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ホーム > キャンパスナウ > 2017 盛夏号 SPECIAL REPORT

キャンパスナウ

▼2017 盛夏号

Feature

地域を育て、地域が育てる 早稲田の地域連携

 早稲田大学は、国内外のさまざまな地域と連携し、高い研究力や広い視野を持った人材をもって、地域の課題解決に取り組んでいます。教職員、学生、校友が地域の課題を解決することで地域を育てるだけでなく、取り組みを通して学生や大学も育っていく双方向性の連携が特徴です。この特集では、早稲田ならではの地域連携の幅広さや、一つひとつの取り組みの深さを紹介します。

Pickup Story ともに地域を育てる

 研究、ボランティアプロジェクト、サークル活動―学内のさまざまな団体が取り組んでいる地域連携事例をピックアップし、携わる人の思いに迫りました。

01 高齢化と過疎の現実を知り
農村集落の課題解決に挑戦する

村の高台から木島平を見下ろす

プロフェッショナルズ・ワークショップ
木島平村プロジェクト

理工学術院 統合事務・技術センター 研究総合支援課
前田和宏

 企業や自治体が抱える問題について、早稲田大学の学生が現場のプロフェッショナルとともに課題解決に取り組み、学生ならではの自由な発想で問題解決の提案を行う「プロフェッショナルズ・ワークショップ」。2007年に、産官学連携の新しい形を目指して立ち上げられた教育プログラムだ。そのひとつに、今年9回目を迎える長野県・木島平村の自治体との連携プロジェクトがある。公募で集まった約10人の学生が木島平村に滞在しながら、現地調査を通して、高齢化と過疎という課題を抱える農村集落の現状を理解し、村の活性化につながるアイデアを提案する。学生たちは、この難しいテーマをメンバーと議論しながらとことん突き詰めることで、視野を広げ、将来のキャリアにもそれぞれに影響を受けている。

 プログラムを企画・運営するのは、普段、地域貢献とは全く別の仕事をしている本学の若手職員だ。3年目の職員研修の選択肢のひとつになっていて、1年間従事する。木島平村役場と連絡を取り合ってテーマを決め、募集業務を行い、現地調査に同行して学生のフォローを行う。3ヵ月にわたる業務は、研修としてはなかなか負担が大きいともいえるが、学生との接点を持ちたいという理由で、あえてこのプロジェクトを選んだのが前田さんだ。「プロジェクトの運営を通して学生たちに頼られながら、彼らの成長を目の当たりにできたことは、心が震える感動的な経験でした」

フィールドワークの様子。集落に入り、出会った村民にヒアリング

 現地調査では、学生たちが集落を歩き、アポなしで住民を訪ねて聞き取り調査を行う。村では、毎年やってくる早大生を大歓迎。若い学生たちが真剣に話を聞いてくれることが、楽しく、刺激になっているという。そこにあるのは「来てくれてありがとう」という純粋な気持ちだけ。「村の魅力は何ですか」という学生の質問に住民たちは「この村には何にもないよ」と答えるが、学生たちはその時点で既に、美しい風景や人々の優しさ、おいしい野菜のある木島平村にすっかり魅了され、地域のために役立ちたいという思いを募らせている。大学に戻ってからも毎週集まって議論を重ね、最終報告会では村長をはじめとする村の人々を前に、堂々と熱のこもったプレゼンテーションで、村の政策に参考にしてもらうための提案を行った。

 そんな学生の様子を見守り、活動を記録してきた前田さん。1年間の職員研修が終わっても、学生たちと木島平村の人々とのふれあいが忘れ難く、今年は有志としてプロジェクト運営に関わっている。

料理体験の様子。木島平の郷土料理「笹寿司」の作り方を教えてもらう

「学生と私たち職員が木島平村から得てきたことは計り知れません。夏になるとやってくる若い学生たちとのふれあいを喜んでもらうだけではなく、学生の提案がより村の役に立つものになるように、一歩踏み込んで考えていきたい。継続性を持った住民のためになるプロジェクトにしていきたいですね」

 9年目を迎えた木島平村と早稲田大学の関係。これまで築いてきた信頼の上に、新たな連携の形が広がっていくことが期待されている。


02 地域と“ よそ者”がトップブランドを育て
日本の林業を底上げする

吉野の山林にて。良質なスギやヒノキが育てられている

理工学術院創造理工学研究科
古谷誠章研究室
奈良プロジェクト

理工学術院教授
古谷誠章

 奈良県南部の吉野郡に、500年作り続けられている木材「吉野材」がある。吉野材は丈夫で見た目も美しく、国産の材木としては最高級品だ。その吉野材を支える林業や製材所などの周辺産業が、近年の木造建築の減少や価格競争から瀕死の危機に陥っている。「肉に例えれば松阪牛クラスの、木材のトップブランドがなぜ売れないのか」。建築デザインを専門とする古谷誠章教授は、2010年に奈良県から林業再生の依頼を受け、建築デザインによる吉野材の活用促進をテーマに奈良プロジェクトを始めた。

