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▼東日本大震災特集

柴山 知也(しばやま・ともや)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

津波被害調査―防災計画練り直しを
防波堤・防潮堤のみでは守れない

柴山 知也/早稲田大学理工学術院教授

(1)上空からの視察と現地調査

 3月19日に上空から見た被災地はどこも泥に覆われ、灰色に変色していました。津波が来襲してから8日ほど経ち、被害の状況も次第に明らかになってきていましたが、三陸海岸では点在する漁村の多くが壊滅的な被害を受けており、全容を把握することは未だに困難な状況でした。私は3月15日と16日に茨城県と千葉県、3月25日から28日まで宮城県と福島県、4月4日と5日に岩手県において津波高さと被害状況の調査も行い、今回の津波のもたらした深刻な被害を強く認識しました。

相馬市磯部の崩壊した海岸堤防

 今回の津波では、津波来襲時に人命を守る最後の砦である防潮堤が各所で破壊され、破壊されなかった防潮堤も津波が乗り越えてしまい、集落を津波が襲いました。田老町の場合、10mの高さの防潮堤を津波が数mも上回り、背後の集落が壊滅しています。山田町船越湾の田ノ浜地区では、高さ7mの防潮堤が数か所で倒壊し、丘沿いの家を除いて、集落の8割ほどが津波に飲み込まれていました。リアス式海岸の特徴である深く切れ込んだ湾を全体として津波から守る切り札として建設された湾口防波堤も、釜石湾口のものは櫛の歯が欠けたように倒壊し、大船渡湾口のものはほぼ壊滅して海中に没しています。

 また、これまで津波が警戒されていた三陸海岸とは異なり、仙台市の沿岸域、名取市、相馬市、南相馬市などの沿岸平野部が津波に襲われたことも今回の特徴です。名取川河口周辺では多くの土地が海水に覆われていました。

(2)視察結果に対する見解

崩壊した釜石港湾口防波堤

 通常、10mを超える大きな津波が来襲した場合、防波堤、防潮堤は1平米当たり数十トンにもなる大きな波圧を受けるとともに、船などの漂流物が衝突し衝撃を受けることになります。今回の場合、震度7の場所があり地震の揺れも大きかったために、津波が来る前に既に構造物が損傷していた可能性も否定できません。私はこれまで、2004年のインド洋大津波、2008年のサイクロン・ナルジスによるミャンマーでの高潮、2010年のチリ津波など、大きな被害をもたらした最近の津波や高潮をすべて調査してきました。しかし、今回の三陸海岸ほど多くの構造物を破壊した津波は、インド洋大津波時のインドネシア・アチェ以外では見たことがありません。

 また、仙台市沿岸部、名取川河口周辺、相馬市などで観察したような、低平地で陸上に氾濫する津波により内陸深く被災する例は、沿岸に低平地が広がるミャンマーやバングラデシュでは高潮被災地で見られたものの、日本では1946年の南海地震以来の経験になります。低平地での津波の教訓は、今後の東南海地震津波への対策を考える上でも重要です。

(3)これまでの防災計画の前提

 これまでの津波防災計画は、歴史上、明らかになっている最大の津波、あるいは今後の地震によって発生が予想される津波の規模を踏まえて、住民の命と財産を守るために準備するという考え方で作られてきました。三陸海岸は、明治三陸津波を含む多くの津波に襲われてきたために津波災害に関する記録も多く、世界で最も津波対策が進んだ地域と考えられていました。ところが、今回の津波は想定された規模を大きく上回るものであったため、甚大な被害をもたらすことになってしまいました。

(4)今後の防災計画策定における課題

 被災地においては地域社会の将来にわたる持続性を考えて、土地利用を変更し、比較的高地に住居を移すことを検討すべきです。2009年9月に津波に襲われたサモア独立国アピア島のウルトギアでは、被災後1カ月程度で、海辺の村落の高地への移転を村落共同体レベルでマタイ(酋長)の主導によって決意し、新しく丘の上での村の建設と住民の移転を進めました。日本の場合には権利の調整などが難しいため、国、県などの行政機関が主導して移転を立案していく必要があります。

女川町の被災状況

 全国レベルで我々が直ちに着手すべき喫緊の課題は、防災対策の策定において想定されている津波の規模を見直すとともに、想定値に縛られずに、それを超える津波が来襲した場合にも対応可能な避難計画をあらかじめ作成しておくなど、日本全国にわたる防災計画の練り直しです。

 具体的には全国の都道府県で、既に作成した津波ハザードマップの再検討を行い、県レベルでの防災計画を見直す必要があります。これまで生起する確率が比較的低いと考えられて防災計画に含まれていなかった地震にも焦点を当て、津波の予測シミュレーションの波源モデルを修正して、来襲する津波の予想波高をより高く設定しなおす必要があるでしょう。このため、既存の津波防潮堤などの防災構造物をさらに嵩上げするハード面での対策強化が必要になります。

 今回の津波では、防災構造物のみで居住地を守ることは困難であることがはっきりしたため、市町村レベルでの避難計画の修正というソフト面での対策も直ちに行う必要があります。これまで身近の避難できる場所として「鉄筋コンクリート造建物の3階以上」と考えられていたものを、今回の被災を踏まえて、6階以上に修正する必要があります。陸上への氾濫が予測される地域では、その周辺にも避難地域を拡大し、さらに予想された津波よりも実際の津波が高く、速い場合にも対応できるように、避難場所の高さと避難に要する時間に十分な安全率を見込む必要もあります。

壊滅した南三陸町

 また、海水が堪った農地の回復策を検討する上では、低平地の田が海水に水没した経験を持つアジアの国々(ミャンマー、バングラデシュ)での被災後の処置が参考になると思います。繰り返しになりますが、日本全体の防災計画を抜本的に見直して、次の災害に備えることが重要かつ緊急の課題であると考えます。

 今回の津波災害は、数百年に1回起こるか起こらないかの本当に大きな災害です。まだ被害実態の全容は明らかではありませんが、私を含む沿岸防災の専門家たちにしても、これほどの災害が日本に起こることを具体的に予測することはできませんでした。沿岸域の復興には多くの困難があることと思いますが、現地の復興を支えていくことが我々の責務であると考えています。

柴山 知也(しばやま・ともや)/早稲田大学理工学術院教授

1953年生まれ。東京大学助教授、Associate Professor, Asian Institute of Technology, 横浜国立大学教授などを経て現職。工学博士。専門は「海岸工学」「建設社会学」。

主な著書に『Coastal Processes』(World Scientific刊)、『建設技術者の 倫理と実践』(丸善刊)などがある。

研究室のホームページ http://www.f.waseda.jp/shibayama/

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