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キャンパスナウ

▼2017 早春号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究を取り上げて紹介します。

山野井 順一
商学学術院 准教授
略歴はこちらから

個人・企業の意思決定から国の政策まで
データで見える日本の経営学

山野井 順一/商学学術院 准教授

経営判断を数字で切る「定量的研究」

 経営学の中には、大きく分けて経営戦略論と、組織行動論の2つがあります。企業の合併や経営方針など、企業レベルの意思決定について研究するのが経営戦略論。組織行動論は、企業の中でも小さな課やチーム、個人の行動について研究します。私が専門とするのは経営戦略論で、特に企業間競争と提携、合併買収、国際展開などがテーマです。企業は合併するとパフォーマンスが上がるのか下がるのか、海外への進出は株価に影響を及ぼすのか、経営判断に関わるようなテーマを取り上げることが多いです。

 研究方法にもさまざまな手法がありますが、私はその中でも数値で物事を検証する「定量的研究」をしています。例として、「日本企業における不祥事の要因は何か」という研究を挙げましょう。「定量的研究」をする場合、数字で示せるデータを取得し、それをベースに分析を進めます。この研究では、不祥事の報道や発表資料と、その企業のさまざまなデータを集めて照らし合わせ、どのデータと因果関係があるかを調査しました。その結果、企業の持株比率が不祥事の多少と関係するというデータが出ました。「外国人の持株比率が大きい企業ほど不祥事は多くなり、経営陣持株比率が大きい企業ほど不祥事が減る」ということです。反対に、経営陣にストックオプション(自社株購入権)が与えられていると、経営陣持株比率が不祥事を減らす効果は小さくなるということも分かりました。外国人の持株比率が大きいと不祥事が増えるというデータの関係性からは、会社の実態を理解せず、社員に無理をさせた結果不祥事が起こる、ということが考察されます。定量的研究は、こうして手を尽くして集めた数字が一つの方向を示してくれたときに達成感を覚えられる研究といえるでしょう。新聞記事を一つひとつ読んだり、膨大なデータを集計したり と地道な作業も多いですが、この達成感を得るためにも、研究のこだわりとして、データの収集や分析に妥協せず最善の手段をとることにしています。

企業間合併における組織文化の統合のプロセスについての論文と、企業間提携の解消についての研究

企業だけでなく国の政策にも役立てる研究

 データが意外な結論を示した研究例もありました。「日本企業が海外進出する際、各国の設ける環境規制がどう関係するか」というテーマです。日本企業が海外に工場をつくる際、排水や廃棄物処理などの規制が厳しい国に対しては、規制クリアのために手間やコストがかかるため、一見進出しにくいように思われます。しかしデータによると、環境関連技術に長けた企業ほど規制が厳しい国に進出していることが分かりました。さらにその傾向は、より多くの国に進出している企業ほど強いのです。これは、企業からすれば、規制をクリアした後は他の企業が参入しにくい市場で戦うことができ、より有利な状況を作ることができるからでしょう。さまざまな制度の国に進出している企業ほど、ノウハウが蓄積されて応用が効くため、どこにでも進出しやすいということも分析できます。この結論は、国が海外投資を集めたいときの論議で役立つはずです。門戸を開こうと環境規制を緩和するより、厳しい環境規制をクリアした優良な企業に期待ができると考えられるためです。

 このように、経営学は企業の経営だけでなく国の政策にも役立つような学問です。現在私は、企業に協力して研修の効果測定を行ったり、企業の課題を定量的に分析したりする手伝いもしています。経営学を社会に生かせるチャンスは、まだまだあるのではないでしょうか。

環境規制と当該国への進出の関係性
環境関連の技術能力による差異

経営陣持株比率と企業不祥事の関係性
ストックオプションの有無による差異

日本の経営学と早稲田出身の実業家の地位を高めたい

経営陣持株比率と企業不祥事の関係性
ストックオプションの有無による差異

 日本にいる経営学の学者は少なくないのですが、世界に出てみると、日本の経営学のプレゼンスはまだまだ低いと感じます。日本企業の評価は世界的に見ても高いのに、もったいないことです。私も参加しているアメリカの経営学の最大の学会では、8,300人の報告者のうち、日本からはたった28人でした。英語への抵抗があるのも課題と思いますが、日本の経営学者はもっと世界に出ていいはずです。この状況を変えたいという思いから、私自身が世界に出るのはもちろん、学生に対しても英語への抵抗をなくしてほしいと意識して指導しています。開設2年目となるゼミでは、アメリカでMBA※取得のときに使う教科書を全員の教材として読んでもらっています。自力で読み解くことで英語への苦手意識をなくすと同時に、読めたときに「やればできるんだ」という成功体験を実感してほしい。自らの成功体験を積み重ねることで、卒業後、どんな道に進んでも「やればできる」と主体的・積極的に取り組んでほしいからです。

 また、日本の経営学と同様、地位が高まってほしいのは早稲田出身の実業家です。実業界における早稲田のポジションを数字で分析してみると、2015年、日本の上場企業における社長の出身大学は、早稲田が173人、慶應が270人、東大が179人でした。役員は、早稲田が1,889人、慶應が2,132人、東大が1,857人。卒業生の数を考えると、早稲田出身の実業家はもっといてもいいのではないでしょうか。私の願いは、今ある大企業の経営層に早稲田出身者が増えてほしいというだけではありません。今は数字に表れなくても、小さな企業を起こして育て上げ、明日の上場企業をつくるのが早稲田出身者であってほしいですね。

※ Master of Business Administration。日本語では経営学修士と呼ばれ、世界各国のビジネス系大学院(ビジネススクール)にて一定の単位を取得することで授与されるビジネス学位

山野井 順一(やまのい・じゅんいち)/商学学術院 准教授

2000年早稲田大学商学部卒。2004年に早稲田大学商学部助手。米・コネチカット大学助手、香港中文大学博士研究員を経て、2012年に中央大学総合政策学部特任准教授。2015年から現職。

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