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浅井 京子(あさい・きょうこ)早稲田大学會津八一記念博物館特任教授 略歴はこちらから

富岡重憲の蒐めたもの
—コレクション常設展示室開室—

浅井 京子/早稲田大学會津八一記念博物館特任教授

 この5月11日、會津八一記念博物館(早稲田キャンパス2号館)1階のホール奥に富岡重憲コレクション展示室が開室しました。旧富岡美術館の収蔵品を通年にわたり展示公開するための施設です。今年度は下記のような展覧会によって、まずこのコレクションがどのような作品からなり、その魅力はどのようなものかをみていただこうと計画しています。

1.「富岡重憲の蒐めたもの」 5月12日~6月29日

 宇佐八幡宮の神輿の障子絵だったという法華経絵(室町時代)2幅、古筆切(注1)、室町時代の春浦宗煕・横川景三や江戸時代に活躍した白隠慧鶴・仙厓義梵など禅僧の書画、唐三彩の馬、日本や中国の陶磁器、埴輪女子像そして近代の母子像。いろいろな分野の作品を一堂に会します。

注1)こひつぎれ
巻子や冊子の形で伝えられた古筆(奈良から室町時代に書かれた優れた書、茶道の流行により観賞用として愛好された)の歌集などを掛軸の形にしたり、手鑑に押したりするために切断したもの

2.「中国陶磁—仰韶期(注2)から清代まで—」 7月4日~9月14日(8月4日~31日休館)

五彩婦人図盤 古赤絵 中国・明時代

 このコレクションの一つの柱が東洋陶磁です。大きな作品を好んだ富岡氏は中国明清時代の大型鑑賞陶磁を数多く蒐集しています。昭和30~40年代に形成された陶磁コレクションで清時代の作品が多いのは珍しいといわれています。また美術館建設を構想するようになったころから、明清時代以前の作品も積極的に購入されるようになったということです。新石器時代の彩陶土器から清時代のものまで、当コレクションの作品によって中国陶磁史の概略を辿ろうとする展覧会です。

注2)ぎょうしょうき
中国新石器時代の一文化期

3.「白隠の書画」 9月24日~11月21日

蛤蜊観音図 白隠慧鶴(1685~1768) 江戸時代

 東洋陶磁とならぶコレクションのもう一つの柱が、いわゆる近世禅書画です。今年度は近世臨済宗中興の祖といわれる白隠慧鶴の書画を展示します。近年、40~50歳代の書画が多数紹介された白隠ですが、本格的に絵を描き始めるのは60代に入ってからと考えられます。画題の豊富さ、60代、70代、80代と年を重ねるに従って変化する書風などをご堪能ください。

4.「旧富岡美術館の近代画」 11月28日~2010年2月4日(12月23日~1月7日休館)

裸婦図 矢部友衛(1892~1981) 1924年(大正13)

 富岡鐵齋、武者小路実篤の作品がそれぞれ数十点所蔵されています。その他橋本雅邦、下村観山、橋本関雪、満谷国四郎などの作品があります。また富岡美術館時代、1920年代を扱った展覧会によく出品依頼を受けた作品に矢部友衛の「裸婦」があります。この作品は富岡美術館でより他館でよく展示されていました。

5.「書の美」 2010年3月1日~4月24日

 1回展にも展示された古筆切や手鑑(注3)「ちり蓮」をはじめ、もう一つの手鑑「文彩」、「勝家伝来文書」の名で伝わる2冊の折本、禅僧の書など所蔵品のなかから書の作品を選んで展示いたします。

 このコレクションは2004年春、會津八一記念博物館に寄贈されました。この5年間、年1回当館の企画展示室での展覧会と常設展示室で紹介してまいりました。ここで富岡美術館のことを記しておきます。財団法人富岡美術館は昭和54年(1979)7月26日、東京都教育委員会から財団設立の認可を受け、同年8月1日大田区山王に開館しました。富岡重憲氏の私邸を改造した美術館で、年4回収蔵品を主体とした展覧会を開催してきました。椿をはじめ四季折々の花が咲く庭も訪れる人たちの目を楽しませていました。そして四半世紀を経た平成15年(2003)12月5日、財団解散が決定しました。

