変かもしれませんが、その国の人と初めてコミュニケーションが取れたときはうれしいものです。そのうれしさが、もっと勉強しようというモチベーションにつながるのではないでしょうか。通訳の場合は、新たな仕事をいただく度に相手のこと、企業サービスはもちろん、相手の国の歴史や文化などのバックグラウンドについても勉強する必要があります。たとえベテランでも日々勉強で、毎日が大学受験のようなもの。ですから、新たなものとの出会いや学習に喜びを感じる人が向いていますね。

朝比奈 言葉や文化は勉強すればするほどわからないことも増えてきて、私は自信を高めたり打ち砕かれたりの繰り返しです。異文化を学ぶこと、他者と理解し合うことは、達成感と無力感を繰り返し味わうことでもあります。しかし、そこを一歩踏み込んで追求する努力を続ければ、ある日突然視界が開ける瞬間が来る。学生たちにも、地道な学びの積み重ねの先には楽しみがあることを伝えています。

藤井 大学教育には、まさにそうした動機づけの部分を担っていただきたいと思っています。「自分はなぜ学ぶのか」という問いは、どのような人生を送りたいかという問いにもつながります。そこに喜びや楽しみなどの明確な動機があれば、社会人になった後も自ら学び続ける姿勢を保てるはず。大学時代にこうした姿勢を身に付けることができれば、それは一生の財産になることでしょう。

「国際文化コミュニケーション学科」で多様な文化に触れる

朝比奈 2017年4月、東洋大学では文学部に「国際文化コミュニケーション学科」を開設します。本学科では、世界の言語・文化への深い理解をもって異文化間のコミュニケーションを推進し、自ら発信できる人材の育成を目指しています。まずは英語能力を最重視して、読む、聞く、書く、話すの四つの技能をバランスよく育てると同時に、ドイツ語、フランス語など第二の外国語の習得を義務づけます。その上で、多様な地域の文化・歴史、日本語・日本文化などを深く学ぶことができる科目を用意し、国際交流に貢献できる素養を身に付けてもらいます。また、留学生の受け入れも推進し、学生に異文化交流の楽しさや難しさを体験してもらうつもりです。

藤井 語学に加えて、異文化の理解力も身に付けられるのはすばらしいことですね。第二外国語や日本語も併せて学ぶことで、学生はさまざまな文化に触れることができるはず。その経験は教養となって、卒業後の人生を豊かなものにしてくれることでしょう。これからの世界で求められる発信力も、発信する「モノ」がなければ発揮できません。私は、教養こそがその「モノ」に当たると考えています。学生の皆さんには、多言語・異文化を積極的に学んで、そこから得た教養に裏打ちされた自分の考えを今後の人生に生かしていただきたいと思います。

朝比奈 日本を含めた世界に対して、常に関心を持ち続けることも大事ですね。地道な勉強の先にある「視界が広がる楽しさ」は、学ぶことの醍醐味だと言えるでしょう。学生がその醍醐味を体験でき、学びで得た力をもって社会に貢献できるよう、力を尽くしたいと思います。

株式会社サイマル・インターナショナル 代表取締役社長
藤井 ゆき子(ふじい・ゆきこ)氏
慶應義塾大学卒業。専門学校通訳ガイド養成所(現・日本外国語専門学校)勤務を経て、1987年に株式会社サイマル・インターナショナル入社。92年、通訳部門長に就任。年間1万件にのぼる通訳サービスを提供する部門の責任者として、同社事業の中核的役割を果たす。2012年11月から現職。
東洋大学 文学部教授(2017年4月より、国際文化コミュニケーション学科所属予定)
朝比奈 美知子(あさひな・みちこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。文学修士。専門分野はフランス文学、比較文学文化。東京大学助手、東洋大学講師、准教授を経て2005年から現職。著訳書に『フランス文化55のキーワード』、『フランスから見た幕末維新』など。