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よしもと芸人イ・ウンジ 日本のお笑いにある「ミソジニー」について研究したい

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李 恩枝(イ・ウンジ)/教育学部 3年

「お笑いを通して両国の架け橋になれたら」

 30歳で教育学部に入学した李恩枝(イ・ウンジ)さんは、お笑い芸人。一人で舞台に立つピン芸人として、ライブやテレビをメインに活動している李さんは、動画サイトで見た日本の漫才に憧れ、生まれ育った韓国を離れて身一つで東京にやって来ました。それから9年、荒波にもまれながらも徐々に活躍の場を広げている李さんに、これまでのことや日韓のお笑い事情、そして業界に根強く存在する“差別”などについて語ってもらいました。

――李さんは2008年に来日。日本語学校を経てお笑いの道へ進みましたが、なぜ日本でお笑いをしたいと思ったのですか?

 吉本興業の芸人養成学校「NSC(正式名称:吉本総合芸能学院)」に入りたくて、日本に来ました。高校を卒業した後は韓国・ソウルの大学路にあるお笑い番組専門の劇場で、練習生をしていたんです。実は、韓国でお笑い芸人になるためには、まず放送局所属の芸人になる必要があります。年に1回オーディションがあり、人気の放送局だと2,000人中10人ほどしか受からないという狭き門です。そのオーディションになかなか受からず、すごく落ち込んでいたときに、動画サイトで2006年の「M-1グランプリ」(※吉本興業主催の漫才コンテスト)でお笑いコンビ「チュートリアル」さんが漫才をしている映像を見つけて、それがすごく面白かったんですね。調べたら、チュートリアルの徳井義実さんがNSC出身だったので、本格的に日本語の勉強に取り組み、留学準備を始めました。

 子どものときは、とても暗かったんです。家庭環境が複雑で、祖母に育てられたり、親族がアルコール中毒だったりしたからか、おとなしい子どもでした。でも高校生のときにお笑い番組を見たらとても笑えて、私にもできるかなと思ったんです。それまで人前に出た経験がなかったので、劇場の練習生のオーディションに行ったら、「町にいるどんな人でもお前より面白い」と酷評されました(笑)。それでもなぜか受け入れてもらえたんですが、結局行き詰まってしまい、海外に行けばチャンスがあるんじゃないかなと思ったことも日本留学を決めた理由です。

――2010年4月にNSC東京に入学。実際に入学してみて、どうでしたか?

 日本語もまだよく分からなかったし、礼儀がすごく厳しくて怖かったですね。とにかく「きちんとあいさつしろ」と言われました。その年に、NSCの同期とコンビを組みました。有名な芸人さんもたくさん出場していた「THE MANZAI」(※2011年から2014年まで開催された吉本興業主催の漫才コンテスト)で2年連続予選突破したり、テレビにも出られるようになって、このままうまくいくんじゃないかなと感じたこともあったのですが、思い通りにはならず、2013年12月にコンビは解散することになりました。そのときは本当につらかったです。漫才がやりたくて日本に来たのに、ピン芸人だと漫才ができないし、これからどうやっていけばいいんだろうって。

 お笑いをやろうと思ってNSCに入っても、途中でやめる人はすごく多いです。私の同期は750人ほどいましたが、今も続けている人は50人くらいじゃないですかね。

――そして2015年4月に早稲田大学教育学部に外国学生入試で入学。なぜ早稲田大学へ?

 早稲田大学って韓国ではすごく有名なんですよ。せっかく大学受験するんだったら早稲田にしなよって、いろんな人に言われました。お笑い芸人が大学に入るなら有名なところに行かないと目立たないし、自分のためにならないから。まさか受かるとは思っていなかったのですが、2013年から専門学校の留学生コースに通って受験勉強を始めました。

 最近はお笑い芸人にも高学歴の方が増えていて、勉強に関連するイベントをしたり、学習本を出版している方もいます。そこから生まれる教育の効果ってあるはずで、実際に私もお笑いをやるために日本語を勉強して、お笑いをやっていくうちに大学に行こうと思いました。高校までの学校教育から離れたときに勉強しようという意欲が生まれたんです。それって生涯学習的な考えだなと感じて、教育学部生涯教育学専修を志望しました。入ってみたら、挙げたらきりがないくらい面白い先生方から知らないことをたくさん学べるので、とても楽しいです。今は大学で勉強しつつ、お笑いの仕事と併せて専門学校の留学生コースでTAもしています。大学院にも進学したいですね。

――大学でもお笑いサークルに所属しているとか。

 公認サークル「お笑い工房 LUDO」に入って、たまにライブなどに出演しています。サークルの学生たちは、吉本とはまた違った独自のお笑いをしていて、とても勉強になります。いろいろなアドバイスもしてくれるんですが、LUDOで先輩だった人がNSCで後輩になることもあって、そのときは少し悩みますよね。

 吉本では、先輩は後輩に絶対にご飯をおごらないといけないんですよ。お店などでたまたま出くわしたときでも、おごるか、お金がないときも1,000円でも2,000円でも渡さないといけなくて。自分が後輩のときは良かったのですが、先輩の立場になると大変です(笑)。

――韓国のお笑いと日本のお笑いは、何か違いがありますか?

