対談26

開発支援やビジネスを通して
各国の地域発展に貢献できる人材を

松尾 隆氏(アジア開発銀行駐日代表事務所 駐日代表)
荒巻 俊也(東洋大学 国際地域学部国際地域学科 教授 [2017年4月より、国際学部長
就任予定])

現代の国際社会が抱える問題の一つに、開発途上地域における貧困が挙げられる。そうした地域への支援はどうあるべきか、持続性のある発展に貢献するには何が必要か──。東洋大学では2017年4月に「国際学部国際地域学科」を改組・開設。開発支援やビジネスなどを通して、アジアを中心とするさまざまな地域の発展に貢献できるエキスパートの育成を目指す。アジア開発銀行駐日代表事務所駐日代表の松尾隆氏と、東洋大学国際地域学部国際地域学科の荒巻俊也教授が、開発支援のあり方や現場で必要とされる人材像について意見を交換した。

開発途上国の持続的な発展を支えるために

アジア開発銀行駐日代表事務所 駐日代表
松尾 隆氏

荒巻 アジア開発銀行は、アジア・太平洋地域の貧困解決を目指してさまざまな支援を行っていますね。主な活動内容や、支援を行う上での課題をお聞かせください。

松尾 当行は、日本を含む67の国や地域が加盟する国際開発金融機関で、昨年設立50周年を迎えました。主に途上国での開発支援プログラムに対する資金融資や知識の共有、多国間協議の仲介などを行っており、「貧困のないアジア・太平洋地域」をビジョンに掲げて、途上国の発展を支援しています。現在、世界の貧困人口のおよそ半分はアジア・太平洋地域におります。多くの国々は順調に成長しつつありますが、まだまだ貧困の根絶には至っておらず、今後はインフラなどのハード面だけでなく、人材開発や教育などソフト面の支援も強化が必要だと考えています。また、現地で技術や意識などのイノベーションを起こすこと、民間支援をそこに引き込むことなども必要でしょう。

荒巻 途上国が持続的な発展を遂げるためには、先進国から資金や知識を提供するだけでなく、内発的発展を支えていくことが大切ですね。ソフト面の支援やイノベーションの誘発は、その地域の人々の「自ら発展していく力」の育成につながると思います。

松尾 おっしゃる通り、途上国が真に発展するためには持続性が重要です。いくら最先端の知識や技術を持ち込んでも、それが現地の受け入れ能力に合ったものでなければ短期的な支援にしかなりません。現状のレベルに合った知見や人材を提供し、それを地域の中で育てていくことが大切だと思います。特に人材育成には当行も力を入れており、通常の支援プログラム・プロジェクトの中での人材育成に加えて、途上国の人々に大学院での研究機会を提供する「アジア開発銀行・日本奨学金プログラム」を実施しています。奨学生が修了後に出身国に戻り、身につけた知識や技能を母国の発展に役立ててくれることを願っています。

専門知識と教養を兼ね備えた人材を

東洋大学 国際地域学部国際地域学科 教授(2017年4月より、国際学部長就任予定)
荒巻 俊也

荒巻 本学科でも、これまで積極的に留学生を受け入れてきており、新たな学科の改組・開設にあたっては本学独自の留学生向け奨学金を設けるなど、さらに留学生の受け入れを増やす計画です。特にここ数年は、ベトナムなど東南アジアからの留学生が増えつつあり、母国の発展のために日本で学びたいという熱意を感じます。しかし、一般的に日本人の若者には海外に目を向ける人があまり多くいないように感じます。私としては、ぜひ若いうちに海外へ行って自国と他国の違いを体感し、異文化を受け入れる力や柔軟な対応力を養ってほしいと考えています。

松尾 途上国の発展支援に必要なのは、専門知識に加えて教養もしっかりと身につけた人材です。各国の違いを理解し、物事を大きな視点で捉えて課題を解決していくには教養が不可欠であり、それを養うには海外経験も重要なものになるでしょう。しかし、最も大切なのは「自分がこの国の発展に貢献する」という強い気持ちです。この思いを持っていれば、困難に際しても前向きに立ち向かうことができるはずです。