 富岡美術館のコレクションは日本重化学工業株式会社の初代社長富岡重憲氏(18960~1979)が永年にわたって蒐集した作品890件余を基本に、美術館時代に寄贈購入された10余件の作品が加わって成り立っています。富岡重憲氏のコレクション形成は昭和20年代、伊万里の色絵鳳凰文鉢に始まったと聞いています。茶を供することは客人をもてなす一つの形ですが、季節や客人の趣向に合わせて茶碗を選ぶことは茶を供する前の大事な準備でした。そのためか、美術館には高麗茶碗・和物茶碗が各20余碗ほど所蔵されていました。これに唐物茶碗を足せば茶碗類だけで50件ほどになります。富岡氏は茶を喫するのには「茶碗と茶筅があればよい」といわれたとか、今ではこの話の真偽を確かめる術もありませんが、自在に道具組ができるほどには茶碗以外の茶道具類の数は多くありません。フェロアロイ工業の発展に力を尽くし、地熱発電の日本初の企業化を実現し、実行には至りませんでしたが風力発電への夢を提言するなど、実業家をしての気宇の大きさは作品蒐集に際しても、大きな作品への癖を示しました。客人をもてなすための実用の器から始まったかに見える陶磁器の蒐集は、中国明清時代の大型の、いわゆる鑑賞陶磁といわれる作品に移っていきました。昭和30~40年代のコレクションとしては、わが国ではあまり多くない清時代の単色釉陶磁の多彩さも特色の一つです。昭和40年代後半のオイル・ショックの時期、古九谷の大盤ほか何点かの優品を手放したということですが、これ以降、氏の関心は白隠・仙厓などの江戸時代禅僧の書画へ移っていったようです。特に白隠の会下については明治初年頃までの禅師たちを作品で辿ることができます。大徳寺派の僧たちの墨蹟は茶席を意識されて求められたものでしょう。遺された書籍にはクルト・ブラッシュの『禅画』や白隠の『夜船閑話』などのほか、『禅語辞彙』や『禅林語句鈔』といった禅の言葉を読み解いていく時に手がかりとなるものもあり、そこには氏の書き込みもみえます。天佑紹杲の「心々無別心」の一行書がよく床の間に掛かっていたとも聞いています。

市島春城印章コレクションより、未刻印材

 富岡美術館のコレクションはこうして東洋陶磁と近世を禅書画二つの大きな柱とし、そのほか茶道具・仏教彫刻・絵画・書・考古品など多岐にわたっています。また富岡氏の最晩年の蒐集が市島春城の印章コレクションで、病にたおれられる直前までその整理を楽しんでおられたそうです。これは春城が生前1000顆は集めたといっている印章のうちの約700顆からなるコレクションで、會津八一の箱書のある「師古」印や五世濱村蔵六が作った「早稲田文庫」印など本学との関係も深い特異な作品群です。

 このコレクションが會津八一記念博物館に入って以来、先に記した展示活動と共に、『富岡重憲コレクション 名品図録』(2004年)、『旧富岡美術館所蔵 勝家伝来文書』(2006年)、『旧富岡美術館所蔵 禅書画目録』(2007年)、『旧富岡美術館所蔵 市島春城印章コレクション総目録』(2008年)を刊行してきました。今年度は旧富岡美術館の陶磁器を含む會津八一博物館全体の『陶磁器目録』の刊行を目指しています。さらには手鑑「文彩」の公刊も課題の一つです。今後はこのような目録類によるコレクションの公開とともに、この展示室で観ることの楽しさを満喫できる展覧会活動を行なっていきたいと念じています。ぜひ折々に會津八一記念博物館に足を踏み入れてください。

注3)てかがみ
古筆の鑑定家が鑑定のために標準的な古筆切を貼りこんだ帖
公家や武家では子女の嫁入り道具のひとつとなった

早稲田大学會津八一記念博物館 富岡重憲コレクション展示室

開館時間 10:00~17:00(入館は16:30)
休館日 日曜・祝日、大学の休日、展示替日
観覧料 無料
TEL 03−5286−3835 FAX 03−5286−1812
WEB http://www.waseda.jp/aizu/index-j.html

※本文で紹介した図録類は、博物館受付にて販売中。

浅井 京子(あさい・きょうこ)/早稲田大学會津八一記念博物館特任教授

元富岡美術館学芸課長。2004年4月早稲田大学に着任、現在會津八一記念博物館特任教授。