対談25

日本の国際競争力強化に向けて
積極的な教育改革を

齋藤ウィリアム浩幸氏(内閣府参与/株式会社インテカー代表取締役社長)
芦沢 真五(東洋大学 国際地域学部 教授[2017年4月より、国際学部国際地域学科
所属予定])

グローバル化が進む現在、日本や日本企業にとっては「国際競争力の強化」が重要な課題の一つとなっている。こうした中、文部科学省は日本の高等教育の国際競争力の向上を目的に、国際化を牽引する大学に支援を行う「スーパーグローバル大学創成支援」を展開。東洋大学は同制度の「タイプB(グローバル化牽引型)」に採択されている。日本の国際競争力を高める上で必要なものとは、そして今後求められる人材とは―。株式会社インテカー代表取締役社長であり、内閣府参与でもある齋藤ウィリアム浩幸氏と、東洋大学国際地域学部国際地域学科の芦沢真五教授が語り合った。

リスクを恐れない姿勢と自信を養うためには

内閣府参与/株式会社インテカー代表取締役社長
齋藤ウィリアム浩幸氏

芦沢 齋藤さんは若くしてソフトウェア会社を起業し、現在は日本の若者の留学や起業を推進する活動もされていますね。私は常々、本学の学生にも齋藤さんのようなチャレンジ精神を持ってもらいたいと思っています。

齋藤 私はアメリカの大学で在学中に起業しましたが、この会社が成功したのは日本企業に支援してもらったおかげだと思っています。その会社を売却後、日本社会に少しでも恩返しがしたいと思い、若者に留学や起業の機会を提供する活動を始めました。また、近年は内閣府参与として、省庁のサイバーセキュリティの強化にも取り組んでいます。これらの経験を通じて思うのは、日本社会はリスクに対する恐れが非常に強いということ。海外ではリスクは恐れるべきものではなく、進んで対処すべきものなのです。

芦沢 確かに、日本には一度失敗すると立ち直れないというような雰囲気があります。学生は皆同じ時期に就職活動を始め、皆同じように有名企業への就職を目指しますが、もっと自分に自信を持っていれば、起業など多様な進路があることに気づけるはずです。こうした自信のなさやリスクへの恐れは、国際競争力を高める上でも課題になると思いますが、何が原因だとお考えですか?

齋藤 まず失敗が「悪」だという捉え方が間違っていると思います。もっと前向きに、一つの経験を得られる「チャンス」と捉えるべきでしょう。また、私が政府の教育再生実行会議に有識者として参画した際、日本の大人は年下の人間を永遠に子ども扱いしているように感じました。現状では、幼稚園から高等学校まで、学校行事も学びもすべて先生が用意してあげているので、子どもたちは自ら積極的に何かを作り出す機会が少なく、ただ先生に従うことだけを求められているようにも感じます。これでは、子どもたちが大人になって社会へ出た際、いきなり自信を持てといっても難しいのではないでしょうか。そういった理由から、日本は幼稚園や小学校から教育を変えていく必要があると考えています。

若いうちに多様性のある環境で学んで

東洋大学 国際地域学部 教授(2017年4月より、国際学部国際地域学科所属予定)
芦沢 真五

芦沢 日本の教育が海外といかに違うか、留学するとはっきり分かりますね。大学の講義でも、日本では学生は静かに聞くのが主流ですが、海外では質問しないと評価されない。こうした積極的な姿勢は、今後グローバルに活躍していくために欠かせないと思います。私はその姿勢を若いうちに体感してほしいと考え、常日頃から学生に留学を勧めています。

齋藤 おっしゃるとおり、学生は留学すると大きく成長しますね。例えばアメリカの大学に行くと、学生の2~3割は自分で授業料を払っていますから、授業に対する情熱が非常に高い。また、多様な文化的背景を持った学生が集まっているので、彼らとともに学ぶことで自己成長にもつながるはずです。こうした経験は、帰国後の学びはもちろん、社会に出た後にも大きな糧となるでしょう。

芦沢 まさしく、今後は自国だけでなく他国の価値観も理解し、生活やビジネスに生かしていける人材が求められます。大学教員としては、そうした人材をどれだけ育成できるかが重要だと思っています。多様性という点では、齋藤さんはアメリカ生まれアメリカ育ちの日系2世ですが、日本という国をどんな視点で見つめていらっしゃいますか?