荒巻 同感です。さらに加えるなら、自分が得た知識や経験を周囲に広げていくことも大事ですね。海外の現地で活躍している人は皆、自分が学んだことを周りに伝え、多くの人を巻き込む資質を持っているように思います。松尾さんは主に南アジア担当として活躍されてきましたが、現地の人とのコミュニケーションでは、どのようなことを心がけていらっしゃいましたか。

松尾 自己主張の強い人々に負けないよう、会議などの場では必ず何か発言するようにしていました。南アジアの人々は一般的に必要以上に多弁で、なかなかこちらに話す間をくれません。しかし、これは西欧でも同じですが、ただ黙っていてはその場にいない、参加していないのと同じととられますからね。ただ、発言するには自分の基盤や主張をしっかり持っていなければなりません。私の場合は、常に「生真面目で責任感がある」といった日本人としての長所やアイデンティティーを考えながら発言・行動するよう心がけていました。こうした経験から、自己主張できる強さも現場では必要だと思っています。

荒巻 私も海外の大学院で教えていた際に、同じような経験がありました。さまざまな国籍の教員がいる中で、彼らが「10」話しているとしたら、その間に「1~2」しか発言できないのです。そこで、この「1~2」で話の意図を明確に伝えるために、論理的に話すように心がけました。現地の人と一緒になって、その地域の発展に貢献するには、専門知識を身につけた人材のコミュニケーション力も非常に重要になるのですね。

現場主義の学びを重視する「国際学部国際地域学科」に期待

荒巻 そうした人材を育成するため、本学では2017年4月に国際地域学部国際地域学科を発展的改組し、「国際学部国際地域学科」を開設します。この学科では、開発支援やビジネスなどを通してアジアを中心とした諸地域の発展に貢献できるエキスパートを育成したいと考えています。幅広い専門性を要する教員のもとで教養もしっかり学び、また実践的な語学力やコミュニケーション能力を磨く授業、そして国内外でのフィールドワークなどを積極的に取り入れ、学科の学生全員がインターンシップやボランティア、調査などで国内外の現場を経験できる学びを目指しています。さらに、プロジェクトベースの演習により、相手に自分の主張を的確に伝える訓練もしていきます。

松尾 国際地域学科での学びは、地域開発に携わる活動だけでなく、この先どんな仕事に就いても役立つことでしょう。特にフィールドワークは、現場を見るという点で非常に重要だと思います。私は若いころインドのカルカッタに行って現地の貧困ぶりに衝撃を受け、それがきっかけでこの仕事に就きました。学生の皆さんも、現地を見ればきっと「自分に何かできないだろうか」と思うはずです。社会をよりよくするために自分には何ができるだろう──。そんな思いを持ちながら学び、変則的な世界に対応できるだけの専門知識と教養を身につけることを期待しています。

荒巻 現場を見て抱いた思いは、後の学びにおいて大きなモチベーションとなるでしょう。同じアジア・太平洋地域でも、状況は国によって大きく異なります。その違いは現地に行かなければ実感できません。そして、現地に足を運ぶ原動力になるのは「好奇心」だと思います。学生の好奇心を伸ばす教育を行い、そしてアジア諸国の開発支援に貢献できる人材の育成に取り組んでいきたいと思います。

アジア開発銀行駐日代表事務所 駐日代表
松尾 隆氏(まつお・たかし)氏
東京大学農学部、コーネル大学大学院修士課程卒業。日本工営(株)勤務を経て、1993年にアジア開発銀行に入行。以来、一貫して開発プロジェクトへの融資に携わる。アジア開発銀行南アジア局環境・自然資源・農業課課長を経て、2016年8月より現職。
東洋大学 国際地域学部国際地域学科 教授(2017年4月より、国際学部長所属予定)
荒巻 俊也(あらまき・としや)
1991年、東京大学工学部都市工学科卒業。1996年、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。専門分野は環境マネジメントや環境システム論。東京大学准教授、アジア工科大学院客員准教授などを経て、2008年より現職。主な著書に『国際開発と環境 ─アジアの内発的発展のために─』(分担執筆/朝倉書店)など。