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キャンパスナウ

▼2017 新緑号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究についてお話を聞きました。

大稔哲也
文学学術院教授
略歴はこちらから

もはや、中東・イスラームについて
知らないではすまされない

大稔哲也/文学学術院教授

 日本でイスラームというと、近年はとかく不穏なイメージを持たれがちですが、できるだけ偏見を疑い、複眼的に視る必要があります。私は大学3年の時にソ連領中央アジア旅行で中東・イスラーム文明に触れ、以来研究対象としてきました。現在は、エジプトやイラク・シリアの歴史・社会を中心に、とりわけ3テーマで研究を進めています。第1は、エジプト・カイロ郊外の「死者の街」と呼ばれる墓地区について、写本や文書を駆使して歴史を読み解くこと。ここはかつて、エジプト随一の行楽地でしたが、今や150万人が墓に住むスラムです。私は同地の歴史や聖者崇敬、エジプト人の死生観や精神史・都市史などを考察してきました。

手書きのアラビア語の書物


大稔教授の研究室。書籍のほか、中東で入手した置物も並ぶ

 第2は、カイロの庶民地区オールド・カイロの庶民生活研究。ここはカイロの中で最底辺の地区であり、現地に住み込み、人類学的フィールドワークを進めてきました。オールド・カイロに通い始めて30年。友人も多く、第2の故郷です。

 第3は、2011年のエジプト革命を中心に、「アラブの春」を見つめ直すことです。私は革命直後の衝突や民衆デモの現場に多く立ち会ってきました。その折の体験と文献研究を総合して、現在、研究にまとめている最中です。

 研究を進め、現地に暮らす中で痛感されたのは、今日の世界が中東やイスラームと切り離せないつながりや歴史的背景を有していることです。しかし、日本で本格的に学ぶ機会は少なく、情報源も欧米メディアがほとんどなので、実態はなかなか見えません。早稲田も、大隈重信侯が日本の歴代首相で最もイスラームに理解が深かったと評されるにもかかわらず、本格的に学びたいという学生の要望に応えていませんでした。

マリ共和国北西部の岩塩板の隊商と

 この状況を打開したいという私たちの想いが結実したのが、 本年度より文学部と大学院文学研究科に新設された中東・ イスラーム研究コース、そして文化構想学部(多元文化論系) に設置された中東・イスラーム文化プログラムです。これらによって、学部から博士後期課程まで一貫した体制のもとで学べるようになりました。「中東・イスラームの現在・過去・未来を見据える」というテーマのもと、さまざまな方法論で中東・イスラームの歴史・文化や社会、イスラーム教徒との共生、イスラームの在るべき姿などについて専攻することが可能となります。その際に、日本と中東現地の研究者・研究機関を結びつけるのはもちろん、欧米とも協力するトライアングル体制を構築し、交流を密にすることで質の高い研究の国際発信を目指します。同時に、専門的な中東・イスラームの知識を学生に提供し、国際社会で活躍する人材の育成に努めます。さらにコース開設と同時に、文化構想学部・文学部では国連の6公用語の一つであるアラビア語が、第二外国語として選択できるようになりました。

エジプト郊外の「死者の街」

 近年の世界的な傾向として、イスラームの表層をなぞるような現状解説者ばかり増え、本格的研究者の養成については冷え込んでいると、しばしば指摘されます。それだけに、今回、早稲田が本格的な研究コースをスタートさせたことは、世界的に大きく注目されています。ただ、コース設置は必然とも言えます。イスラーム教徒の人口増加は著しく、将来、世界最大の信徒数となるのはほぼ確実だからです。私たちは今日、もはや中東やイスラームについて知らないままではいられません。まずは複眼的に情報を精査するとともに、その文化や歴史的叡智を尊重し、理解を深める必要があると思います。私たちが世界へ向けて研究発信や人材輩出を続けることで、この世界に何らかの貢献ができればと、願ってやみません。

エジプト1月25日革命後のタハリール広場にて

アレキサンドリア図書館での国際会議

大稔哲也(おおとし・てつや)/文学学術院教授

1983年早稲田大学第一文学部卒。東京大学大学院修士課程修了後、カイロ大学留学を経て、1995年に東京大学大学院人文社会系研究科から博士号(文学)を取得。山形大学専任講師、九州大学文学部助教授などを経て、2006年より東京大学大学院人文社会系研究科助教授。2014年より現職。地域研究学会連絡協議会事務局長などを歴任。

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