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川名 はつ子(かわな・はつこ)/早稲田大学人間科学学術院教授  略歴はこちらから

子どもの権利基盤型の社会的養護をめざして
-子どもたちの夢をはぐくむ奨学金、学習支援のさらなる拡充を-

川名 はつ子/早稲田大学人間科学学術院教授

人生は夢だらけvs夢がもてない

 郵便局の前を通りかかるたび「人生は、夢だらけ(日本郵便グループのかんぽ生命)のポスターが目に飛び込んできます。一方「夢がもてない:養護施設や里親の下で暮らす子どもたち(ヒューマン・ライツ・ウォッチHuman Rights Watch: HRW日本代表土井香苗)2014年発行の調査報告書 とYouTube の動画が、私たち社会的養護関係者の間では流布しています。両親や祖父母などに保護されて育つ大多数の子どもたちの「夢だらけ」の人生に引き比べ、親元で育つことのできない少数派の子どもたちの「夢がもてない」人生…。子どもは親を選べないのだから、人生のスタートからこんな理不尽な不平等があってはならない、と唇を噛んでいます。

すべての子どもが適切な養育を受ける権利をもっている

図1 日本の社会的養護の仕組み

 昨2016年5月の児童福祉法の一部改正(2017年4月1日施行)は、児童虐待防止を主眼として、市町村における子育て世代包括支援センターの法定化(母子保健法)による出生前からの支援に始まり、18歳過ぎて22歳までの自立支援も可能にするよう児童虐待防止法も併用して子ども期の枠を大幅に広げました。また国際標準である子どもの権利条約を前面に据えて、主要先進国並みに施設養護から家庭養育への転換を図るために、都道府県(児童相談所)の業務における里親支援・養子縁組支援の追加などを盛り込んだ画期的な改正になりました。

 親元で育てられないため社会的養護に委ねられる「要保護児童」は全国に約46,000人いますが、その8割余りが施設養護で、里親養育などの家庭養育は2割に届きません(図1)。児童虐待の通報は毎年増え続け、2017年の速報では10万人を超えましたが、社会的養護に委ねられる「要保護児童」の数は、施設の定員、里親登録数に限りがあるため、ほぼ一定で推移しているのです。虐待の疑いが濃厚でも充分な検査や調査を尽くすことのないまま親元に戻され、虐待死事件につながってしまう恐れもあります。

学校化社会と、貧困の世代間連鎖

 かつては格差是正装置であった学校が、現代の日本では格差拡大装置になってしまったと教育社会学者は指摘しており、子どもの貧困と貧困の世代間連鎖も社会問題としてクローズアップされて久しくなりました。食うや食わずの絶対的貧困ではないけれど人並みに暮らせない相対的貧困に陥っている子どもが15.7%(6人に1人)と2009年に報じられ、2012年には16.3%と増える傾向にあります。なかでも母子家庭の貧困率は50%を上回っています。このような貧困家庭では、給食費や修学旅行の積立金、制服代などの諸費用が支給される就学援助制度や、自治体によっては塾に通う費用も援助されていることも知らないことが多く、家庭環境の格差により高校や大学への進学率に大差が生じています。こうして貧困問題から学歴に格差が生じ、低学歴・低収入の親が子どもを学校にも通わせない教育ネグレクトの要保護児童を生みだしやすいという悪循環に陥ります。

 厚生労働省の調査(2014年度)によると、施設の子どもの大学・短大進学率は11.1%。進学後も生活費に困り、中退を余儀なくされることが多いため、卒業できるのはさらにその1割という有様です。

成績による選別のある奨学金と無選別の奨学金

 2016年4月初旬に、早稲田大学が児童養護施設で暮らす子どもたち対象に受験から卒業後の就職活動まで支援する画期的な「紺碧の空奨学金」制度を発足させ、2017年4月入学生から適用するとの情報をいちはやくキャッチした私は、そのインパクトが大きいだけに、「同じ社会的養護下の子どもなのに、なぜ里子は含まれていないのですか?」とただちに奨学課に疑問をぶつけました。その後の奨学課の対応は素早く、まず施設養護の子どもたちには全国児童養護施設協議会(全養協)を通じて広報・募集することができるけれど、里親関係団体にはアクセスできなかったとお聞きすることができました。そこで私が里親界の現状を伝え、関係者や団体をご紹介し、奨学課スタッフによるヒヤリング調査のうえ、理事会に拡充を諮っていただくことができました。