齋藤 私の両親は日本人ですから、私自身ももちろん日本を愛しています。両親は1960年代に日本からアメリカに移住しました。もともと祖母がアメリカに留学した経験があり、海外経験の大切さを説いたからと聞いています。移住後に私が生まれると、両親は決して裕福ではない中、苦労しながら教育を受けさせ、しかも夏休みや冬休みには日本の学校へ体験入学させてくれました。こうした経験は、私の中に日本人としての意識や、日本人である両親に恩返ししたいという気持ちを育んでくれたように思います。だからこそ、今の日本の教育やリスクを恐れる姿勢には残念な思いがありますね。日本も日本人もすばらしい資質を持っているのに、なぜそれを生かさないのかと。

芦沢 齋藤さんには、世代を超えて受け継がれた思いがあるのですね。振り返れば、昔の日本人は労働のためにハワイに移住するなど国境を越えるバイタリティーにあふれていました。かつてはそうした力を持っていたのに、経済的にも技術的にも恵まれている今の方が日本人に元気がないように思えます。「日本と外国」「日本人と外国人」という線引きがあり、その線を越えられない、多様性を受け入れられない社会になってしまっているのかもしれません。

齋藤 確かに、多様性の面では日本は大きく遅れているように感じます。他国の人と交流し、価値観を理解しあうためには語学力も必要ですが、必ずしも正確な英語を話せる必要はありません。現代のグローバル言語は英語ではなく「ブロークン・イングリッシュ」ですから、正確さよりも気持ちや情熱をどれだけ伝えられるかが大事です。そしてもう一つ、理解しあうには相手の視点を共有できる力も必要。これを養うには、さまざまな国籍・言語を使う学生がいる、多様性のある環境で学ぶのが一番です。日本の大学にもぜひ、多様性に対応できる人材の育成にチャレンジしてもらいたいですね。

スーパーグローバル大学として積極的な改革を

芦沢 近年は、日本の大学も自ら変わろうと努力を始めています。本学では、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択された、グローバル人材育成を目的とする構想「TOYO GLOBAL DIAMONDS グローバルリーダーの集うアジアのハブ大学を目指して」を展開しています。この構想は、グローバル教育の強化により、学生のレベルを全体的に底上げしてトップ層であるグローバルリーダーを育成するとともに、分厚い中間層のグローバル人材を育成することで、ダイヤモンド型の人材構造へ変革していこうという取り組みです。語学教育の強化や留学の推進、齋藤さんの母校でもあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の継続教育部門と共同でグローバル学修支援を行う「TOYO-UCLA継続教育センター」の設置などを通して、学生に世界水準の学びを提供したいと考えています。

齋藤 すばらしい取り組みですね。学生の皆さんには、そうした教育環境を積極的に活用するハングリー精神を発揮してほしいと思います。そして海外で多様性を体感し、失敗を恐れない姿勢を養ってほしい。今後は、多くの場面で人工知能(AI)が人間にとって代わるかもしれません。そうした時代でも活躍するために、最も必要とされるのは「人間性」です。日本は高い技術力を持ち、平和ですばらしい国ですから、意識さえ変われば国際競争力を飛躍的に伸ばせるはずです。今後も改革を進め、幼少期から自信とチャレンジ精神を養う教育を実現してほしいと思います。

芦沢 本学もその実現に貢献できるように、力を尽くしていきます。学生には、学びを通して自信や人間性を養い、齋藤さんのようなチャレンジ精神や探究心を持ってほしい。齋藤さんは小学生のころ、ご両親がローンで購入したパソコンをその日のうちに分解し、そして元通りにしたと聞いています。こうした「探究する習慣」を学生が身につけられるよう、しっかり教育に取り組んでいきたいと思います。

内閣府参与/株式会社インテカー代表取締役社長
齋藤ウィリアム浩幸(さいとう・ウィリアム・ひろゆき)氏
1971年カリフォルニア生まれの日系二世。16歳でカリフォルニア大学リバーサイド校に合格し、同大ロサンゼルス校(UCLA)医学部を卒業。在学中にI/Oソフトウェアを設立、生体認証システム「BAPI」を開発する。その後、東京に拠点を移しコンサルタント会社「インテカー」を設立。13年より内閣府参与。主な著書に『超初心者のためのサイバーセキュリティ入門』(文春新書)、『ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く』(日経BP社)など。
東洋大学 国際地域学部 国際地域学科 教授(2017年4月より、国際学部国際地域学科所属予定)
芦沢 真五(あしざわ・しんご)
1996年、ハーバード大学教育大学院卒。専門分野は教育学、教育社会学。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、大阪大学、慶應義塾ニューヨーク学院、明治大学国際連携機構などを経て2013年より現職。「留学のすすめ.jp」というサイトを主幹し、留学の価値を次世代に伝える取り組みをすすめている。科研基盤B「外国学歴・資格認証における国際同等性の比較研究」の研究代表者として、学生や高度人材の国際的移動を推進させるための研究を展開している。UMAP(University Mobility in Asia and the Pacific)国際事務局次長。日米間の学生交流活性化のためのTeamUp(http://teamup-usjapan.org/)プロジェクト(日米間教育パートナーシップ構築のための手引き)の制作委員でもある。