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キャンパスナウ

▼2014 早春号

SPECIAL REPORT

早稲田の復興支援

—東日本大震災から3年—

2011年3月11日に東日本を襲った大地震から早3年。復興への歩みはいまだ遅々としています。
早稲田大学は地震発生直後から被災した地域の復興、未来のためにできること、すべきことは何かを考えて、学内外でさまざまな支援活動を行ってきました。
あらためてこれまでの活動を振り返るとともに、アカデミックな視点や災害に対する大学の姿勢をお伝えします。

A Study on the Reconstruction

復興・未来へのアカデミズム

1.医療・健康系復興研究プロジェクト

研究代表者:
中尾洋一 理工学術院教授
研究課題 :
大震災がもたらす健康被害の予防へ向けた科学的・社会的対応のためのニーズ調査研究

2.インフラ・防災系復興研究プロジェクト

研究代表者:
柴山知也 理工学術院教授
研究課題 :
東北地方太平洋沖地震津波の被災分析と復興方略研究
連携研究者:
香村一夫 理工学術院教授
研究課題 :
東日本大震災復旧・復興に向けた環境診断および対策技術の提言
連携研究者:
松岡俊二 国際学術院教授
研究課題 :
複合巨大クライシスの原因・影響・対策・復興に関する研究—原子力災害とリスクガバナンス

3.都市計画・社会システム系復興研究プロジェクト

研究代表者:
中川武 理工学術院教授
研究課題 :
文化遺産から学ぶ自然思想と調和した未来型復興住宅・都市計画に関する総合研究
連携研究者:
浦川道太郎 法学学術院教授
研究課題 :
早稲田大学東日本大震災復興支援法務プロジェクト
連携研究者:
早田宰 社会科学総合学術院教授
研究課題 :
大規模災害への復元力のある新たなグローバル社会システムの再構築

早稲田大学では、2011年5月11日、東日本大震災の復興を目的として叡智を結集する中長期の研究プロジェクトとして、3プロジェクト7課題からなる「早稲田大学 東日本大震災復興研究拠点」(拠点責任者:深澤良彰・研究推進部門総括理事)を設立しました。東日本大震災の復興に資するとともに、他地域での同様な災害による被害の最小化にも貢献できうる重要な研究課題として注目されています。同拠点の活動に、WASEDAサポーターズ倶楽部の支援も受けて、大学は年間最大2千万円を3年間助成してきました。ここでこの3年間を振り返り、研究成果と今後の課題について考えます。
http://www.waseda.jp/rps/fas/research-expenses/fukkou.html

各プロジェクトの研究代表者に、研究内容と成果報告を伺いました。

医療・健康系復興研究プロジェクト

復興の先にある未来を見据え
環境汚染物質の長期的影響の評価を行いたい

中尾洋一
理工学術院教授

 当研究プロジェクトは浅野茂隆先生が中心となって立ち上げたもので、①災害時の適正なリスク・コミュニケーションの確立とコミュニティの形成、②災害時医療体制の確保と国際的連携の促進、③災害時に有用なデバイス機器の開発、④災害時に拡散しうる各種有害化学物質が健康に及ぼす影響に関する作用機構の解明・治療法の開発、の4グループによる分野横断的な研究を展開してきました。

 私は津波被害のあった沿岸地域の土壌サンプルの収集・分析を行い、一部について環境汚染物質の拡散状況と生物的への影響を調査研究しています。特にこの分野は化学物質が及ぼす長期的影響の適切な評価法の確立が遅れているため、客観的な規制基準を設けるためにも地道な調査・実験が必要です。環境中に広がった化学物質と健康の因果関係を明確にすることは予防および治療法の確立を可能にすると同時に、健康に影響する化学物質に特化したセンシング機器の開発など他分野の進展にもつながると考えています。

 今後はプロジェクトの成果をイノベーションとして発信し、日本だけでなくアジア地域の医療分野における社会貢献につなげていく必要があるでしょう。復興の先にある未来を見据えて、これからも分野横断型の研究を地道に継続していきたいと思います。

