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堺雅人輩出の早大劇研 設立97年で初の女性主宰「コスパの悪い“一期一会”だからこそ」

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井上 瑠菜/社会科学部 3年

 人気俳優の堺雅人さんら、第一線で活躍している演劇人を数多く輩出してきた名門サークル「演劇研究会」、通称・劇研。創立は、なんと1920(大正9)年までさかのぼります。今年、97年間におよぶ劇研の歴史で初めて、女子学生が率いるアンサンブル(※サークル内団体)が立ち上がりました。12月7日(木)から始まる公演『白に色づく』を控え、連日稽古にいそしむ「露と枕」主宰の井上瑠菜さんに話を聞きました。

「“自作自演”の場所が欲しかった」

――演劇研究会は、早稲田の演劇サークルの中でも変わった方法で演劇活動をしているようですが、その仕組みを教えてください。

 サークル自体が一劇団である他団体とは違い、劇研は、劇団を興すためのサークルです。企画公演で実績を積んだ者が、内部に「アンサンブル」と呼ばれる団体を設立(※)して公演を行い、内外で評価を受けたら劇団として独立するという、独自のシステムを採っています。これまで劇研で発足したアンサンブルには、「第三舞台」や「東京オレンジ」など人気になった劇団も多く、学生演劇からプロを目指すための登竜門的なサークルといえます。

井上さんが初めて企画した公演『せみのさなぎ』。企画公演で経験を積み、アンサンブル「露と枕」を立ち上げた

 劇研員は、入会1年目の「新人」のときは基礎稽古に専念し、2年目以降―私たちは「旧人」と呼んでいます―で希望するアンサンブルに所属したり、自分で立ち上げたりすることができます。

※アンサンブル設立にも、旧人が3人以上集まること、旗揚げ試演会を行うこと、総会で審議の上承認されることなどの条件がある。

 実は昨年末から約1年間、劇研内にアンサンブルがありませんでした。97年の歴史の中でも初めての危機的状況の中、「劇団ボクナリ」というアンサンブルに続き、私が主宰する「露と枕」が立ち上がったんです。アンサンブルは劇研の看板を背負う存在なので、責任を感じますね。

アンサンブル「露と枕」メンバー(井上さんは右から4人目)

――劇研といえば、新人稽古がハードなことでも知られていますね。

 新人は2、3カ月ほぼ毎日稽古をして、舞台に立つ人間としての基礎をたたき込まれます。そこで最初に言われるのは、「自己開放して笑いを求めろ」ということです。恥を捨て、どうしたら人が笑ってくれるのかを突き詰めていくと、自分自身の個性や持っている力が見えてくるんです。その他にも体を作るトレーニングや、大道具や舞台美術制作なども教わります。工具の使い方も学ぶので、みんな日曜大工は何でもできますね(笑)。

 また、入会を認められるためには、大隈記念講堂裏(通称・隈裏)の劇研アトリエの舞台に1人で上がって話をし、旧人やOB・OGを含めた客を満足させるという“儀式”があります。どんなに突き返されても諦めずに何度も舞台に出て、客を笑わせるという役目を果たさなければなりません。そういう厳しい過程を経て、毎年10人前後が入会します。

――そんな劇研初の女性主宰としてアンサンブルを率いる井上さん。なぜこれまで女性主宰がいなかったのですか?

隈裏には、演劇資材が至る所に置かれている

 舞台作業では重い物を運ぶことが多いですし、体力づくりのトレーニングについていけるのも男性が多いです。演劇界全体に言えることですが、必然的に男性の方が優位に立てる現場ではあるのかなと思います。

 また、劇研内でアンサンブルを作るためには、場所と作風とやりたいことが合致する必要がありますが、それを求める女性主宰がこれまでいなかったのではないでしょうか。劇研が体育会系で、少し時代遅れな体質だということもあるかもしれません。例えば、先輩の言うことが絶対だったり、掃除は新人がするとか、稽古場のドアは静かに閉めるとか、そういう細かいルールがたくさんあります。

 私自身について言えば、性別は問題ではなく、劇研から劇団を旗揚げしたいという思いが強くありました。早稲田で演劇をするというのは、中学生のころからの夢だったからです。私の企画公演が面白かったと言って入会してくれた女子が何人かいたこともあり、男性社会だった劇研の中にも味方が多くなっていきました。

 結局は、実力が大切なのだなと思います。自分では「初めての女性主宰」という冠がついてラッキーだというくらいで(笑)、女性であることよりも、劇研の名前を背負って面白いものを作るという方がプレッシャーですね。

――早稲田大学では、2015年に早稲田小劇場どらま館を設立するなど、“演劇の早稲田”復興に力を入れています。一方で、学生演劇を取り巻く環境は年々変化しているように思います。劇研内でも、変化はありますか?

「露と枕」旗揚げ試演会『白に色づく』は12月7日(木)からスタート。詳細は画像クリックしたリンク先からご覧ください

 隈裏という場所も劇研の気風も、特殊なんです。私が入会したときは、他の演劇サークルとのつながりが全然ありませんでした。真剣にプロを目指す人間を育てる組織なので、「遊び半分のサークルなんて相手にしていられない」みたいな感じだったんですよ。

 でも、劇研にアンサンブルがなくなった時期、活動が停滞していくにつれて、劇研員たちもいろいろな現場に入り、他サークルと交流を持ち始めました。6大演劇サークル〔※早稲田大学の演劇サークルの中でも特に歴史と実績がある、劇研、劇団「こだま」、演劇倶楽部、(劇団)森、(劇団)てあとろ50’、(劇団)くるめるシアター〕の演劇祭がどらま館などであれば、もっと交流できるのにと思うこともあります。私自身としては、よい作品を作っていくことで、劇研を盛り上げていきたいですね。

――井上さんが考える演劇の魅力とは?

 演劇は、一期一会。その場限りのものなので、映画や漫画に比べるとお客さんが少なく、その割にかかる費用が莫大(ばくだい)で、コスパが悪いのですが(笑)、生身の人間が目の前にいるので、嘘がつけない、良くも悪くも目の前のことしか評価されないというところが、本当に面白いですね。以前小説を書いてみたこともあるのですが、自分の知らない人に知らない場所で読まれ、著者が意図しない意味にも解釈されてしまう可能性があり、「私のものではない」という印象を受けました。演劇では、目の前のお客さんにストレートに自分の気持ちを伝えられて、余計なものが入ってこない。そこがすてきだなと思います。

――「露と枕」として、また個人として、今後の目標を教えてください。

 もともと劇団を立ち上げたかった理由というのは、私は自分の作品がすごい好きなんですよ。自分で作って自分で演出して自分で主演をするという、まさに“自作自演”の場所が欲しいと思って立ち上げたんです。今回の旗揚げ公演には出演しませんが、これからは役者もしていきたいですね。そしてゆくゆくは、大きな舞台で「露と枕」として公演がしたいです。また、個人的にはテレビドラマの『相棒』(テレビ朝日系列)が大好きなので、いつか脚本を書きたいです。

(提供:早稲田ウィークリー

井上 瑠菜(いのうえ・るな)/社会科学部 3年

【プロフィール】
 茨城県出身。麗澤高等学校卒業。中学入学と同時に演劇活動を開始。脚本・演出だけでなく、役者としても積極的に活動している。2015年に公認サークル「演劇研究会」入会後、2016年5月、劇研内では異例の早さで企画公演『路地裏で犬を殺した』を脚本・演出・役者として上演。2016年12月には、企画公演『せみのさなぎ』にて観客動員537名を記録した。
https://tsuyu-makura.amebaownd.com/

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