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ホーム > ニュース > 朝よりも夕・夜のストレスが体内時計を狂わせる 個体レベルで体内時計への影響を発見

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朝よりも夕・夜のストレスが体内時計を狂わせる
個体レベルで体内時計への影響を発見

 早稲田大学理工学術院(先進理工学部 電気・情報生命工学科)柴田重信(しばたしげのぶ)教授、早稲田大学高等研究所 田原優(たはらゆう)助教らの研究チームは、ストレスが体内時計を乱すことを、マウスを用いて明らかにしました。

 私たちの体のほとんどの細胞には体内時計(約24時間周期の概日時計)が存在し、様々な生理機能に昼・夜の情報を与えることで、生体の恒常性維持に役立っています。一方で、体内時計の乱れは、肥満・糖尿病やがんなどの発症リスクを高めるといわれています。これまでの研究では、ストレスホルモンが体内時計になんらかの影響を与える事が分かっていましたが、ストレスが個体レベルで体内時計にどのように影響を与えるのかは分かっていませんでした。

 今回の研究で、朝よりも夕・夜のストレスが体内時計をより狂わせることが明らかになりました。さらに物理的・心理的ストレスにより脳や末梢臓器の体内時計が激しく乱れることや、耐性の獲得により、ストレスで体内時計が乱れなくなることが分かりました。

 本研究は、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」の早稲田大学「時間栄養・運動レシピ開発」コンソーシアム (拠点リーダー:柴田重信教授)における成果です。また、日本学術振興会科学研究費助成事業、公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンターの支援を得て実施しました。

掲載論文:Entrainment of the mouse circadian clock by sub-acute physical and psychological stress

Yu Tahara, Takuya Shiraishi, Yosuke Kikuchi, Atsushi Haraguchi, Daisuke Kuriki, Hiroyuki Sasaki, Hiroaki Motohashi, Tomoko Sakai, and Shigenobu Shibata

 なお、今回の研究成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に、6月15日午前10時(現地時間)に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

 私たちの体のほとんどの細胞には体内時計(約24時間周期の概日時計)が存在し、それは時計遺伝子によって制御されています。体内時計は様々な生理機能に昼・夜の情報を与える事で、生体の恒常性維持に役立っています。一方で、体内時計の乱れは、肥満・糖尿病やがんなどの発症リスクを高めるといわれています。これまでの研究により、ストレスホルモンであるコルチゾールやアドレナリンが体内時計に影響を及ぼすことが分かっていました。しかし、個体レベルでストレスが体内時計に影響を与えるのかは分かっていませんでした。

(2)今回の研究で新たに明らかにしようとしたこと

 本研究では、ストレスがマウスの体内時計に与える影響を個体レベルで詳細に調べました。つまり、ストレスにより体内時計は変化するのか、ストレスはいつ受けると体内時計に影響があるのか、慢性的なストレスは体内時計に影響を与えるのか、さらにどのようなストレスがどうやって体内時計に影響するのかについて詳細に検討しました。

(3)そのために用いた独自の手法

 マウスの体内時計は、2012年に当研究室で発表した「インビボ発光イメージングによる、生体マウスの体内時計測定法 (Tahara et al., Current Biology, 2012)」により計測しました。これにより、従来の組織培養による測定法に比べ、簡便、かつ正確に、安定に、生体レベルで体内時計を測定できるようになりました。さらに、同一マウスの複数の臓器の体内時計を同時に測定できるのも利点です。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

①ストレスは、脳や末梢臓器の体内時計の時刻を激しく乱す。

 拘束ストレスをマウスが寝ている時刻に2時間負荷した結果、肝臓、腎臓、唾液腺、副腎などの体内時計の時刻が早まる事が分かりました(図1)。またその変化は、脳内の海馬や大脳皮質でも起こりました。

②ストレス暴露のタイミングで、体内時計の応答が異なる。

 ストレス負荷の時刻を変えてみると、朝(マウスの起き始め)には全く影響が無く、夕方では体内時計が遅れ、さらに夜(マウスの寝始め)では体内時計が組織間でバラバラになってしまう事が分かりました(図2)。つまり夜の始めのストレスでは、肝臓と唾液腺で時計の時刻が真逆になり、さらに腎臓では時計振動がストップしてしまい、体の中で時差ボケ状態になっている事が分かりました。

③ストレスに慣れると、体内時計も乱れない。

 週3日間のストレス負荷を5週間続けた結果、ストレスによる体内時計の乱れは見られなくなりました。私たちの体はストレスに対して慣れる機構(ストレス耐性)を持っており、連続したストレス刺激ではストレスホルモンの分泌も弱まります。今回の実験結果は、そのような「慣れ」が体内時計のストレス応答にも存在することを示しています。

④物理的・心理的なストレスが体内時計に影響を与える。

 拘束とは別のストレス刺激として、社会的恐怖ストレス(体の大きな攻撃的なマウスと、仕切りを挟んで対面するストレス)や、高所不安ストレス(高さ30cm以上の小さいステージに乗せられるストレス)でも、体内時計は大きく乱れる事が分かりました(図3)。つまり拘束のような物理的なストレスだけでなく、心理的なストレスでも体内時計が乱れることを示しています。

⑤コルチコステロン分泌、交感神経の活性化により、体内時計が乱れる。

 ストレスの代わりに、コルチコステロン(ヒトではコルチゾールという)やアドレナリン、ノルアドレナリンの投与でも同様の体内時計変化が起きました。つまり、これらのストレスホルモンや交感神経の活性化が、ストレスによる体内時計変動の作用メカニズムであると考えられます。

(5)研究の波及効果や社会的影響

 これらの結果をヒトに外挿すると、朝よりも夕方から夜間のストレスが、体内時計をより乱しやすいので注意すべきだと言えます。夜間交代勤務などのシフトワーカーは時差ボケかつ体内時計が乱れていると考えられていますが、夜勤中のストレス暴露はその影響をさらに強めているかもしれません。一方で、これまで光や食事が体内時計リセットに重要であると考えられていましたが、ストレスはそれに匹敵するパワーを持っています。私たちの体内時計は、光や食事によって常に時刻合わせを行っています。よって軽度なストレスは、体内時計を正しい時刻に保つのに重要かもしれません。運動やトレーニングは、アドレナリン分泌などストレスと似た生理応答を示すので、軽度なストレスとして使用できることが示唆されました。

(6)今後の課題

 実際に人の体内時計がストレスで大きく変動してしまうのか、また慢性的な過度なストレスにより発症するうつ病の患者さんの体内時計も乱れているのか、まだまだ解明するべきことは沢山あります。

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