インフラ・防災系復興研究プロジェクト

東北地方太平洋沖地震津波の被災分析と復興方略研究

柴山知也
理工学術院教授

 想定する津波の規模を見直すとともに、想定値に縛られずに、それを超える津波が来襲した場合にも対応可能な避難計画を作成するなど、防災計画の練り直しを提案しています。また津波防潮堤の越流現象の解明や洗屈防止策の検討を行い、津波来襲時に粘り強く抵抗し、頼りになる構造物や防潮林との組み合わせを考案しました。一方で、東北の津波では、防災構造物のみで居住地を守ることは困難であることがはっきりしたため、避難計画の修正というソフト面での対策についても数値シミュレーションモデルを開発して、具体的な避難路の選定方法の提案をしています。

 複合災害への対応を考えると、研究者間の連携を促進し、融合分野を形成していくための仕組みが必要です。これまでに築いてきたカナダ、イギリス、イラン、インドネシア、ベトナム、タイ、スリランカ、タンザニア、ブータンなどの災害研究者との国際ネットワークを緊密にすることによって、①構造物の減災、②複合災害の減災の2テーマについて早大理工を災害研究の国際的な拠点にすることを目指していきます。また、これまでに開発した津波・高潮の予測プログラム、構造物周辺の流動予測プログラム、現地観測、水理実験の方法など、研究成果をパッケージとして世界の災害に応用し、その汎用性を高めたいと考えています。

都市計画・社会システム系復興研究プロジェクト

個人・コミュニティが自然と調和する生き方を考えること

中川 武
理工学術院教授

 当研究プロジェクトは、被災地のコミュニティの復興、再生のために必要な都市・集落計画の方法と地域経済や法務的課題の調和的解決を、都市・建築、社会学、法学系チームの協力により探究するものです。

 私のチームのこれまでの成果は、『早稲田大学ブックレット〈「震災後」に考える〉』シリーズの『文化遺産の保全と復興の哲学』(2012年4月)と『復興まちづくりに文化の風を』(2013年10月)にまとめました。特に岩手県大槌町において、復興のために、伝統芸能・文化財建造物・自然が果たしている役割に注目し、本学と中国の大学の建築学科の学生が現地に入り、地元の自治体や住民との協力のもとにヒアリングや比較調査を重ね、解決に向けたアイデアを話し合うためのワークショップを2012年5月と2013年5月に行ったことは大きな成果です。また、2013年11月には研究院の成果発表を盛岡で行うことができたことも特筆したいと思います。

 私が、現時点で考えていることを誤解を恐れずにいえば、震災復興は、防潮堤の高さを10mから15mにし、地域経済の基盤の再建によって始まるのではなく、自然の恵みを受け、たたかい、それと調和する生き方を個人とコミュニティ・共同体の基礎に、そして文化的創造性や安全性の核心に据えることによって可能となるに違いない、ということです。

連携研究者に研究課題について伺いました。

香村一夫
理工学術院教授

東日本大震災復旧・復興に向けた
環境診断および対策技術の提言

 大きな地震により生まれるさまざまな環境破壊や環境問題に対して「研究面から如何に貢献できるか」を探ってきました。現在は、津波塩害耕作地の復活に向けて、東北地方に分布する火山灰土壌を用いた低コスト・低労力・環境低負荷の浄化法を開発しています。この技術は、塩害で困っている世界の乾燥地域にも応用可能です。世界へ羽ばたける技術としてさらなる改良を試みています。

松岡俊二
国際学術院教授

複合巨大クライシスの原因・影響・対策・復興に関する研究
—原子力災害とリスク・ガバナンス

 私たちの学際共同研究は、原子力安全規制と福島復興をメインテーマとし、大震災と福島原発事故で被災した人々に向き合い、そこから学ぶことで、原子力政策や復興政策と大学の教育研究のあり方について考えてきました。今後も、本学と福島復興を調査研究で結び、多様性を生かした社会イノベーションの創発による持続可能な社会のあり方について研究を続ける予定です。

浦川道太郎
法学学術院教授

早稲田大学東日本大震災復興支援法務プロジェクト

 本プロジェクトは、法学学術院の教員有志を中心に立ち上げたものです。福島県浪江町当局との密接な協力のもと、町民の被災実態調査や慰謝料増額の集団申し立てなどを支援しています。法科大学院生も大きく貢献しており、臨床法学の一端を担ってもいます。今後は他の被災町村とも協力して、災害復旧の進展に伴い生じる新たな法的課題に対応した長期的な被災者への支援を継続する予定です。

