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囲碁世界王者撃破、天元戦に挑戦、AI碁との戦い… 年間最多勝棋士・一力遼七段の大学1年目

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一力七段が小学生のときから通い続けている日本棋院本院。多くの囲碁愛好家が訪れて対局している

一力 遼(いちりき・りょう)/社会科学部 2年

「井山裕太六冠からタイトル奪取を」

 2016年、囲碁公式戦の年間最多勝(47勝)に輝き、賞金・対局料ランキングでも第3位となった期待の若手棋士である社会科学部2年の一力遼七段。一力七段は13歳からプロとして活躍し、「囲碁に専念を」との意見もある中であえて大学に進学したという囲碁界でも異彩を放つ存在です。「同年代と触れ合うことができる大学で学んで、さまざまな人と交流して価値観を広げていきたい」と、“文武両道”の学生生活を送り、2017年3月には世界的に大きな話題となっているAI(人工知能)囲碁とも対戦しました。ますます活躍が期待される一力七段に、新2年生としての抱負を聞きました。

――なぜ早稲田大学に進学したのですか?

 プロの囲碁棋士になってから大学に入学する人は珍しいのですが、私は大学に行くことが棋士生活にプラスになると考え、自己推薦で進学しました。多様性がある早稲田大学は総合的にみて、自分に合っていると感じていました。囲碁界にいると同年代と接する機会がなかなかないので、本当に予想していた通りの個性的な学生がたくさんいる大学で楽しんでいます。

公式戦が行われる日本棋院の対局室「幽玄の間」。奥深くて計り知れないという意味の掛け軸「深奥幽玄」は川端康成による揮毫(きごう)

――囲碁と学業の両立を目指して入学されました。どのような大学生活を送っていますか。

 社会科学部は社会科学全般について多角的に学べる学部で、特に統計などの数字が絡む分野の授業が好きです。囲碁に通じる部分もあると思います。また、経営や経済にも興味があるので、より深く学んでいきたいと思います。基本的に囲碁中心の生活で、市ヶ谷駅近くにある公益財団法人「日本棋院」の本院と早稲田キャンパスを行き来する毎日です。キャンパス内を楽しむ時間があまりありませんが、2・3年生では時間的な余裕も生まれると思うので、“馬場歩き”とかもしてみたいですね

――最多勝をとった2016年、印象に残った対局や出来事はありますか。

 韓国で行われた「農心辛ラーメン杯 世界囲碁最強戦」(9月)で、何度も世界一になっている韓国の李世?(イ・セドル)九段に勝てた事が大きな自信になりました。終始、難しい展開だったのですが最後に僅差で勝利しました。そして初のタイトル戦となった「天元戦」(10月~12月)で、あこがれの井山裕太六冠に挑戦できました。天元戦は五番勝負で三重県志摩市や北海道小樽市、福岡県宗像市など地方の旅館やホテルを巡って対局しました。良い部屋に泊まれて食事もおいしい。囲碁盤に向かってしまえばどこで対局しても同じなのですが、いざ対局するまでは普段対局している日本棋院本院とは雰囲気がだいぶ異なり、新鮮な体験ができました。

――井山六冠と対局して何を感じましたか?

 井山六冠は囲碁界史上初の七冠達成者(棋聖・名人・本因坊・王座・天元・碁聖・十段)で、日本の棋士の第一人者です。体操の内村航平選手のような世界レベルの棋士です。私にとっての大きな目標です。対局は非常に難しい場面が多く、後悔した手もありましたが、勝ちきれなかったというのが現時点での差だと受け止めています。私にもチャンスはあったのですが、そこを勝ちきるのが井山六冠はさすがで、強かったです。

――2017年3月にAI囲碁と対戦する「電聖戦」がありました。AI囲碁に対してはどのような思いをお持ちですか?

 AI囲碁は今、トッププロと同じ実力になっています。昨年「AlphaGo」(※1)が李九段に4勝1敗と勝ち越して衝撃を与えましたが、その新バージョンの「Master」は、世界のトップ相手に60連勝した別次元の強さです。「電聖戦」(※2)のプログラムもトッププロと同じぐらいの実力です。AIの感性は人間とは異なる部分があります。今までの常識では悪いとされていた打ち方であっさりと人間に勝ったりする。プレッシャーもありますが、AIとの対戦ではそういう常識が通じない部分を吸収していきたいです。AI囲碁の性能向上で、囲碁界全体が打ち方を考え直す時期に来ていると思っています。

※1)李世乭九段が2016年3月にAI囲碁プログラム「AlphaGo」と対戦して1勝4敗で負けたことは、コンピューターがハンディキャップなしでプロ囲碁棋士を破った初の出来事として世界的なニュースになった。

※2)2017年3月26日、第5回電聖戦で一力七段は日本製の「DeepZenGo」と中国製の「FineArt(絶芸)」と対戦したが、2連敗を喫した

――実際の対局でAI囲碁の影響を感じることはありますか?

 比較的若手に多いのですが、打ち方にAIの影響が現れている棋士もいます。特に「Master」は全世界のプロ棋士が影響を受けているといっても過言ではありません。

――2017年はどのような年にしたいですか。

 2016年は47勝を挙げて初めての最多勝を取る事ができました。勝ち星数は積み重ねでしか達成できないので、うれしかったですね。大学にも通い始めて、多くのことが経験できた充実した1年でした。2017年は井山六冠からタイトルを奪取することが一つの目標です。そして将来的には長く第一線で活躍できる棋士になりたいと思っています。趙治勲名誉名人は60歳になりましたが、現在も若手棋士にたくさん勝って第一線で活躍しています。また、将棋界には77歳で現役最年長の加藤一二三九段(早稲田大学出身)がいますが、囲碁界では96歳の杉内雅男九段が今も現役です。私も年を重ねても長く活躍できる棋士になりたいです。そのためにも早稲田大学で多様性を学び、多くの人と交流を深めていくことが、囲碁界でも実社会でも生きていく上で大切になると思っています。

(提供:早稲田ウィークリー

2016年4月、早稲田大学入学時、新聞の取材に応じる一力さん(共同)

一力 遼(いちりき・りょう)/社会科学部 2年

【プロフィール】
 宮城県仙台市出身。東京都立白鴎高等学校卒業。5歳から囲碁を始め、2008年に東京に引っ越して勉強と囲碁を両立する生活を続けた。13歳でプロ入りし、17歳3カ月で当時史上最年少の新人王を獲得。2016年10月には史上最年少で天元戦に挑んだが1勝3敗でタイトル奪取はならなかった。どんなときも「最強の手」を選択する激しい碁が好きという。

 

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