 木造建築や木質の研究は、古谷教授の研究テーマのひとつ。林業衰退を食い止めるには「地域の木を地域の技術を使って地域に生かす地産地消がカギ」という。吉野材に関しても、研究室では建築デザインの提案を通して地産地消を促そうと考え始めた。「高級すぎるイメージの吉野材が多くの人に親しまれるには、デザインだけではなく、違う接点も必要だと感じていました」

「ハウスビジョン2016」で展示した新しい木質空間デザイン

 デザイン以外のアプローチを求め、学生とともに吉野郡を訪れると、目に留まったのは吉野材が作られてきた背景。節が少なくまっすぐで、年輪の密度も適度な吉野材は、酒樽に最適な木材として作られてきた。育成には手間をかけており、苗木を通常の木よりも密集させることで成長を妨げ、20年ごとに間伐してゆっくり育てる。すると、数十年で目の詰まったまっすぐな木材が育つ。「つまり、おいしいお酒を飲むために時間と手間をかけてきた。話を聞いて、私は吉野材をすっかり気に入ってしまいました」

 研究室では建築デザインのほか「吉野材の持つストーリーを消費者や建築関係者に伝え、値段以上の価値を感じてもらおう」と、吉野林業の見学ツアーやイベントを企画。昨年夏には、東京・お台場で数万人規模の展示会「ハウスビジョン2016」にも参加し、首都圏でも「吉野材は値段以上に魅力ある木材だ」と注目を集めた。

 東京から来た研究室メンバーは、現地から見れば「外部の人」。あえて外から地方の課題を考える意義について、古谷教授は「地域の人だけで地域の問題に向き合うばかりでは、起死回生の一手は出ない。距離のあるよそ者、学生たちのような若者、しがらみなく発言できる人の『よそ者、若者、ばか者』の力を借りることで、新しい考えが生まれる」という。吉野では、地元でも使われないほど吉野材の消費が落ち込んだことで、林業と周辺産業が連鎖して衰退している。古谷研究室の新しい風が吹き込むことで、地元から少しずつだが木造建築への意識が変わり始めた。プロジェクトは2年限りとされていたが、その後も奈良県から「プロジェクトを継続してほしい」と頼まれた。

吉野材の活用について提案する研究室メンバー

 奈良の評判を聞きつけ、研究室には他地域からも「林業再生に協力してほしい」と依頼が舞い込む。日本全国が、地場の林業の衰退問題を抱えている証拠だ。それだけに、古谷教授は使命を持ってプロジェクトに取り組んでいる。「まずはトップブランドである吉野材の認知度を上げることが目標。いずれは、木材を身近に取り入れる伝統を日本が取り戻せたら」

 ひとつの木材を通して、日本の林業の未来と真剣に向き合っている。


03 ひとつの島の子どもたちから
世界を変えるヒントが見える

チャンスセンターの子どもたちと

平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)
ボルネオプロジェクト

平山郁夫記念ボランティアセンター准教授
岩井雪乃

「“かわいそうな人”を助けるのがボランティア。そんな考えが学生の中で変わっていくのを感じました」WAVOCの岩井准教授は振り返る。学生主導の地域貢献活動であるボルネオプロジェクトは、マレーシア・ボルネオ島で始まり、今年で11年目を迎える。岩井准教授はプロジェクト設立当時からの担当教員だ。

 マレーシアは成長著しい新興国で、GDPは隣国フィリピンの約3倍。そのためフィリピンから移民が多く流入し、その半数は不法といわれる。特にボルネオ島は道路や建物の建設が盛んで、建設現場で働く不法移民が多い。その子どもは公教育を受けられず、政府の取り締まりを逃れて暮らしている。プロジェクト初期メンバーの学生は、「不法状態の子どもたちのために何かしたい」と支援を決めた。活動内容も学生が話し合って決め、当初は移民の集落のゴミ拾いだったが、現在は、より継続的に関われる教育支援に移行した。年に2回3週間渡航し、建設現場で働く移民の集落で、2~15歳の子どもが通う私設の寺子屋「チャンスセンター」を中心に教育支援を行う。支援は現地の大学生の団体と協力し、子どもたちの興味をひく企画を立てている。

現地の大学生を交え、子どもたちの支援方法を検討する

 初めて集落を訪れた学生は、崩れそうな家や劣悪な衛生環境を見て驚き、そこにいる子どもたちが満面の笑みで学生に飛びついてくるのにまた驚くという。岩井准教授は「学生たちは、子どもの生活環境から感じる“かわいそう”なイメージと、目の前の笑顔とのギャップに戸惑ってしまう。子どもたちは一見、幸せそうに見えるからです」と話す。教育活動においても、言語の違いや期間の短さなど課題が多く「ここで私たちにできることは本当にあるのか」と、毎回多くの学生が壁にぶつかる。