早田 宰
社会科学総合学術院教授

大規模災害への復元力のある
新たなグローバル社会システムの再構築

 グローバル社会において大災害からの復元力を確保するためには地方自治体や政府の力だけでは限界があり、海外からの財政的・人的・知的支援が重要となります。農林漁業地域においても、東日本大震災後は海外との交流事業や復興の検証セミナー、医療支援や農水産業機材の提供、水産業視察など多様な支援がされています。これらの参与観察を継続し、支援要素が復興成果となるまでの過程を検証することで、復興政策のグローバルモデル確立を目指します。

各研究分野で活躍する本学教員に「復興」をテーマに寄稿していただきました。

【復興とジェンダー】

村田晶子
文学学術院教授

「生きていくことを支え合う」復興に向けたコミュニティづくりを

 私は、この2年間、福島県男女共生センターからの委託研究事業「復興に向けた地域コーディネーターのコミュニティづくり—男女共同参画社会実現の視点から」の研究代表者として、男女共同参画やジェンダー、専門である成人教育、対人支援職の支援の観点から復興支援に関わっています。痛感したことは、福島への差別的眼差しと、日常に戻ろうとするときに「福島で起きていること」を忘れる傾きがあること。これをいかに考えるべきか、重い課題です。一方で、自治体職員や保健師、女性センターなど各種施設職員、女性団体などの支援職や地域コミュニティのコーディネーターが、福島の現実に向き合いながら日々の営みを語るときに紡ぎ出される「生きていくことを支え合う思想」と出会いました。その一言一言に大学や研究者は何をしなければならないのか、揺さぶられています。

【復興とこころのケア】

本田恵子
教育・総合科学学術院教授

震災後の心のケア 〜被災した子どもの心とともに〜

 直接支援から、傷を抱えながらも健康に生きていくための継続支援へと変化する中、仮設住宅を訪問するボランティアスタッフへの支援と学校現場で子どもたちに生じるさまざまな課題の予防、対応する先生方への支援を行っています。復興に向けて進む人々のエネルギーと発想力は素晴らしい一方で、取り残された人との格差は広がり、仮設住宅内での人間関係のトラブル、子どもたちの非行、犯罪などが増えています。

 研究室の大学院生と共に、1〜3カ月に一度、ボランティアスタッフの聴く力の研修を行い、事例検討や具体的な支援方法を伝えています。また、学校を訪問して教職員の研修を行い、ストレスへの対応が難しい子どもたちの話の聴き方、キレる場面での対応方法について具体的な声かけや対応を継続的に学んでいます。

【復興とマーケティング】

武井 寿
商学学術院教授

存在に寄り添う消費

 宮城県が復旧期と計画した3年間が経過し、この間に数名の東北出身者が当ゼミを巣立ち、卒業生も含め多数の者がさまざまな職種で東北に関わっています。昨夏、複数の課題本を提起しレポートを求めたところ、仙台出身の2名は震災関連の書籍を選択しました。郷里への深い思いと連帯の意識は私たちの想像を越えるものと感じます。

 研究は対象化を基本としています。震災で亡くなった親族の帯を形見としてクリーニングする、カラオケで互いの無事を確認し元気を回復するなど、自分の今と、過去や将来を結びつけて存在を認識することが消費を通じて行われています。地元の人々の失われた日常性を取り戻すには血の通った支援が必要と言えましょう。東北への支援は祈りの気持ちでと考えます。

復興をさまざまな角度から考えるオープン科目

 本学学生が、復興について政治、経済、法律、科学、健康など多角的な視点から考えることができるよう、全学生が受講可能なオープン教育センター設置科目として「早稲田大学発・これからの日本を考える」(2012年度)や「震災復興のまちづくり JA共済寄附講座」(2012・2013年度)などを開講しました。

『早稲田大学ブックレット〈「震災後」に考える〉』を刊行

 「東日本大震災復興支援室」では、『早稲田大学ブックレット〈「震災後」に考える〉』の既刊33冊を、被災5県(青森・岩手・宮城・福島・茨城)の全高等学校約580校(高等専門学校・特別支援学校含む)に寄贈。同シリーズは、東日本大震災の被災地域復興支援のために、主として本学学生・教職員によって行われてきたさまざまな研究・支援プロジェクトを通じて得た知見・思索・活動を広く社会に提供し、その一助に資するために刊行されています。

問い合わせ先:早稲田大学出版部
TEL:03−3203−1551 http://www.waseda-up.co.jp/

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