早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

YOMIURI ONLINE | 読売新聞

  • トップ
  • オピニオン
  • ニュース
  • 研究力
  • 文化
  • 教育
  • キャンパスナウ
  • 早稲田評論
  • English

ホーム > オピニオン > 文化・教育

オピニオン

▼文化・教育

瀧澤 武信(たきざわ・たけのぶ)早稲田大学政治経済学術院教授  略歴はこちらから

人とコンピューターの協調で互いに成長していく
電王戦と世界コンピュータ将棋選手権

瀧澤 武信/早稲田大学政治経済学術院教授

 公益社団法人日本将棋連盟と株式会社ドワンゴ主催で、将棋の「第1期電王戦」が2016年春に行われることになった。この新棋戦は、自主的にエントリーしたプロ棋士とコンピュータ将棋プログラムが「第1期叡王戦(決勝は2015年12月)」と「第3回将棋電王トーナメント(2015年11月)」によりそれぞれ優勝者を決め、優勝者同士が先手後手1局ずつの対戦を行う、というものである。

 ここでは、これまでのプロ棋士とコンピュータ将棋プログラムの対戦とコンピュータ将棋選手権の歴史を述べる。コンピュータ将棋の仕組みについては文献[1][2]を参照されたい。本稿では、プロ棋士の段位等は対局時のもので表している。

 2007年3月21日の「第1回大和証券杯」特別対局でBonanza(保木邦仁氏作)と渡辺明竜王が対戦した。終盤、図1の局面となり、ここから△39竜以下渡辺竜王の勝となったが、この手は、プロ高段者には実際に指す前から読めるが、コンピュータプログラムには読むことが難しい類のものである。渡辺竜王は「この局面になったのは幸運だった」と述べられているが、実力であろう。

図1 大和証券杯特別対局 ▲Bonanza 対 △渡辺明竜王(2007.3.21)

 2012年1月14日に「第1回将棋電王戦」が行われ、米長邦雄永世棋聖(当時公益財団法人日本将棋連盟会長、2012年12月18日ご逝去)とコンピュータ将棋プログラム「ボンクラーズ」(伊藤英紀氏作)が対戦し、「ボンクラーズ」が勝った。初手「76歩」に対して米長永世棋聖が「62玉」(図2)と指して、先手の攻めを抑え込む戦略である。この2手目「62玉」は保木氏が提案した手であり、「Bonanza」に代表される評価関数の自動調整を用いるプログラムに対し有効な「早めに、過去のプロ棋士の棋譜にない手を指して、狂わす」手である。最終的には作戦が破綻して「ボンクラーズ」が勝ったが、この戦略はBonanza系プログラムに対し有効なものと考えられる。

図2 第1回電王戦 ▲ボンクラーズ 対 △米長邦雄永世棋聖(2012.1.14)

 2013年3月23日から4月20日まで毎週1局ずつプロ棋士とコンピュータ将棋プログラムが対戦する第2回将棋電王戦が行われた。第1局はプロ棋士が勝ったものの、第2局、第3局ではいずれも終盤の逆転でコンピュータ将棋プログラム側が勝った。第4局は後手の塚田九段が通常の戦い方では勝ち目がないとみて途中から「持将棋」による引き分けを狙う戦略に切り替えての戦いとなった。控室で観戦していたプロ棋士の方々は「投了すべし」と仰っていたが、結局230手目までで持将棋、引き分けとなった(図3)。第5局は、トッププロ棋士の三浦八段が敗れた。

図3 第2回電王戦 ▲Puellaα 対 △塚田泰明九段(2013.4.13)

 2014年3月15日から4月12日まで毎週1局ずつプロ棋士とコンピュータ将棋プログラムが対戦する第3回将棋電王戦が行われた。2013年11月の第1回電王トーナメント後に提供してからは、プログラムの変更をしてはいけない一方、プロ棋士側は自由に対戦できるというルールであり、一種のハンディ戦である。第3局こそプロ棋士が勝ったものの、プロ棋士側の1勝4敗となった。5局の対戦後、日本将棋連盟の谷川浩司会長がプロ棋士の中堅レベルと言って良い、との感想を述べられた。

