対談27

変わりゆく国際社会で
イノベーションの担い手となるために

明石 康氏(国際文化会館 理事長/元国連事務次長)
サム 田渕(東洋大学大学院 経済学研究科公民連携専攻 教授
[2017年4月より、国際学部グローバル・イノベーション学科所属予定])

グローバル社会における様々な課題の解決に向け、社会システムや価値観の変革(イノベーション)が切実に求められている。東洋大学では、そうした変革の担い手を育成するため、2017年4月に「国際学部グローバル・イノベーション学科」を開設。これからの国際社会で必要とされるグローバルリーダー像や身につけるべき能力について、元国連事務次長の明石康氏と、東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻のサム田渕教授が対談した。

「モデルのない時代」に、自ら考え冷静に対処する力を

国際文化会館 理事長/元国連事務次長
明石 康氏

田渕 私は日本に生まれ国内の大学を卒業後、33年間アメリカで暮らしました。この経験から、やはりアメリカの民主主義制度の強さを実感する反面、その影響で先の読めない時代になってきているようにも感じます。代表的な例がトランプ大統領の誕生だと思うのですが、明石さんはどうご覧になっていますか。

明石 過去になかったことが起きる、モデルのない時代になってきましたね。民主主義にも様々な形があり、人間は長い歴史の中で試行錯誤しながら今の形を作り上げてきました。トランプ大統領の誕生は、国民が選んだという点で民主主義の力が最大限に発揮された出来事とも言えるでしょう。この結果を生んだアメリカの社会システムは、ポピュリズムの面もあり最良ではないかもしれませんが、やはり学ぶところが数多くあります。トランプ大統領誕生からも、日本にとって何が最良かを試行錯誤していく上でよい機会になると思います。

田渕 元アメリカ国務副長官で世界銀行総裁も務めたロバート・ゼーリック氏は、『これは私たちの民主主義の結果なのだから否定するのではなく、必要があれば次の選挙がある4年後に生かせばいいのだ』と話していました。つまり、アメリカ国民が今回の結果を生かして今後に備えるチャンスだと。このように、どんな変化に対しても自ら考え柔軟に対応する力は、今後の世界を生きる上で欠かせない資質の一つでしょう。私も教員として、そういう資質を磨く教育を行いたいと考えています。

明石 おっしゃる通りで、これからは自分で判断する力が重要になります。たとえその判断が間違っていたとしても、試行錯誤するプロセスは必ず糧になるはずです。今後の国際社会には、様々な変動にあっても柔軟に考え冷静に対処できる人物、自分のできる範囲内で最も正しいと思えるやり方を実践できる人物が必要です。しかし、日本国内だけで生活していては、世界のシステムを理解することはできません。次代の国際社会を担う若者には、是非とも積極的に海外に出て人と関わり、柔軟で多面的な思考を身につけてもらいたいですね。

次代を担うグローバルリーダーを育てるために

東洋大学大学院 経済学研究科公民連携専攻 教授[2017年4月より、国際学部グローバル・イノベーション学科所属予定]
サム 田渕

田渕 まさにそれを学生に教えたいと思っています。私の専門分野である「PPP(Public Private Partnership=公民連携)」の授業では、日本の人口は世界の2%にも満たないのだから、残りの約98%がどうなっているのかを理解した上で物事を考えるようにと言っています。広い世界の中でいま日本はどこを見るべきか、それを自ら考えられる人間になってほしい。それこそがグローバルリーダーであり、日本の国際化に貢献していく人材ではないでしょうか。

明石 同感です。国際化という点では、日本人の語学力の低さが課題ですね。これは国内の外国人比率が約1%と日本に外国人が少なく、話す機会が限られているからだとも思われます。同じ文化、同じ言葉の人々に囲まれて暮らすのは心地いいかもしれませんが、外へ出るチャレンジ精神も持ち合わせてほしい。英語は完璧である必要はないのです。国連でも、最も使われている言語は英語ではなく、それぞれのお国訛りのイングリッシュですから。話の中身がなにより大事であり、伝えたいという積極性と、論理的に主張できる何かを持っていることが重要です。

田渕 明石さんも私も海外生活が長いので、思うところは同じですね。チャレンジ精神をもって熱意を伝え、実践することで初めて活躍できるのだと。その点では、私が誇らしく思っていることがあります。本学の大学院公民連携専攻で、私と学生が一緒に提案したフィリピン・ミンダナオ島でのPPPが実を結び、現地で小水力発電プロジェクトが始動したのです。このニュースはフィリピンのドゥテルテ大統領や日本の安倍首相の耳にも届き、学生たちは首相たちに直接プロジェクト内容を説明する機会を得ました。

明石 それはすばらしい活躍ですね。今後、日本がアジアで行うべきことは平和支援と開発支援です。私は国連の後で、日本政府代表として、スリランカの平和構築に取り組みましたが、残念ながら軍事的解決へと向かってしまいました。しかし今、同国は民族和解の道を歩みつつあります。こうした支援の実現には、日本人としてのアイデンティティーに加えて、どんな文化にも同じように価値があるという考え方が欠かせません。皆がこうした考え方を持てば、世界はきっと平和になるはずだと信じています。

幅広い視点を養う「国際学部グローバル・イノベーション学科」

田渕 本学でも、国際平和や開発支援、ビジネスなどの現場で活躍できる人材の育成を目指しています。2017年4月には「国際学部グローバル・イノベーション学科」を開設し、すべての授業を原則英語で行うとともに日本人学生は長期海外留学を必須、定員100人のうち約30%を留学生とするなど、学生のグローバル教育に注力する方針です。留学生に対する支援制度も充実させ、世界中から優秀な学生に来てもらいたいと思っています。また、イノベーションを起こすグローバルリーダーとしての能力を、「体験」を通して身につけていく点も大きな特徴です。学生には積極的に外国人と対話させ、海外の現場へもどんどん連れて行くつもりです。現場を見て体験すれば、将来の目標もより明確なものになるでしょう。

明石 世界は様々な要素で成り立っているのだということを学んだ人材が育ってくれることを期待しています。日本国内だけでも地域によって色々な文化があり、私はそれらと接するたびに喜びや驚き、尊敬の念を覚えます。学生の皆さんはぜひ海外を体験して、国際社会の複雑さに触れてください。挑戦と失敗を重ねながら成長し、どのような課題に対しても自らの考えを持ち、判断ができる人物となって活躍してくれることを願っています。

国際文化会館 理事長/元国連事務次長
明石 康氏(あかし・やすし)氏
1954年、東京大学教養学科卒業。同大学院を経てヴァージニア大学、フレッチャースクール、コロンビア大学に留学。1957年より国連事務局に勤務し、事務総長官房補佐官、日本政府国連代表部大使、国連事務次長などを歴任。1997年末に退官。主な著書に『国際連合―軌跡と展望』(岩波新書)など。
東洋大学大学院 経済学研究科公民連携専攻 教授
サム 田渕(さむ・たぶち)
立教大学卒業後に渡米し、米国フロリダ州立大学大学院(都市地域計画学)を修了。フロリダ州商務省経済開発局などを経て現職。専門分野は国連施設修復PPP研究、日本版行政サービス包括的民間委託研究。国連欧州経済委員会PPP推進局 常任理事会副理事長などを務める。