対談24

日本の基幹産業となる観光業界で
即戦力となる「エキスパート」を育成

松山 良一氏(日本政府観光局〈JNTO〉 理事長)
矢ケ崎 紀子(東洋大学 国際地域学部 准教授[2017年4月より、国際観光学部国際観光学科所属予定])

近年、日本政府は観光産業を基幹産業へと成長させるための施策を積極的に推進している。その成果としてインバウンドが急速に拡大しつつある中、観光業界を担う人材の育成が急務となっている。こうした背景を踏まえ、東洋大学では2017年4月に「国際観光学部」を開設し、観光立国・日本を牽引する人材の育成を目指す。これからの観光業界に求められる人材について、日本政府観光局(JNTO)理事長の松山良一氏と、東洋大学 国際地域学部 国際観光学科の矢ケ崎紀子准教授が語り合った。

インバウンド拡大に向けて取り組みを強化

日本政府観光局(JNTO) 理事長
松山 良一氏

矢ケ崎 2016年、訪日外国人旅行者数が過去最高の2千万人を突破しました。こうしたインバウンド拡大の要因は、どこにあるとお考えでしょうか。

松山 日本政府は03年に、外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始しました。その結果、15年には訪日外国人旅行者数が出国日本人数を超え、現在も着実な伸びを見せています。要因としては、「日本の旅行先(デスティネーション)としての注目度の高まり」、「訪日外国人旅行者数増加に向けた政府と観光業界の取り組み」、「アジア諸国の経済的中間層の拡大」、「格安航空などの拡大」が挙げられるでしょう。よく言われる円安の影響は、私はあまり関係ないと考えています。

矢ケ崎 同感です。国の経済に大きな影響を及ぼすインバウンドの獲得は国家間競争であり、その拡大には政府による長期戦略が欠かせません。日本は近年になってようやく競争の舞台に上がることができたわけですが、これは政府やJNTOによる長年の取り組みが実を結んだものだと思います。今後も訪日外国人旅行者の増加が見込まれますが、地方にも誘導して「地方創生」につなげていくことが重要です。

松山 まさにその通りで、地方への誘客は今後の観光業界の大きなテーマになります。政府は、観光産業をさらに成長させて国の基幹産業とすべく、2020年に訪日外国人旅行者数4千万人、同旅行消費額8兆円を目指しています。私たちはこの目標を実現するため、産業界と一体になって、「観光資源の地方創生への活用」、「観光産業の革新」、「快適に旅行できる環境の整備」の三つに取り組んでいく方針です。しかし、その三つを実践する人材が不足しているのが現状です。

産業界のニーズに合った人材の育成を

東洋大学 国際地域学部 准教授(2017年4月より、国際観光学部国際観光学科所属予定)
矢ケ崎 紀子

矢ケ崎 おっしゃるとおり、観光産業を日本の基幹産業にしていくには、働き手や経営者などをしっかり育成すると同時に、皆が「この業界で一生働きたい」と思えるような環境を整える必要があるでしょう。

松山 私も人材育成は大きな課題だと思っています。また、観光産業はオフシーズンとオンシーズンで集客数に大きな差が出るため、労働生産性が低く、非正規雇用の比率が高いと言われています。この集客数を年間で平準化できれば、一生働きたいと思える環境につながるのではないでしょうか。私たちも民間にしっかりと働きかけて、実現を後押ししたいと思います。そして大学には、ぜひ質の高い「観光人材」を育成していただきたい。経済効果を伴う「強いインバウンド観光」の実現には、その担い手となる人材の育成こそが急務といえるでしょう。大学での人材育成に期待がかかりますね。

矢ケ崎 ご期待に沿えるよう、力を尽くしたいと思います。観光業界の即戦力となるにはさまざまな知識やスキルが必要ですが、まずは本人が「外国人旅行者をおもてなししたい」「日本の魅力を発信したい」という思いを抱いていることが大事です。加えて、学生時代に目指す職種をある程度絞っていれば、それだけ早く夢に近づけることでしょう。その職種に必要な資質を身につけられるよう、私たちがしっかりサポートしていきます。

松山 観光学部を擁する全国の約40大学で育成される約1万4,500人の卒業生のうち、観光産業に就職しているのは約16%に過ぎないというデータもあります。これは、これまでの大学での教育が産業界や学生本人のニーズと合致していなかったからではないでしょうか。いま観光産業が求めているのは、先生が言われたような「おもてなし」や「発信」の心を持った人材、そして確かなビジネスマネジメント力を備えた人材です。

実学教育が充実した「国際観光学部」に期待

矢ケ崎 2017年4月に本学に新設する「国際観光学部」では、観光産業・政策のエキスパートとして活躍できる人材の輩出を目的として、学生が目指すニーズに合わせて、さまざまな分野とコースを用意しています。観光産業分野では、高度な市場調査力と企画力を有し、旅行会社で活躍する人材を育てる「ツーリズムコース」、計数や法律の知識を身につけ、ホテル業界の支配人・マネジメント人材を育成する「エグゼクティブマネジメントコース」、ホテルのサービスフロントや航空会社のCAなどホスピタリティ産業で活躍するための「サービスコミュニケーションコース」、働きながら学び、即戦力となるスキルや経験を身につける「観光プロフェッショナルコース」。そして、観光政策分野では地域、国家、世界の3つの視点から観光政策を具体化できる人材を育成します。産業界の即戦力となる観光人材を輩出するため、いずれの分野・コースも企業や団体などと連携した教育や実習を充実させます。

松山 観光業界では、教養教育はもちろんですが、卒業後の現場で生かすことができる実学が大切な分野です。加えて学生の皆さんは、日本をよく知るためにも、ぜひ国内を旅して各地の魅力を体感してください。また観光学部の卒業生の一人ひとりが「日本を売り込むアンバサダー」となり、観光を日本の基幹産業にするという気概をもって仕事に取り組んでくれることを願っています。東洋大学の国際観光学部では、観光業界で必要とされるノウハウなどの実践力も身につけられるということで、非常に心強く思います。

矢ケ崎 将来的には、地方出身の学生のUターン就職を支援して、日本が抱える課題である地方創生にもつなげたいと考えています。観光は、国や地域だけでなく一人ひとりの心も元気にできる産業です。学生が現場と近い実学教育で能力を磨きながら、それぞれのやりがいを見つけ、観光業界を担う人材に成長できるよう、学生の教育に取り組んでいきたいと思います。

日本政府観光局(JNTO) 理事長
松山 良一(まつやま・りょういち)氏
東京大学経済学部卒業。卒業後に三井物産に入社し、米国三井物産S.V.P&G. M.、三井物産九州支社長、同社理事(九州支社長)を経て、2008年にボツワナ日本国特命全権大使に就任。11年より現職。
東洋大学 国際地域学部 准教授(2017年4月より、国際観光学部国際観光学科所属予定)
矢ケ崎 紀子(やがさき・のりこ)
2006年、九州大学大学院法学府政治学専攻修了。修士(法学)。専門分野は観光政策・行政、観光法制度、インバウンド振興、観光需要平準化。国土交通省観光庁参事官(観光経済担当)、首都大学東京都市環境学部特任准教授などを経て14年より現職。国土交通省、農林水産省、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会などの委員を務める。著書に『オリンピックは社会に何を遺せるのか』(創文企画)など。