 しかし、「その壁は学生自身が乗り越えていける」という岩井准教授。ある学生は、昔自分が経験した大学生とのキャンプを思い出し、「たくさん遊んでくれた大学生のお兄さんに、今度は自分がなりたい」と、子どもとできる限りふれ合った。別の学生は、子どもたちのために初めての学力調査を実施した。「新興国のかわいそうな子どもを、先進国の私たちが助けるのではなく、目の前の笑顔弾ける子どもの暮らしを、少しでも良くしたい。活動の動機が純粋な思いに変わり、行動につながるのです」

子どもたちへのリサーチ活動

 学生の思いは子どもたちに伝わり、手紙を書いてくれる子や、帰国後に学生と連絡を取るために英語を勉強する子も現れた。協力するマレーシアの学生たちも、「私たちは移民の事情をよく知らないままでいた。教えてくれてありがとう」と話してくれた。

 ただ、学生の思いは3週間の滞在では消化しきれない。ある学生は「もっと何かできたはずだと悔しさが残ってしまった。社会に出たら発展途上国に貢献できる仕事をしたい」と就職活動に臨んだ。「移民や外国人労働者の問題は、実は日本を含む世界中の国が抱えている。ボルネオの子どもたちは、そのことを日本とマレーシアの学生に気付かせてくれる存在なんです」と岩井准教授。これから先、学生たちが社会で活躍するとき、プロジェクトの本当の成果が見えてくるだろう。


04 「私たちはお客さんじゃない」
村の思いに応えて未来をつくる

山作業を終えて

思惟の森の会
岩手県田野畑村で育林活動・地域交流

思惟の森の会幹事長
人間科学部3年
吉田文蒔子(ふじこ)さん

 太平洋に面し、岸壁、平野、山間部と多様な地形を持つ岩手県田野畑村。人口約3,600人の村に、植林・育林と地域交流活動を行う学生サークル「思惟の森の会」が50年もの間通い続けている。「山を登ったら、その向こうに海が広がっている。景色のコントラストが一番の魅力なんです」。幹事長の吉田文蒔子さんは目を輝かせる。

 都会生まれ、都会育ちの吉田さん。中学校の修学旅行で訪れた東北地方が気に入り、その後の大震災の報道を見てから、大学では東北のために活動しようと決めていた。「思惟の森の会」は、1961年に山火事で焼失した田野畑村の山林の復興のため、当時の商学部助教授が学生とともに植林活動に参加したのが活動の原点。年3回、村の寮に滞在し、植林・間伐・枝切りなどの林業と、村の行事への参加などの交流活動を行う。毎日山の急斜面を登って力仕事もすると聞き、物珍しさも手伝って入会した。

急な山道を進み、山作業の現場へ向かう

 初めて村を訪れた吉田さんは、村の人の距離の近さに驚いた。知らない人でも、道端で「早稲田さん?」と気さくに声を掛けてくれる。仲良くなれば、家に招かれたり、「次はいつ来るの?」と聞かれたりもする。「長年住んでいる東京には、こんな人付き合いはない。関係のない私たちを、なぜこの村は温かく受け入れてくれるんだろう」と戸惑いながらも、初めての農村暮らしを心地よく感じた。日を追うごとに村の人から聞こえてきたのは、「学生の力を借りて、村をより良く変えたい」という思い。自然と「この温かい人たちのために、何か役に立ちたい」と思うようになった。

 2年生の夏、吉田さんは、村の海産物を東京で販売する企画を思いついた。「利益も出るし、村のPRにもなる」と、名案のつもりだった。ところが、東京から来て村でレストランを営む経営者に考えを話したところ、「利益が出ても、継続しなければ一瞬の満足しか残らない。村への影響を考えて企画を立てなさい」と言われてしまった。「考えが自己満足だったことに気付き、はっとしました。私たちがやりたい地域貢献ではなくて、村の人のニーズに応えることが大切なんだと。もっと村の人の声を聞こうと思いました」

12月、第51期(2016年12月~2017年12月)年間目標を決めるミーティング

 考えを改めた吉田さんは、村の人の話にさらに耳を傾けるようにした。何に困り、何を望んでいるのか。気になったのは、「村の子どもたちにもっと多様な体験をさせたい」という要望だった。都会に比べ、見学や体験学習の設備が十分でない村では、子どもたちができることも偏ってしまう。教育に興味のあった吉田さんは、「自分の力を生かして役に立てるかも」と、今年度の活動に向け企画を考え始めた。

 もともと経済の勉強のために進学した吉田さんだったが、いつの間にか、自らの学びのテーマは「地方の子どもたちに豊かな体験をさせる教育」に移っていた。将来は教育システムの考案に携わりたいという。「私たちは村のお客さんじゃなく、遊びに行くのとは違う。何が必要か聞き取り、それに応えることで、私たちを受け入れてくれた田野畑村の役に立てると信じています」

 地域に求められ、学生が自分たちなりに応える関係が、村をより良い姿に変えるかもしれない。

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