 日本だとピンとかコンビとか固定のフォーマットがありますが、韓国は個人個人でやる感じですね。あと、日本は漫才やコントの他にも「ものボケ」とか大喜利とかお笑いの種類がいろいろありますが、韓国はコントが多いです。

お笑いライブの後に女性芸人たちと(李さんは写真中央オレンジ色のシャツ)

 また、日本で女芸人としてお笑いをしていると、時々困ることがあります。最近は女性であることを生かしたネタをしている芸人さんもいらっしゃいますが、女性を蔑視するようなネタが多かったり、女芸人はこうあるべきとか、女芸人は“女”を出したら駄目とか、そういう偏見がたくさん存在していて、放送作家さんに直接言われたこともありました。お笑いや放送業界は男社会で、女性に対する偏見や差別が特に根強いと感じます。

 ただ興味深いのが、お笑いライブのお客さんは女性が多いのに、女性を差別するようなネタに笑っている。そこが難しいですね。社会の雰囲気がそうなっているんでしょうね。タブーに突っ込まないと面白くないという考えがあるから、お笑いは、外見をばかにするなど、ブラックな内容になりがちです。お笑いをやっていて思うことは、自分でもそういう風潮を変えていかなくてはと感じながらも、お客さんにウケるために女性差別的なネタを演じざるを得ないということです。

 韓国でも同じです。韓国で活躍している芸人さんが「女のお笑いは面白くない、男芸人の方が面白い」と発言したときは本当に腹が立ちました。個人的に、お笑い業界・放送業界に根強いミソジニー(※女性や女らしさに対する嫌悪や蔑視)について研究したいです。女芸人で、差別や偏見を感じたことのない人は、もしかしたらいないんじゃないでしょうか。そのような現実にありながら、女芸人は人々を笑わせるために頑張っています。

 もう一点思うことがあります。初めて会った人に自分は芸人だと伝えた途端、「ネタやって」「面白いことやって」と言われます。「お笑い芸人は普段から面白い」というのも、一つの偏見ですよね。ネタは舞台で演じて面白いものとして作っているので、普段から面白くなくてはいけないという決まりはないと思います。でも、自分のネタがウケたときはすがすがしいし、「面白かった」と聞くととてもうれしいので、これからもお笑いは続けていきますよ。

――これからは、お笑いライブをメインに活動するのですか?

憧れの先輩「ハリセンボン」のお二人と(李さんは左から2番目)

 はい、特に漫才をやっていきたいですね。実は、9月21日に行われた「M-1グランプリ2017」1回戦に、在日韓国人の先輩方とのユニット「キムチ盛り合わせ」で出場し、突破しました(※残念ながら、10月4日に行われた2回戦で敗退)。M-1グランプリへの出場は夢だったので、うれしいです。今後は、通訳しながらMCができるような人にもなりたいです。またゆくゆくは、お笑いコンビ「ハリセンボン」さんのようにバラエティー番組でも活躍して、コメンテーターなどにも挑戦してみたいですね。

 以前、Twitterで自分の意見を書いたら少し炎上したことがありました。日本の一部を批判したら日本人全体を批判しているように受け取られてしまったんです。そのときは、もっと慎重に発言すべきだったと反省しました。

 韓国人はみんな反日だとか日本人が嫌いとか、実際に接したことがないのにイメージで言う人がいます。でも、実際に韓国に旅行したり韓国人の友達がいたりする人は、そういうイメージは持たないですよね。ポップカルチャーの流行が日韓の架け橋になっているように、日本にいる韓国人としてお笑いを発信していくことで、両国がもっと仲良くなれるきっかけとなれたらうれしいです。

(提供:早稲田ウィークリー

李 恩枝(イ・ウンジ)/教育学部 3年

【プロフィール】
 韓国・仁川出身。仁川情報産業高等学校卒業。NSC東京16期生。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。テレビ出演は「芸人報道」(日本テレビ、2013年5月)「ニッポン元気計画!眠れるスター目覚ましバラエティ“ハックツベリー”」(テレビ東京、2015年1月)など。近年はお笑いコンビ「COWCOW」や陣内智則さんなど、有名芸人のお笑いライブの韓国語翻訳・通訳を務めることも。

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