 2015年3月14日から4月11日まで毎週1局ずつプロ棋士とコンピュータ将棋プログラムが対戦する将棋電王戦FINALが行われた。今回も第3回と同様に一種のハンディ戦である。第1局第2局はプロ棋士が、第3局第4局はコンピュータプログラムが、最終局はプロ棋士が勝ち、プロ棋士側の3勝2敗で電王戦で初めてプロ棋士側の勝ち越しとなった。図4は第5局▲阿久津主税八段△AWAKE(巨瀬亮一氏作)の21手目▲16香の局面である。この局面からしばらく進むと打ち込んだ角が取られてしまう。先手がアマチュアであれば、そこからでも勝つまでは大変だが、今回は先手が若手トッププロ棋士であるため、容易に勝つことができると判断して、ここで巨瀬氏が投了した。

図4 電王戦FINAL ▲阿久津主税八段 対 △AWAKE(2015.4.11)

 2013年からの経過を踏まえて電王戦を振り返ると、2015年はプロ棋士がいずれも若手有望棋士であり、さらにセコンドにコンピュータ将棋に造詣が深い西尾明六段が当たるという本気度がうかがえる布陣であったこともあり、事前貸出しのメリットを生かして準備万端で様々な戦略を駆使した結果プログラム側が負け越したが、「プロ棋士といえども、十分な準備をもって臨まないとコンピュータ将棋に勝つことは難しい」ことが明らかになり、プログラムの強さを示すと同時に、プログラムがさらに強くなる余地があることも明らかになった(表1、表2)。

表1 コンピュータ将棋略史

表2 プロ棋士とコンピュータ将棋プログラムの対戦結果

 コンピュータ将棋は既に「定跡」などのプロ棋士の研究に活用されている。今後は、プロ棋士の新しい発想に基づく指し方の検証など、さらに活用が進むものと思われる。協調が進み大変有難く、また、うれしいことである。

 コンピュータ将棋の研究から「実現確率探索」(鶴岡慶雅氏、激指で最初に導入)や「Bonanza Method」(保木氏、Bonanzaで最初に導入)などの有力なアルゴリズムが開発された。また、保木氏が2009年にソースコードを開示したことで、コンピュータ将棋の研究が急速に発展し、今日に至っている。

 第25回世界コンピュータ将棋選手権(主催:コンピュータ将棋協会)は2015年5月3日~5日に千葉県木更津市の「かずさアーク」で開催された。解説にいらしたプロ棋士の方々によれば、コンピュータ将棋の指し方はプロ棋士にとっても非常に参考になるとのことである。

 この選手権には国外からの2チームを含む 39チームが参加し、3日間にわたり行われた。今回は、電王戦で3回続けてプロ棋士に勝った「ponanza」(山本一成氏ほか作)が7回目の参加で初の優勝を果たした(表3)。第26回世界コンピュータ将棋選手権は2016年5月3日~5日に神奈川県川崎市の川崎市産業振興会館で行われる。

表3 世界コンピュータ将棋選手権の概要

瀧澤 武信/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】
1951.11生まれ

【学歴・職歴】
1974年3月 早稲田大学理工学部数学科卒業
1977年3月 早稲田大学大学院理工学研究科数学専攻修士課程修了
1980年3月 早稲田大学大学院理工学研究科数学専攻後期課程単位取得後退学
1978年4月 玉川大学工学部助手
1981年4月 玉川大学工学部専任講師
1985年4月 早稲田大学政治経済学部専任講師
1987年4月 早稲田大学政治経済学部助教授
1992年4月 早稲田大学政治経済学部教授
2004年4月 早稲田大学政治経済学術院教授
現在に至る

【著書(共著)】
「人間に勝つコンピュータ将棋の作り方 ―あから2010を生み出したアイデアと工夫の軌跡―」、技術評論社、2012.11(文献[1])
「ファジイ理論 -基礎と応用-」共立出版、2010.8
「経済系のための微分積分」共立出版、2007.3

【YOMIURI-ONLINE】
「"阿伽羅(あから)"をどう読み切るか ―コンピュータ将棋の挑戦―」、オピニオン:教育×WASEDA ONLINE サイエンス、2010.11.15(文献[2])

  • 早稲田大学東日本大震災復興支援室 早稲田大学東日本大震災復興支援室
  • 大学体験web もっと動画でワセダを体験したい方はこちら
  • QuonNet まなぶ・つながる・はじまる、くおん。