 2017年1月、「紺碧の空奨学金」制度を里親出身者まで拡充する件が理事会で了承され、学術院長会で承認されたとの連絡が届き、あとは社会的養護の子どもたちにこの制度を使いこなして自立してほしい、とドキドキしながら見守っています。ちなみに、初年度は施設から受験して合格した該当者が現れませんでしたし、紺碧の空奨学金は間に合わないけれど「めざせ!都の西北奨学金」等は利用できるとお話ししていた地方在住の里親さんからは「うちの里子は東大が第1志望で、早稲田大学は滑り止め」とお聞きしていたのですが、ふたを開けてみたら東大も早大も不合格となってしまい、合格した遠方の大学で、種々の奨学金を組み合わせて受給し、寮にも優先的に入居させてもらえたので何とか借金せずに入学することができたという報告をいただきました。この事例のように、「紺碧の空奨学金」は早稲田大学に合格したら始まる支援なので、塾通いの費用が工面し難いなどのハンディを負った子どもたちにはハードルが高いことが予測されます。

図2 紺碧の空奨学金のチラシの一部

 一方、社会的養護の子どもたち向けに、従来から学力による選別はしない民間の奨学金制度があり、その幾つかと使い勝手を表1と表2に挙げました。

 子どもたちが将来の夢をはぐくみ、「教育を受け学ぶ権利」に目覚めて個別のニーズにあった奨学金を選び、組み合わせて活用して卒業を果たすためには、単に制度を利用するだけでは済まず、身近にいる若者や大人たちからの多くの支援が必要なことを想像していただけるでしょうか。ことに返済型の場合は完済できるまで、卒業後も寄り添った支援がなければ挫けてしまうかもしれませんので、「実家機能」を発揮することができる里親・養親の存在は貴重です。

表1. 奨学金の種類と利用上の注意

<一般用の奨学金の例>
●日本学生支援機構(保証人の代わりに有料の保証機関も利用できる)
●新聞奨学生制度
●早稲田大学の多様な奨学金(成績や家計状況より選考し、学生10人に1人が利用中)

<要保護児童対象の奨学金の例>
●雨宮児童福祉財団の就学助成(全国社会福祉協議会)
●児童福祉友愛互助会基金=西脇基金(東京都社会福祉協議会)
●NPOアン基金やアニー基金の貸付・相談

<奨学金利用上の注意>
●返済義務の有(貸与)無(給付)どちら?
●返済義務がある場合、免除規定は?利息は?
●重複して申し込むことができるのか?
●いつ申し込むのか?
●いつからお金が振り込まれるのか、それまでの資金計画は?

※詳細は各ホームページを検索してお調べください。

表2. 自立支援のサービス例

受けられるサービスの例
●奨学金、就職祝い金や支度金
●運転免許の取得
●パソコン講座、ひとり暮らしの料理その他の生活術講座
●寄宿制学校や社員寮つき企業の紹介、住宅手当の利用
※市区町村や志望校、養育家庭支援センターなどの窓口に問い合わせましょう。

川名 はつ子(かわな・はつこ)/早稲田大学人間科学学術院教授

お茶の水女子大学文教育学部卒業後、出版社編集部、帝京大学医学部勤務等を経て、2003年より早稲田大学人間科学学術院で子ども家庭福祉(児童福祉)を担当。専門は障害のある子どもたちの社会的養護で、実親と離れて暮らす子どもたちが、家庭的環境のなかで育つよう、施設養護から里親養育・特別養子縁組への転換に「早稲田大学里親研究会」の学生たちとともに取り組んでいる。社会福祉士資格と博士(医学)の学位を活かして、ソーシャルワーカーの養成に当たっている。
絵本『はじめまして、子どもの権利条約』(2017 東海大学出版部)

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