インタビュー28

情報通信技術を活用した「つながり」が
新たな未来を切り開く

八子 知礼氏(株式会社ウフル 専務執行役員/IoTイノベーションセンター所長 兼 エグゼクティブコンサルタント)

すべてのモノがインターネットにつながる時代──。今、「IoT(Internet of Things=モノのインターネット)」という新しい考え方が注目を集めている。この技術を活用して様々なモノや人をつなぎ、新しい価値を創造できる人材を育成するため、東洋大学は2017年4月に「情報連携学部」を新設。IoT時代に求められる学びや人材像について、ビジネス界の第一線でIoT推進に取り組み、“Mr.IoT”とも呼ばれる株式会社ウフルの八子知礼氏に聞いた。

すべてがつながる「IoT」の可能性を追求

 2006年設立のウフルは、ITベンチャー企業としての実績をもとに、近年IoTへの取り組みを強化。その中軸として2016年に「IoTイノベーションセンター」を開設し、八子氏を所長に迎えてIoTによる新たなビジネスモデルの開発やIoTの啓発活動を推進している。同社のモットーは「協創(協力して創造する)」。オープンイノベーションにより、顧客企業やパートナー、地域社会などと連携してIoTの可能性を追求する取り組みは、日本では先端的なものとして注目されている。

「IT技術の進歩でビジネスや情報のデジタル化は飛躍的に進みましたが、この世界にはモノや人の行動などアナログなものがまだたくさんあります。これらをどうやってデジタルに取り込むか、どのように活用するかを考え、実現していくのがIoTです。アナログをデジタルに取り込み、それを瞬時に役立つ情報にしてアナログの世界にフィードバックできるようになれば、暮らしやビジネスはさらに便利に、効率的になっていくでしょう」

 八子氏は、その実現のためにはIoT化されていないアナログなものをインターネットにつなげ、アナログとデジタルの境界線をなくしていくことが重要だと語る。この技術が進歩すれば、例えば外出先から中身を把握できる冷蔵庫、天気予報と連動して洗い方を変える洗濯機、新商品の設計段階で生産量や出荷日が把握できるシステムなども実現可能になるという。さらに、八子氏はこの考え方を、モノだけでなく人や企業のつながりにも適用できるものとして捉えている。

境界線をなくすことが社会問題の解決手段に

「私は境界線にこそ課題があると思っています。経営者と現場、社内と社外など、境目があることで物事がうまく運ばないケースは少なくありません。また、都市と地方、世代間などの格差も、誰もが等しく情報通信技術を活用できるようになれば改善が期待できるのではないでしょうか。多くの境目は人や企業、情報を『つなげる』ことで解消できるはず。その意味で、IoTは社会的課題を解決する手段にもなり得ると思います」

 社会におけるイノベーションも新しい価値の創造も、多数の力がつながれば実現の可能性はより高くなる。それを後押しするのがIoTであり、しかも「つながり」に必要な通信やデータ蓄積などの技術はすでに成熟期に達している。今は、この技術をどう組み合わせ、どう活用するかが問われる時代。このことから八子氏は「今後求められるのは、創造力と論理を兼ね備えた人材」と語る。

「今、日本の高等教育は学問分野が文系と理系にはっきり分かれているものが多いです。IoTの発展には、クリエイティブやビジョンといった実体のないものを理解・イメージできる抽象的思考力と、事象を分解・再構築する論理的思考力の両方が必要です。またビジネスの世界でも、製造業の会社が物流業を展開したり、農業の会社がネット通販を手掛けたりと、業種の境界線はなくなる傾向にあります。ぜひ若いうちに、複数の領域にまたがった学びや考え方を身につけてほしいですね」

人やシステムを「連携」させる、先端的な学びを提供

 そうした社会的ニーズに応えるため、東洋大学では2017年4月に「情報連携学部」を開設。ユビキタスやトロンの提唱者である坂村健教授を学部長に迎え、情報通信技術を活用して多様な人やシステムを連携させ、新しい価値を生み出せる人材の育成を目指している。連携の基盤としてCS(Computer Science:コンピュータ科学)教育を重視し、CS初級とプログラミング教育を実施。さらに、日本語・英語によるコミュニケーション力も磨く。2年次以降はビジネス、シビルシステム、エンジニアリング、デザインの4コースに分かれて専門性を身につけ、コースを横断したチーム実習により実社会に適用する連携力を伸ばしていく。

「情報連携学部には、複数の情報やシステムのつなぎ方、そして、それらの活用方法を創造できる人材の育成を期待しています。IoTの発展には、自ら課題を見つけ、『情報』になる前の『データ』を分析して仮説を導き出し、その正確さや実現性を検証する作業が欠かせません。前提や仮説が間違っていることもあるでしょうが、トライ&エラーを繰り返す姿勢が大事。情報通信技術をはじめとする幅広い領域の学びとともに、そうした柔軟性も養ってほしいと思います」

 同学部とともに開設される東京都北区の赤羽台キャンパスは、クラウドベースの教育システムを取り入れた最先端のキャンパスとしても知られる。キャンパスの内のモノをIoT化しているため、紙を貼るタイプの掲示板はなく、デジタルサイネージからリアルタイムで情報を得ることができる。また、建物に入る際は個人のSuicaやPASMOなどのFelica対応ICカードが鍵になる。さらには、図書館は紙のないデジタルライブラリーで、学生は自らのノートパソコンなどで閲覧・学習できるという。「連携」の力で社会的課題を解決する未来へ、東洋大学の新たな挑戦が始まる。

株式会社ウフル 専務執行役員
IoTイノベーションセンター所長 兼 エグゼクティブコンサルタント
八子 知礼(やこ・とものり)
松下電工株式会社(現 パナソニック株式会社)で通信機器の企画開発や新規サービス事業の立ち上げに従事した後、シスココンサルティングサービス シニアパートナーなどを歴任。通信・メディア・ハイテク業界中心のビジネスコンサルタントとして新規事業戦略立案、顧客・商品・マーケティング戦略、バリューチェーン再編などを多数経験。日本初の「モバイルクラウド」の提唱者として当該領域およびその延長線であるM2M/IoTビジネスの立ち上げも多数経験。